第22話

 「そういや名前を聞いていなかったな。なんて言うんだ?」 


 「俺はイーギってんダ。そんデ、こいつが俺の相棒のシイマダ。」


 「よし!覚えたぜ。俺はしがない冒険者のマーア、よろしくな!」


 あの腕相撲が終わった後、バカが通じ合ったからだろうか、イーギと腕男、もといマーアに友情らしきものが生まれ、近くの居酒屋で二人は語り合っていた。


 イングべ村のギルドとは違い、今いる居酒屋はほぼ満席で、会話であふれていた。


 「どうした、シイマ!もしかしてお前、酒が苦手なクチか?それとも、遠慮してんのか?だったら心配すんな!今日は俺のおごりだ!」


 「おいおい、マーア。お前、俺達に賞金渡した上におごるって大丈夫カ?」


 「大丈夫だって!実はここすげえ安いから、ギャラリーが投げた金で食ってもおつりが出ちまうんだよ。しかもその金を全部くれちまうわけだから、おごらねえわけにはいかねえだろ!」


 「すまねえな、世話になるゼ!」


 勝手に盛り上がってろ。あと俺はアルコールパッチで肌が赤くなったこと、それとアルコールによる脳の萎縮でためらってるんだよ。


 そう考えて目の前の飲料に手を出さないでいると、イーギが俺に肩を回して後ろに振り向かせ、


 「あらかた、飲んだ弊害とかでためらってるんだロ。だが平気だ、思い出してみロ。元の下界には、呼ばれる前の肉体の状態で戻すわけだかラ、アルコールを飲んだって事実は体に残らねえんダヨ。」


 とささやかれた。た、確かにそうだ!


 俺は正面に向き直し、目の前の木でできたジョッキに手をかけ、グビッと一口飲んだ。


 アルコール飲料を飲んだという事実だけで、世界が変わった。よく分からないけど、大人になった気分だ。


 大人の気分になった俺は、さらに飲んだ。いつの間にかおかわりを頼んでいた。




 「おお!いい飲みっぷりじゃねえか!それでこそ男ってもんよ!」


 マーアがシイマにそう言って褒めていたんだガ、俺は少し気がかりだっタ。シイマの様子がおかしイ。


 「なあ、マーア。こいつ、何飲んダ?」


 「ああ、これだな。」


 そう言ってマーアが指さしたやつを一口飲んで味見してみタ。・・・ンン?


 「おい、これって結構強くねーカ?」


 「ああ、そうだな。それでもこいつ、結構なペースで飲んでたぜ、スゲーよな。だってこれ、フツーに強いうえに、酔いが早く回るように改良されてるんだしさ。」


 ヤ、ヤベー。コイツの人生初飲酒がこんなシロモノになっちまっタ。ってことハ、やっぱコイツ仕上がってるよナ?


 「・・・ププッ、プハハハハ!」


 「どうした、イーギ!急に笑いやがって!」


 こいつ、仕上がったら何をしでかすんだろーナ。泣き上戸カ?それとも酔いつぶれてダウンカ?まあイイヤ。どう転んでもおもしろくなりそうダ。


 そう考えて、俺はシイマをモニタリングすることにしタ。するとシイマがふらっと立ち上がり、近くを歩いていたウエイトレスに壁ドンをかましテ、


 「なあ、お嬢ちゃん。俺に給仕してくれないか?」


 と言っタ。コイツ、ナンパしてやがル。すると、


 「えっ!?な、なんで私なんか・・・。」


 「心配はいらない。お前は俺だけ見ればいい。俺はお前の主人なんだからな。全てを俺に委ねろ。」


 「は、はいぃぃぃぃ・・・。」


 とウエイトレスが手で口を押さえて腰を抜かしているト、シイマはすぐカウンターに向かイ、一人で座っていた女に


 「アンタ、一人でいて寂しくないのか?」


 と話しかけタ。


 「寂しくないわ。だって、楽だって感情の方が強いもの。」


 「そうか。じゃあ、一人でいる時に寂しい感情の方が強くなるようにしてやるよ。」


 「あら?こう見えて、私はあなたの思う以上に籠の中の鳥なのよ。」


 「俺が及ばないとでも?安心しろ。解き放つのは得意なんだ。束縛も、感情もな。」


 「・・・ッ!」


 と会話をしてハ、すぐに他の女に向かっタ。


 そんな感じで、こいつはとっかえひっかえに女を探しては口説いていタ。


 「ケヒャヒャハハ!コイツ、酔ったらこーなんのカ!」


 俺はその様子を見て腹を抱えて笑っていた。


 「お前、顔に見合わない笑い方すんだな・・・。」


 そうやってシイマはしばらくナンパをやっているト、急に


 「おやすみぃ・・・。」


 と言ってぶっ倒れタ。暴走が終わったようダ。




 俺はいつの間にか、どっかのベッドで倒れていた。布団まで敷かれていた。少し頭痛がする。


 状況を確認するために起きてみると、そこにはイーギがいた。


 「おい、イーギ。ここはどこだ?」


 「おっ。目覚めたかシイマ。ここは近くの宿屋ダ。お前が酔っ払ってぶっ倒れたもんだかラ、マーアと一緒にここまで運んだんダ。」


 「そうだったのか。そんで、マーアはどうしたんだ?」


 「知り合いの宿屋に泊まるってサ。」


 「そうか・・・。」


 頭痛もそうだが、それに加えて少し頭がフラフラして何も考えたくない。これが悪酔いってやつか。


 「すまねえな、イーギ。寝かせてくれ。」


 「ああ、いい夢見ろヨ。俺もいいもの見れたしナ。・・・ククッ。」


 俺はイーギの含み笑いを気にかけることもできずに眠りについた。

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