第19話
俺達が扉を叩くと、レソが扉を開け、
「二人とも服が汚れてますけど、何かあったんですか?」
と聞いてきた。イーギとのケンカのせいだ。するとイーギが、
「いやあ、俺コイツにボコ・・・。」
と言い出したので、それを遮るように、
「近くの森ですっ転んじまったんだよ。」
と言った。すると、
「もしよければ、その服を洗いましょうか?」
と聞いてきた。汚い服で家に上がるわけにはいかないので、
「じゃあ、そうさせてもらおうかな。」
と答えたところ、
「分かりました。では着替えを持ってきますね。」
と言い、レソが別の部屋に向かった。
少ししてレソが戻ってくると、
「い、いやああああ!」
と大声を出した。・・・あ。
「そうだった、ここ人んちの玄関だったわ、イーギ。」
「確かにナ。人前では服を脱いじゃいけないんだったっけカ?」
長いサバイバルのせいか、全裸にためらいが無くなっていた。
「これを持って、私についてきてください!」
と言われた。俺達はそれに従った。
レソについていくと、また別の部屋に着いた。そして、
「ここは風呂場です。ゆっくりしていってください。」
と言われた。
俺達が脱衣所で服を脱ぎ、風呂に向かうと、そこには木で造られた風呂とただのシャワーヘッドが一つ、そして外が見える格子があった。
風呂は二人で入ってもくつろげるくらいの大きさだった。こっちは銭湯なんだぞ。何だこの格差は。
それにしても気になるのは、このシャワーヘッドだ。つなげる部分がないので、なおさらどう使えばいいかに困る。
しかも、風呂には水しか張ってない。なんだこれ。何かを試されてんのか?
なんてことを考えていると、
「すみません、説明を忘れてました。シャワーヘッドは、直接持って魔力を込めればお湯が出ます。あと、木の風呂に触れて魔力を込めれば、木が熱を発して水を温めてくれます。」
と外からレソの声が聞こえた。
俺はこの世界の技術に唖然としすぎて、シャワーを浴びて風呂に浸かり、しばらくして、
「このせかいって、ふろ、あるんだ・・・。」
としか言葉が出なかった。イーギが悪魔の姿で満喫していたことにもツッコめなくなっていた。
風呂に浸かった後は、せめてものお返しとして風呂を洗ってお湯を出した。
俺達はレソからもらった寝間着に着替え、前に案内された部屋に戻った。既に布団が敷いてあった。
「オオ!結構いい部屋じゃねえカ。ま、俺んちには劣るがナ。」
と部屋を初めて見たイーギが喜んでいた。
しばらくするとレソがやってきて、
「残り湯でしたが、くつろげましたか?」
と言ってきた。くそ、飲んどけばよかった。
「いやァ、ここまでもてなしてくれて申し訳ねえナ、嬢ちゃン。」
「こちらこそ、風呂を洗っていただいてありがとうございます。服はもう洗っていますので、後は寝るだけですね。ゆっくり休んでいってください。」
と言い、レソは部屋を後にした。
俺とイーギは敷かれた布団に入り、すぐに寝た。寝心地がよかった。
朝になり、俺はイーギに起こされた。
「へえ?朝型じゃないんダ?起きれねえんダ?まあ所詮、お前はそんな奴だよナァ?」
という新種のモーニングコールを食らったので、起き上がりと同時にアッパーをかました。
起きてから布団を畳んだところで、壁に紙が一枚貼ってあることに気がついた。
近づいて見てみると、直接脳内に、
「おはようございます。布団と服は放置して大丈夫です。二人の服は部屋に置きました。あと、家の扉は自動でカギがかかるので忘れ物に気を付けてください。」
とレソの声が聞こえた。正直、メッセージの内容よりもこのテクノロジーの方に戸惑っている。
そんな俺を見透かしたかのように、
「どうだこの下界?すげえだロ。」
とイーギが俺にドヤ顔をかましてきたので、
「お前の功績じゃねえよ。」
と返してやった。
身支度を終えてレソの家を出た俺達は、村人の誤解を解くために発言力のあるシイゼテのところに向かうことにした。
とはいえ、シイゼテがどこにいるのか分からないので、ギルドに向かった。
ギルドの前に着き、そこで目の当たりにしたのは大勢の村人だった。
そのうちの一人にシジーヌがいたので、声をかけることにした。
「なあ、シジーヌ、だったっけか?ここで何が・・・」
「おいお前ら!英雄がやってきたぞぉ!」
シジーヌが俺の言葉に耳を傾けることなくそう叫ぶと、
「おお、お前らか!村を救ってくれたのは!」
「サインくれねえか、サイン!」
「これ、ウチの畑で育ててるノレガよ!ぜひ食べて!」
などと言われ、村人たちにもみくちゃにされた。なぜなのかさっぱり分からなかったが、悪い気はしなかった。しかし、少し癪に障ったのは、その声の中に、
「そこのお前、イケメンだねえ!」
「かっこいいわ、こっち向いてー!」
といった歓声がイーギの方にかかっていたことだ。・・・あっ!あいつ、キメ顔してやがる!
しばらく村人に応対していたが、勢いが収まる気配がなかったので、俺はイーギに目配せをして、大きくジャンプをして村人から離れ、二人で逃げることにした。
すると村人が追ってくるので、どうやって追っ手を撒くか考えていると、イーギが、
「おい、あっチ!」
と指をさした。
その方向を向くと、シイゼテがこっちに来いというジェスチャーをしていたのが分かった。
俺達はシイゼテについていき、村人を撒くことに成功した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます