第21話

 湿っぽい空気もそこそこに、俺は改めてイーギに次の目的地を聞いた。


 「おいイーギ。そろそろ次の町について教えてくんねえか?」


 「そうだナ。この下界に来たばっかのときにサ、シジーヌってやつに会ったのは覚えてるよナ?」


 「ああ。」


 そういえば、コイツのスタートはドン勝の初期装備もビックリの全裸だったな。


 「それで、俺達はどんな嘘であの難を逃れたんだっけカ?」


 「確か・・・ギャンブルでスった、とかだったな。・・・え?もしかして、そういうこと?」


 「そういうことヨ!あの話に出てきた隣町は実在するんダヨ!ギャンブルで経済が回る街、シノア!そこが、次の俺達の目的地って寸法ってこっタ。」


 「おお。じゃあ、お前はそこまで考えてあのデマカセを言ったわけか。」


 「ま、そういうことになるナ!」


 「お前って、紙一重の境界線上にいるんだな・・・。」


 俺はイーギの頭脳に疑問を持ちながら、イーギについていった。


 イーギによると、イングべ村は山に囲まれているが、高低差がかなり低い谷が一つあり、それがイングべ村と外界をつなぐ数少ない路の一つだという。だがあまり使われていないからだろうか、ロクな道ではなかった。


 そのうえ面倒だったのは、シノアへの距離が結構長かったことだ。朝から出発し、相当なスピードで移動してるはずだが、街の気配が一切しなかった。


 しかしその分、ギャンブルの街に期待が高まってきた。文字通りの異世界が、ここから始まるのだ。




 シノアに着いたのは出発した日の夜になっていた。


 「お、おお、お・・・。」


 シノアに着いた俺は、まともな声が出なかった。なぜなら、俺の予想の上限をはるかに上回ったからだ。


 顔を上げれば浮いた水路がある。しかも、船が逆さになっているのに、落下せずに進んでいる。


 正面を向くと、わけの分からないアトラクションがたくさんあった。人が、浮いてんぞ!?


 ファッションも奇抜だった。そーいうのには疎い俺でもはっきり分かった。


 そうそう、こーゆうやつだよ!こーゆうのが見たかったんだよ!


 そして何より目を引くのは、文字通りに点在する建物だ。これを見てると、物理法則がちっぽけに思えてしまう。


 まったくもって、目が2つじゃ足りなかった。


 「おい、シイマ。ここ、天界よりもやべーゼ。」


 「マジのファンタジーじゃねえかよ、オイ。」


 この光景だけで、お腹がいっぱいだった。


 俺が無我夢中に目を走らせていると、


 「シイマ、実を言うト、俺もまだここに来たことがねエ。ちょっとここいらをプラプラしていかねえカ?」 


 と提案してきたので、


 「ああ、もちろんだ。」


 と答えた。




 シノアを歩いて分かったのは、この街がド派手な建物とド派手な装置が乱立している中心地と、古き良き下町に分かれていたことだ。


 下町とは言っても、人だかりや建物の密度はイングべ村の比ではない。なんというか、雰囲気が下町なのだ。外にはみ出た席で酒を飲んでいたり、地べたに座って雑談をしていたり。


 そんな光景を見ながらも、治安が悪いといった恐れは全くなかった。


 そうやって散歩を続けていると、何やら人だかりがあった。俺達はその人だかりの中に入り、何が行われているのか見てみた。すると、


 「おいおい!お前ら挑戦しないのか!?この俺に勝てば、賞金10万チャリンだぜえ!?」


 と、腕が人間じゃない男がなんか言っていた。そいつの隣にあった看板を見てみると、


 「腕相撲、勝ったら10万、負けたら1万!」


 と書いてあった。なるほど。そーいうやつか。


 「おい、イーギ。ちょうど宿代が欲しくなかったか?」


 「確かにナ。ついでに、ギャンブルの種銭もいるとこだしなア。」


 そういうことで、


 「俺が出てやるヨ!」


 と言い、イーギが前に進み出た。




 「おい、兄ちゃん。随分と顔と威勢がいいなあ。だが、ガタイはよろしくないようだ。」


 「見かけじゃねえとこ、教えてやるヨ。」


 そう言うと、イーギと腕男がタルの上で肘をついて腕を組み合った。すると、


 「じゃあ、お前のタイミングでどうぞ?」


 と腕男が言ったので、


 「仕方ねェ、お言葉に甘えるとするカ!」


 と言って、イーギが腕を倒し始めた。バトルスタートだ。


 初めは腕男も、


 「おお!?」


 と言いながらも、少し傾いたところで制止をした。観衆は大盛り上がりだ。するとイーギと腕男が会話を始めた。


 「これを耐えるってことはお前、冒険者だナ?」


 「そりゃそうだ。じゃなきゃ、お前みてえな奴に負けちまうからな!」


 「じゃあ、遠慮なくやらせてもらうゼ。踏ん張れヨ?」


 そう言うと、


 「おらぁ、クタバレェ!」 


 と言ってイーギが腕に力を入れた。すると、


 「うおわあああ!?」


 と言いながら、腕男が腕に持っていかれながら体勢を崩した。


 その上、イーギの腕の勢いが強すぎて、腕男の手がタルに当たるや否や、腕がタルを貫き、さらに地面にちょっとしたクレーターを作る激突をした。おいおい、やりすぎだろ・・・。 


 すると、


 「ぐ、ぐおおお!・・・って、痛くねえぞ?まさか、お前?」


 「ヘッ!やり合った後は恨みっこなしってもんだゼ?」


 「ここまでやられちゃしょうがねえ。・・・握手してくれねえか?」


 と言葉を交わし、イーギと腕男が握手を交わした。最初は観衆もクレーターの生成に驚いて静かになったが、握手をした瞬間、どっと歓声が沸いた。金を投げ入れる奴も出た。


 そう。これがギャンブルの街、シノア。同時にここは、人情の町でもあるのだ。 

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