第9話

 一泊してみたはいいものの、今後の予定を決めていないので、俺はイーギに相談することにした。


 「なあイーギ、これからはどうするんだ?」


 「そうだナ。腹減ったし、ギルドで飯を食おうゼ。」


 そういや、俺達はまだこの世界で飯を食ったことがないんだったな。


 「異世界の飯かあ。ソワソワしてきたな。」


 「安心しろヨ。この下界の飯は結構イケるんダヨ。ロケハンした俺が保証するゼ。」


 「まあ、そーゆうのもあるけど。・・・アレルギーとかさ。俺達の世界ではなかったけど、この世界の飯になると相性が悪い、なんてことはないよな?」


 「気にすんなっテ!その時はその時だっテ!」


 やっぱコイツ、頭が平和だな。




 ギルドに着いた俺達は席に座り、カウンターに書いてあるメニューを眺めた。とりあえず飲み物と近くにいた客と同じ食べ物を注文した。


 「そういやお前、お金持ってんのか?このカード分しか持ってない、ってことはないよな?」


 「そんなヘマしねーヨ。俺様を誰だと思ってんダ?」


 「分かってるから、気がかりなんだよ。」


 そんなことを言っていると、


 「お待たせしましたぁ~。」


 と言い、昨日見たウェイトレスが飲み物を持ってきてくれた。そしていざ飲もうとしたところ、


 「こちらもどうぞぉ~。」


 と言い、テーブルに木製のストローらしきものを置いてきた。


 「あの、これ・・・。」


 「サービスですぅ。それでは、お楽しみくださいぃ~。」


 そう言ってウェイトレスはそそくさとカウンターに戻っていった。


 「どうしたシイマ?何で固まってンダ?」


 いや、明らかにストローなのは分かるが、これって・・・。


 「これ、カップルがよく使う、二つに分かれたやつだよな・・・?」


 どう見ても一人用のストローではなかった。


 「あ、ああ。そうだナ・・・ククッ。」  


 「・・・どうして笑うんだい?」


 ウェイトレスとイーギの意図が一切分からなかったので、俺はストローの片方だけを使ってその飲み物を飲むことにした。




 食事を終え、その会計をしようとして席を立った時、ギルドにいた人の視線の大半がこちらを向いていることに気がついた。そのことを、イーギに確認してみた。


 「俺達、すごく見られてないか?」


 「お、お前の言うとおりだナ、シイマ。」


 「あと、どうしてお前はずっと笑うのをこらえてんだ?」


 「た、大したことじゃねえヨ・・・ケケッ。」


 こいつ、絶対に何か隠してるな。


 そして俺達はカウンターで会計を済ませ、ギルドを出ようとしたとき、


 「また会ったな!男好きの兄ちゃん!」


 とギルドの入り口で聞き覚えのある声がした。シジーヌだった。 


 もちろん俺はそんな趣味などないのでシジーヌを通り抜けていってギルドの出口に向かうと、


 「無視すんなよ、寂しいじゃんかよぉ。」


 え?俺?


 「なんで俺をそう呼ぶんだ?そんな趣味、一切ねえぞ。」


 「そうか?でも昨日の晩に、レッスさんのところの宿から、抱かせろ、って大声と、男の悲鳴が村中に響いてたんだよ。」


 ・・・は? 


 「それで気になった村の人たちが宿に行って誰が泊まってるんだって聞いたら、お前さん達が泊まってるって答えたもんだから、なるほど、そういいうことか、ってなってるんだ。」


 「いや、それは間違ってる。だって・・・。」


 あ、やべ。イーギが変身できるって言ったら、ソッコーでバレちまう。・・・ちくしょう、どうやって弁解すればいいんだ? 


 「間違ってる?いやでも、そこにいるお前さんの仲間が、そう言ってたもんだからさ。」


 と言い、シジーヌは指をさした。


 「・・・え?」


 俺はシジーヌが指をさした方を振り返ると、そこには、


 「ン?」


 イーギがいた。


 「おい、イーギ。これはどういうことだ?」


 するとイーギはニヤけながらわざとらしく、


 「いやあ、俺は誰が泊まってるんダ、って聞かれたカラ、俺とシイマです、って答えただけなんだがナァ。なぁんでこうなったのかナァ。」


 ・・・これで全部分かった。俺は、この悪魔にハメられたんだ。こいつ、俺に襲われた仕返しに、俺を男色家扱いするレッテルを張りつけやがった。 


 「コ、コイツ・・・。」


 そしてイーギは耳元で、


 「ちなみに、ほとんどの村の人がそう認識していることになってるナ。・・・もちろん、あの受付嬢もナ。地域の情報網、エグいナァ。」


 と言いやがった。


 そう言われて冒険者受付の方を見上げると、受付嬢は屈託のない営業スマイルを俺に向けてきやがった。おい、嘘だろ・・・。




 「うわああああああああん!」


 気づいたら、俺は叫びながら村を走っていた。百歩譲って、村の人にそう思われてもいい。けど、あの受付嬢にもそう認識してほしくなかった。


 人間関係がこじれることを恐れる俺が、生まれて初めて彼女を作ろうと思ったら、この仕打ちだ。もう、この村に居場所はない。


 そう思って走っていると、シイゼテが前方にいたのが確認できた。


 俺はシイゼテの前に向かって立ち止まり、


 「なあ、お前なら、嘘だって分かってくれるよな・・・?」


 と聞いてみた。すると、


 「否定しなくたっていいよ。僕は、その・・・。それでも君の友達でいるよ。」


 と言われた。


 「うわああああああ!」


 実質的に受付嬢にフラれたし、誤解は解けねえし!アイツマジ何なんだよ!もう、ヤダ!人と関わりたくねえ!引きこもりてえ!!!


 俺は一人になりたくなったので、スライムがいたあの森に入っていった。 




 「アヒャヒャヒャ・・・ゴホッゴホッ。アヒャヒャ・・・。」


 シイマのヤツ、絶叫しながらどっか行きやがっタ。あー、スッキリしタ。俺に歯向かった罰ダ。


 さて、そろそろアイツの誤解を解いてやるとするカ・・・。


 「いやあ、まさかお前さん達がそんな嗜好だったなんて、知らなかったよ。」


 「お前さん、たチ?」


 「ああ!だって一緒に泊まってたんだろ?だったら、イーギだってそういうことだろ?」


 「お、俺を・・・」


 「ん?」


 「アイツと一緒にするナァァァァァ!」


 気づいたら俺は村を駆け抜け、スライムがいたあの森に入っていっタ。


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