第20話

 状況をイマイチ飲み込めてない俺は、草木の陰に隠れてしゃがみながらシイゼテに質問をした。


 「なあシイゼテ、なんで俺達は急に英雄扱いされてんの?そんで、なんでお前も隠れてんの?」


 「実は、昨日のギルド襲撃の件で1階の食堂が使えなくなってギルドが閉まってたんだ。それでギルドに来た村の人が昨日のことを知っちゃったんだ。」


 そういや、レソがさらわれたきっかけってギルドに賊が押し寄せたからだったな。


 「そしたらそのことが村のみんなに知れ渡っちゃって、それを聞きつけた人たちがギルドに押し寄せてきたわけなんだ。」


 ほうほう。


 「それで僕にもその話がやってきたから、とりあえずギルドに向かうと、そこではもう村人たちがワイワイと騒いでいたんだ。」


 なるほど。


 「それで僕に気づいた村人が何があったか聞いてきたから、昨日のことを話したんだ。そしたら村人たちがヒートアップして、僕たちを英雄扱いしだしてお祭り騒ぎを始めたわけさ。」


 「ほう、よく分かった。つまりこの村はおかしいってことだな。」


 「ま、まあそういうことになるね・・・。」


 事情を知った俺は、より一層困った。こんな状況では何を言っても聞き入れてくれないのが基本なので、誤解を解くこともできない・・・ん?


 「なあシイゼテ。お前はあの出来事をどこまで話した?」


 「なんでなんで、って聞いてくるから、昨日あった出来事から君たちが村を出ていった原因まで全部話したよ。」


 ・・・あれ?もう目的達成してね?


 「おい、イーギ。これってさ・・・。」


 「ああ、そうだナ。もうこの村にいる必要がないナ。」


 「ええ!?こんな状況でもうどっか行っちゃうの?寂しいなあ。」


 「まあ確かに寂しいな。でも、別れっていつか来るし。最後に、アイツに挨拶でもしてくるか。シイゼテ、ギルドに裏口とかない?」


 俺はそう言って、シイゼテに案内してもらってギルドに潜入した。




 外とは対照的に、ギルドの中は静かだった。


 様子を見てみると、確かに食堂のキッチンが荒らされていた。それでも、数日あればすぐ復活するだろう。


 すると、俺とイーギに気づいたウエイトレスが、


 「シイマさんとイーギさんですよね?サインください!」


 と言ってきた。すると、


 「おい、何抜け駆けしてんだ!俺にも、この服にサイン書いてくれ!」


 とコックが飛び出てきて、ウエイトレスとガヤガヤしだした。どうやら親子でやっていたようだ。


 その二人に対応していると、二階へ続く階段から、


 「やっぱりあなた達は騒ぎばかり起こすんですね。」


 と声が聞こえた。レソだ。


 「やっぱりここにいたか、レソ。実はな・・・」


 「分かっていますよ。この村を離れるんですね。」


 そう言うと、レソは階段を下り、俺達の下にやってきた。


 「・・・ダメですね。ほんの数日の思い出なのに、寂しくなってしまいます。」


 そうやってレソが言っている近くでは、シイゼテが号泣していた。おいおい、感情移入しすぎだろ。


 「大丈夫だ。アンタならうまくやっていけるし、またここに来るかもしんねえ。その時には楽しく騒いで、いい報告ができるといいな。」


 「はい、そうですね。」


 するとレソが俺に抱き着いてきて、それから離れて、


 「心配ご無用です!」


 と、屈託のない笑顔でニカッっと笑った。俺はきっと、この顔が見たかったんだ。


 「・・・じゃあ、またな!」


 そう言って、俺とイーギはギルドを出ていった。


 出る寸前にシイゼテが、


 「ト、トロコッドさんの診察代はどうするんですか!?」


 と言ってきたので、


 「ツケで頼むわ!」


 と言ってやった。




 スライムの森に着いた俺達は、この後のプランを話すことにした。


 「おい、イーギ。これからのあてはあるのか?」


 「ン?ああ、そうだナ。この山を越えるト、大きな町があル。とりあえず、そこを目指そうカ!」


 「・・・おい、イーギ。お前、泣いてんのか?」


 「いや、違ウ!これは花粉症でナ・・・。」


 「アッハハハ・・・。」




 これから、俺達はこの世界でどれほどの出会いと別れを繰り返すのだろう。


 確かに出会いは面白く、別れは寂しいものだ。


 しかし、錯覚してはいけない。別れは終わりではなく、新たな出会いの始まりなのだ。その出会いの上に、新しい出会いがのしかかってくるだけなのだ。


 それぞれの出会いがピラミッドのように重なるから、思い出なのだ。そのピラミッドの斜面を求めるから、懐かしさなのだ。だから、全ての出会いは終わることなく続き、これからを支えていくのだ。


 次はどんな出会いが重なってくるのだろうか。避けられぬならばそれを楽しんでいこうじゃないか!




 俺達の背中を、心地よい風が押していた。

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