第14話

 「・・・ハッ!」


 私が意識を取り戻してまず分かったことは、あのリーダー格の男に担がれていたことだ。賊たちは私が目覚めたことに気づかないまま、話をしていたので盗み聞きを試みた。


 「お前ら、獲物を探す時でも油断すんなって言っただろ。」


 「お頭、サーセン。でも、こんな美女に縛られるのはサイコーでしたよ。ゾクゾクしました。」


 「もしかして、羨ましがってるんすか?」


 「バカ言え!お前らはまだ甘いんだよ。結局のところ、男は1周回ってグヘヘ展開が自分が一番やりたいことだと悟るんだよ。」


 「さすがアニキ!おれたちがたどり着いていない領域にいるなんて、そこにシビれるし、あこがれるうゥッス!」


 な、なんて低俗な会話をしているのかしら・・・。


 「それに、コイツが起きたことすら気づかないから、甘いなんて言われるんだよ。」


 「あっ、ホントだ!ボス、よく分かりましたね!」


 バ、バレた!?


 「ヘッ!経験を積めば、これくらい分かるんだよ。」


 「は、放しなさい!」


 私は手に魔力を込め、男の背中に狙いを定めたが、


 「・・・ッ!」


 違和感に気がついた。魔力が出ない。


 「お前の相棒は、このリングかな?」


 「な、なぜそれを!?」


 「俺らはこーゆう代物をことに精通しているからな。本物を見抜けない宝石商がいるかよ?」


 「くっ・・・!」


 「さてお前ら、アジトに着いたらレッツ、グヘヘだぜ!」


 「「イエッサー!」」


 怖い。私は彼らにいったい何をされるのか、分からない。こうなったのもすべて私の力不足が原因なのだ。私が悪いのだ。


 だから、私が全てを負わなければならないのだ。わ、私が・・・。


 「・・・っ!」


 怖い。自分ではできないと分かっているのが怖い。嫌だ、嫌、いや・・・。


 「イヤァーーーッ!誰か助けてぇ!」


 無意識のうちに、私は出したこともないくらいの大声で助けを求めた。私自身、びっくりした。


 「うおっ、うるせえなぁ。わめくんじゃねえよ!」


 そんな言葉が耳に入ったが、頭には入らなかった。もう自分が助かることだけを祈り、大声を出して助けを求めていた。


 「無駄だぜ、お嬢ちゃん。お前のカードは奪ったし、それにここはあのスライムがいる森だ。助けなんざ、来ねえよ。」


 賊の主犯はそう言って、私に振り向くことなくアジトに向かっていった。




 しばらくすると、賊のリーダーの足が止まった。


 「アニキ、どうしたんすか?」


 「今気づいたんだが、あれを見ろ。あんな大木が倒れてんだ。まだアイツは目覚める時期じゃねえってのに、いったいどいつが・・・?」


 「どっかのスライムじゃないですか?立ち止まらないで、先を急ぎましょうよ。」


 「ああ、そうだな。」


 そう言って賊のリーダーが前を向きなおして進もうとした瞬間、


 「オラァッ!」


 という声とともに、後ろにいた賊の一人が蹴り飛ばされていた。背中しか見えなかったが、聞き覚えのある声だった。


 「シ、シイマさん!」


 「声がしたと思ったら、やっぱあんただったか、レソさん。」 


 私の祈りは、通じたのだ。




 俺が一番に心配したのは、蹴っ飛ばした相手が死んでいないかということだ。人を殺したら地獄行きなので、生きていてほしい。


 「ガ、アガ・・・。」


 よし、生きてる!よかったぁ。


 「な、ナニモンだテメェ!」


 レソを担いでいる奴の取り巻き、つまりモブBがなんか言ってきたので、


 「通りすがりのなろうでぇす!」


 と言い、腹パンをかましてやった。すると、


 「な、なんてスピードだ・・・カハッ。」


 と言い、気絶した。人って腹パンでホントに気絶するんだな。


 「ムボ!こいつはタダモノじゃねえ!アレを使え!」


 「分かってますよ、お頭!」


 そう言うと、モブCは袋から粒状の物をいくつか取り出し、それを口に放り込んだ。するとモブCの体が膨れ上がり、トップスが破けた。


 スッゲ、どっかの伝承者じゃん!とワクワクしていると、


 「おい、一度に使いすぎだ!体がもたねえぞ!」


 「これで三人分ですよ、お頭!」


 という会話が聞こえた。なるほど、ドーピングか。


 するとすぐに、


 「死ねえ!」


 という声とともに、俺のアゴにアッパーをかましてきた。マジで効かなかった。この事実に対する衝撃の方が強かったくらいだ。


 「ア、アレ?」


 と困惑しているモブCに、


 「邪魔だモォブ!」


 と言い、わき腹に蹴りを入れて吹っ飛ばした。


 「さて、後はお前だけのようだな。」


 そうやって脅しをかけてやると、


 「テ、テメェ、まさか組合の報告を受けて来やがったのか!?」


 と言ってきた。


 「報告?そんなのあんの?」


 俺は持っていた冒険者免許を確認してみて、ギルドが襲撃されたという情報が出ていることをやっと知った。


 「おっ、そんなことがあったんだ。いやぁ、わりぃな。一身上の都合で、免許の通知の機能を全部オフにしてたんだよ。」


 都合とはもちろん救難信号の件だ。あの莫大な金額の請求がトラウマになって、他の機能もそうじゃないかと怖くなり、とりあえず全部オフにしていたのだ。


 「じ、じゃあお前は何でこんな危ねえところにいんだよ!」


 「ん?危ない?そんなことないだろ。だってスライムしかいないし・・・」


 「「そのスライムが危険なん」」「だよ!」「です!」


 と男とレソが口をそろえてツッコんできた。やっぱあのスライム、やべーよな。あとであいつに尋問しなきゃな。


 「まあ、俺が何でここにいるのかはどうでもいいだろ。さっさとその美人を離せ、デカオ。」


 そう言うと、


 「ほう、お前の目的はこの女か。なるほど・・・。」


 と言った。やべ、この展開は・・・。


 「だったら俺に近づくんじゃねえよ!少しでも動いたら、こいつが二度と動けないようにしてやる!」


 と言い、俺のものにする予定の女性を人質として使いだした。ですよねー。


 「わかったわかった、動かねえよ。」


 「よ、よし・・・。」


 そう言って男は俺と向き合いながら、後ずさりを始めた。


 「動かねえよ、俺はな。」


 すると、横から一人の人影が飛び出し、一瞬でレソを取り返した。イーギだ。いやお前ピースしなくていいから。


 「テ、テメエェェェェ!」


 レソを奪われた男は怒り狂い、モブCが持っていた袋から粒を全部出し、それを飲んだ。そして、腕にリングをつけだした。


 肉体がドンドン変わりながら、男は魔力を身にまといだした。さすがにヤバいと思った。


 「コレデモクラエェ!」


 自我を失いかけた男は、手に魔力を集中させ、それを俺に向けて飛ばしてきた。


 俺はそいつを右手で跳ね除け、距離を詰めてジャンプし、


 「悪いことしたら、まずは謝れぇ!」


 と叫び、後頭部を力いっぱいぶん殴ってやった。


 男は頭と足を地面に付けて三角形を作り、やがて全身が地面に付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る