第13話

 あの2人組がこの村を離れてから数日が経ち、村はいつも通りに戻った。しかし、


 「・・・どうかされましたか、シイゼテさん?」


 とギルドのウェイトレスさんに言われ、僕がいつの間にかため息をついていたことに気がついた。


 「いや、大丈夫です。考え事をしているだけです。」


 というのも、彼らがこのイングべ村にいたのはたったの1日ではあったものの、その1日でこの村に与えた影響は大きいものだったからだ。


 これほど村を騒がせた者は今までになく、彼らを知らない村の住民はいなかった。そしてその大半は、彼らをお調子者だとしていた。それは僕も例外ではない。


 僕の初対面が、シジーヌさんの息子さんが着ていた服を身に着けて森で倒れていたのを見つけるという時点で、もう忘れられるわけがないのだ。


 彼らは今、何をしているのだろう。どうせひと騒ぎ起こしているのだろう。


 そう考えると、少し楽しくなる。


 そんなことを考えていると、


 「何かいいことでもありましたか?」


 と言い、レソさんが僕の向かい側に座り、温かい飲み物を持ってきてくれた。


 「いやあ、あの二人組がどうしているのかが気になってました。」


 「そうだろうと思いました。」


 そう言うと、レソさんは持ってきた飲み物を一口飲み、ほっと一息ついて話を切り出してきた。


 「村が静かになってしまいましたね。」


 「どちらかと言うと、元に戻った、っていう方が近いのかもしれませんね。レソさんもあの二人組が気になっているんじゃないですか?」


 「あなたほどではないですけどね。この村で働いて数か月が経ちますが、彼ら以上の出来事がないだけで、それを超えるものがあったら、忘れてしまいますよ。」


 「だとすると、長い間忘れることなんてできませんよ。」


 「前から気になっているのですが、この村って何も起こらなすぎですよね・・・?」


 そう言ってレソさんは僕をジト目で見てきた。


 「ハハハ・・・。それは保証しますよ。」


 言われてみれば、確かにそうだ。辺境の地でありながら、この地域の人々は何の不満もなく平和に、そして幸せに暮らせている。


 「だいたい、この村の冒険者があなた一人だけという時点ですごいことですからね。まあ、仕事がないので楽だと考えればいいんですけど・・・。」


 そんな生活を送っているから、冒険者になるという考えが全く起きないのだ。そう考えると、この村で一番の変わり者は僕なのかもしれない。


 「それでもこんな夜中まで働いているじゃないですか。毎日お疲れ様です。」 


 「いや、こうなってるのは私が余計に仕事を引き受けてるだけですから、お気になさらず。」


 「そ、そうですか。」


 冒険者の管理をする側も、大変なんだな。




 ギルドが閉まる時間になったので、僕とレソさんは一緒にギルドを出た。


 「送りましょうか?」


 「いえ、大丈夫です。近いですから。」


 最初に会った時から、レソさんは人の助けを借りず、自分に厳しい人だというイメージがある。


 第一、いつも一人でいる上に、他人と関わる場面をあまり見ない。僕と話すようになったのも最近になってからだ。


 だから、せめてこのことだけは言わなければならないような気がした。


 「レソさん。」


 「何でしょうか?」


 「たまには、素直になってくださいね。」


 「・・・はい。」


 あれ?今の発言、結構恥ずかしくないか?


 それから僕とレソさんはそれぞれの帰路についた。 


 自分の家に着き、一息ついていると、どこからかドタドタと足音が聞こえた。一人ではなかった。この村で起こるはずがない音だった。


 初めは大したことではないのだろうと思い、寝床に就いた。


 しかし、寝つきが悪い。何が起こっているのか気になっているのだ。


 それに気づいた僕は、外に出てその音の正体を探すことにした。




 シイゼテさんと別れた私は、先ほど言われた言葉を反芻していた。素直になっているはずなのに、なぜそんなことを言われたのかが分からなかったからだ。


 冒険者組合から支給された家に着き、身支度を済ませた私は、寝る前にギルドを眺めた。この村に来てから毎日行っているいつものことだ。


 ギルドに賊が侵入していたことを除けば。


 私はすぐに部屋にあった冒険者組合の組合員証で報告を行い、武器と拘束具を持ってギルドに向かった。武器は魔力を増幅させるリングだ。


 被害を広げたくないので、一人で向かった。




 ギルドに着いた私は、慎重に内部の様子を眺めた。すでに入口の壁は壊されていた。


 そこで目の当たりにしたのは、複数の男が1階のカウンターを物色している姿だった。人数は3人で、剣やこん棒を所持していた。見張りはいなかった。


 私は音を立てないようにギルドの中に入り、持っていたリングを腕にはめた。多少の心得はあったので、慌てはしなかった。


 私は冒険者受付への階段に移動し、一人に狙いを定め、手に込めた魔力の弾を放った。弾は相手の背中に命中し、声をあげて倒れた。


 私は命中した瞬間にカウンターに飛び込み、倒れた男に視線を向けた別の1人の後頭部に向かって飛び蹴りを放った。


 そしてその勢いのまま、最後の一人に距離を詰め、足払いをして床に倒した後、至近距離から魔力の弾を撃った。 


 私は持ってきた拘束具で3人を拘束し、カウンターの損壊の程度を確認した。


 確認を終えた私は3人の賊に尋問を行うことにした。


 「あなたたちの目的は何ですか?」


 「さあね。それにしてもいい腕してるな、おねーちゃん。」


 「余計な発言をしないでください。時間の無駄です。」


 情報を提供しないと踏んだ私は、他に賊がいないか確認するため、冒険者受付に向かった。




 冒険者受付に向かうと、そこには一人の賊がいた。下の3人と違い装飾品を身に着けているので、恐らく賊のリーダーなのだろう。


 「現行犯で拘束されてもらいます。」


 「組合の者か。・・・ヘッヘッヘッヘ。」


 「・・・下にいた者たちはすでに拘束しました。残りはあなただけのようですね。それでも笑っていられますか?」


 そうやって脅しをかけると、


 「アッハッハッハ!」


 と大きな声で笑った。そして、


 「拘束したって?何言ってんだお前?」


 と言ってきた。私は手に魔力を込めてその男に放とうとした瞬間、


 「じゃあお前の後ろにいるのは何なんだよ。ええ?」


 拘束したはずの賊に背後から襲われた。

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