第10話

 イーギにハメられてスライムのいた森に逃げていった俺が最初にしたことは、木に八つ当たりをすることだった。はじめは自分の力で壊せそうな木に向かって助走をつけ、


 「オラァ!」


 と右ストレートを放っていた。すると木は二つに折れ、上のほうの木が地面に落下するので、少しは憂さ晴らしになった。


 しかし、何本か同じことをやっているうちに、殴っている木の幹が太くないので、殴っている手ごたえがないことに気がついた。やはり、スライムとイーギを相手にした分、経験強化によってとてつもなくパワーアップしたのだろう。


 それから俺は、もっと殴りがいのある木を殴り倒すようになった。落下してくる木の音がドンドン大きくなり、土埃も立つようになっていった。同時に、己の強さを認識し、自分に自信を持つようになった。


 それでも、俺の負の感情やストレスはまだ収まらなかった。


 他にストレス解消になるものはあるのかと考えていると、奥の方から何かの気配を感じた。木の上から近づいて見てみると、それはスライムだった。


 スライムとはいっても、イーギと戦ったときのそれとは違い、黄色い体をしていて、大きさは一回り大きく、核にあたる部分もサッカーボールくらいのデカさであった。


 本来なら逃げるべきだったのだろうが、俺からすればサンドバッグが来たくらいの認識しかなかった。それくらい、身体が闘争を求めていた。


 「よし、行くか。」


 俺は小声でそう呟いて、木から降りて距離を取り、スライムに向かってクラウチングスタートの構えを取った。




 ・・・よし、覚悟は決まった。あとは実行するだけだ!


 「よーい、ドン!・・・うおおっ!」


 踏み込みが強すぎたからか、加速が早すぎる!目の前の風景が歪んで見えるぞ!?


 とにかく、前に足を出さねえと!


 「うぉらああ!」


 足元を見て、なんとか前に進んでいる状態は保てたが、今行っていることは走っているというより、飛んでいるに近かった。一歩で進む距離がおかしかった。


 状況はどうなっているのかと思い、前を向きなおすと、


 「うわああああああ!」


 一面黄色になっていた。


 そして俺はこの勢いのままスライムに突撃し、スライムの体内に入った。そのとき、俺はスライムの核を両手でガッチリと掴んでやった。


 俺はそのままスライムから脱出し、膝を曲げて減速をした。しかし、


 「ま、マジかよ・・・!」


 目の前には俺が倒した木の幹が迫ってきてやがった。どうする・・・そうだ!


 そこで俺は持っていたスライムの核を前に差し出し、核と木をぶつけることで速さを相殺した。




 停止した俺は、後ろにいるスライムの様子を確認してみた。スライムはあの時と同じように、肉体を震えだしていた。・・・確か、スライムの体液を浴びたから、魔力が上がったんだよな?


 いいアイデアを閃いた俺はそれを実行すべく、核を置いて、スライムのところへ戻った。 


 スライムが破裂する直前に俺はスライムの前に立ちはだかり、防御の構えを取った。そしてスライムが破裂した瞬間、俺はスライムの体液が当たるように位置をずらし、飛んでくる体液をその身に受け止めた。


 そう。俺のアイデアとは、飛んでくるスライムの体液を浴びて、魔力を上げる作戦だ。


 しかし、前回のスライムよりも体積が大きいからなのだろうか、速さもあるが、当たってきた体液はかなりの質量であった。


 それでもあの時とは違い、俺は地面に足をつけて踏ん張った。体が宙に浮いてしまったものの、大した怪我はしなかった。よし、これでスライムから魔力が吸収されるはずだ! 


 そんな喜びより、体液のネバネバに対するイライラが強かった。なんなんだよこの粘り具合。不潔さと気色悪さが混じってやがる。ふざけんじゃねえぞ。


 俺は近くにあった川で体と服を洗うことにした。大自然の中で全裸になることが、とても心地よかった。川の水がものすごく冷たいことを除けば。


 解放感がエグいなこれ。てか、スライムの魔力、吸収出来てんだろうな。


 気になった俺は魔力を放出してみた。病院にいた時どころではない魔力が出た。ちょっとした衝撃波が出た。俺って、つえーーーーーーーー!


 これ以降、スライムの体液は二度と浴びないことにした。




 スライムの粘りを落とした俺は、次にスライムの核をどうするか考えた。


 先ほどは木にスライムの核をぶつけたが、核は無傷のままであった。これ、どうしよう・・・?


 とりあえず土に埋め、埋めた場所に目印として倒した木を並べることにした。やってることが完全に犬のそれと一緒だった。

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