第11話
スライムの核を埋めてから、周りが少し暗くなっていることに気がついた。もう夕方か。
昨日の夜は素晴らしかったが、夕焼けはどれほど美しいんだろうな?
気になった俺は近くで一番高い木のてっぺんに立ち、一面を見渡してみた。そこには夕焼けがあった。
赤とか橙とかという色では表しきれない。夕焼け色、という独立した色であることを認識した。
夜の時とは違い、満足感を感じる。今までの自分が圧縮されて濃密になっている感覚だ。
思えば、俺はこの世界に来てから、いろんなことを放っておいて過ごしてきた。具体的には、あらゆるものに対する遠慮を忘れて生きていた。相手にも、自分にも。
そんな自分の行いを振り返ってみると、それこそが自分が一番欲していたものだったのだろう。なぜなら、今の俺が一番安らいでいるからだ。
しばらく感傷に浸っていた俺は、夜はどうやって過ごそうかという議題が脳裏によぎり、こんなことをやってる場合じゃないことに気がついた。
「こーゆーサバイバルって、だいたいは炎とか使うよな・・・」
そうつぶやいた俺は、倒した木を細かくして、焚き火を行うことにした。試行錯誤のせいで、周りの木がいつのまにかなくなっていた。
次に俺は、食材探しをすることにした。と言っても、アテはある。そう、あの川だ。
川には魚がいるはずだと思った俺は、あの時の川へと向かった。
夕方とはいえ、思った以上に暗いので、ちゃんと獲物が見えるのかと心配になったが、それは杞憂に終わった。
昨日の宿で冒険者免許を見たときにあった夜視適正というスキルのおかげで、結構くっきりと物が見える。さて、魚を探すとするか。
探し始めてほんの数分で魚らしき生き物を見つけた。しかし・・・。
「魚、なんだよな・・・?」
目の前にいる生き物は、フグとウニのハイブリッドという表現が一番しっくりする。フグのような丸みを帯びているものの、身体がウニのようにトゲトゲしていた。
フグには毒があることは知っていたが、異世界のフグだから大丈夫だろと思い、こいつを本日のメインディッシュにすることにした。
夜になった。思っていた以上に真っ暗だった。火ができていなければ、文字通りに何も見えなかっただろう。数か所に炎を設置し、その中心にいるようにしたので、結構あったかい。
・・・あ、洞窟みたいなところを拠点にすればよかったなぁ。
こんな感じで今後の改善点を見つけつつも、俺はさっき捕まえたフグもどきを焚いた炎で焼いていた。
それらしく焼いたフグもどきを食べてみると、それはもうめちゃくちゃにうまかった。肉厚な感じがたまらなかった。
味付けはいらなかった。魚(?)にもこんな旨味があったのかと驚いた。
フグもどきをしゃぶりつくした後、俺は睡魔に従うことにした。
・・・いや、こんなとこで寝てて大丈夫なのか?
そんな心配が急に襲い掛かってきた。そりゃそうだ。だってスライムみたいな魔物がいつやってくるか分からないから、常に注意を怠らないようにした方がいいんじゃないのか?
そんなことを考えながら、俺はガッツリと寝た。
朝になった。太陽が出ると同時に目が覚めたからだろうか、気分がいい。
今日は反省点を踏まえて、住めそうな洞窟を探すことにした。
もちろん、道中では気の向くままに木やスライムを倒していた。そのせいか、スライムの倒し方にバリエーションが増えていった。
ある時は上からの突撃、またある時は片足を軸にもう片方の足を伸ばしてグルングルンと回り、そのまま宙に浮いてスライムに攻撃したりした。
スライムの核を壊すことはあったが、無傷で手に入れたものは土に埋めることにした。
しばらく木を倒しながら奥を進んでいくと、それなりに高い岩壁があった。
いいなぁ。こんな感じの壁に、奥行きがあったらなあ・・・。
そう思った俺は、岩壁の前に立ち、
「ジャンケン、ポーン!」
という掛け声とともに、岩壁にナックルをかました。
すると、今まで何の生産性もなく、でくのぼうみたいに突っ立ってやがった岩壁に、俺の身長の倍はある高さの入口を備えた洞窟が現れた。まさしくそれは五つ星ホテルと言っても過言ではないだろう。
洞窟に入ってみたが、それはなかなかの奥行きで、スライムの核といったものでスペースがとられないほどの広さであることが分かった。
これぞ匠の技だと酔いしれた俺は、この洞窟を拠点とすることに決めた。
そして岩壁へのナックルで崩れた岩を洞窟の地面に並べ、土に埋めたスライムの核を全てこの洞窟に持って行った。
正直に言って、ワクワクしてきた。自らの手で拠点を作ったので、やりがいがすごくあった。
そのやりがいが心地よかったので、しばらくの間、本当の自給自足の暮らしをしていくことにした。
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