第6話

 生まれて初めてモンスターと呼ばれる存在を倒して達成感に浸っていると、


 「・・・おや? スライムの ようすが・・・おかしいぞ。」


 とイーギが言い出した。


 スライムの方を見てみると、スライムの肉体がプルプルと小刻みに震えだし、そのスピードがだんだん速くなっていった。すると、


 「なあ、こいつ、核を失ったから肉体を保てなくなったんじゃ・・・」


 なんて俺が言っているうちに、バン!と音を立てて、スライムの肉体がとんでもない速さで破裂して飛んできた。俺達は身構えることなくその肉片にモロに当たり、何度か木に当たるまでぶっ飛ばされた。


 そして俺は声を出すこともできずに、スライムの粘液と共に気絶した。




 「・・・。」


 俺が目を覚まして分かったことは、それが天井であったことだ。そして次に、俺が怪我をしたということも理解した。


 これが重体、ってやつかと思い、とりあえず右腕を真上に上げてみることにした。俺がこんなに冷静でいられたのは、肉体の蘇生というチートで健康が保証されているからだ。右腕を上げると、面白いことが起こった。


 いつもの腕を動かす感覚はあるのに、実際の腕が動いていなかったのだ。ここまで脳と現実にずれがあるのを感じたのは初めてだった。


 正直、すごく興奮した。せっかくの機会だったので、もっと体中を動かしてみて、現実とのギャップを味わった。ここで分かったことだが、股間はフツーに大きくなった。


 そんなことをしていると、実際の体が少しづつ感覚と一致してきたことに気がついた。もしや怪我が治りかけてきているんじゃないかと思い、魔力を体に流そうとした瞬間、


 ドウッ!


 と大きな衝撃と音が聞こえ、スライムと戦った時とは比べ物にならないほどの魔力が体中に流れた。なんか出しすぎたなと思い、魔力を消していると、


 「なんじゃ今の音は!?」


 「大丈夫です!あの音は魔力を勢いよく出したときのものですから、心配ないです!」


 という声が聞こえた。どちらも男で、一人はじいさん、もう一人は若い男だった。するとその声の主達がやってきて、


 「どうした、若者!」


 とじいさんが俺に声をかけてきた。背は低く、小太りであった。驚いたのは、やってきた人の中に、あのエロい受付嬢がいたことだ。俺は正直に、


 「いやぁ、なんか魔力を放出してみたら、すごい音が鳴っちまったよ。」


 と言うと、


 「体を動かすだけで、そんな音が出るか!」


 と言ってきた。人の話をしっかり聞いてくれよ、爺さん。


 すると、


 「とにかく、あなたが生きていてよかったよ。」


 と例の若者が話し出した。そいつの体つきは強そうではないが、声によるせいだろうか、好青年な感じであった。ただし、イケメンでもあった。クソが。


 だがとりあえず、今の状況を確認することにした。


 「あんたら、何者だ?」


 「おっと、自己紹介がまだだったね。僕はシイゼテ、君と同じ冒険者だ。そして、このおじいさんが、この村唯一の医者、トロコッドさんだ。」


 「なるほど。で、なんで俺はここに運ばれたんだ?」


 「僕はここのパトロールをしてるんだけど、いつものようにあの森を見回りしていたら、急に冒険者免許からメッセージが流れてね。その情報をもとに指定されていた場所に行ったら、飛び散ったスライムの残骸と、あなた達がいたんだ。」


 「そうじゃ!シイゼテが二人を抱えてやってきて、急患です、なんて言うもんじゃから、びっくりしてギックリ腰になりかけたわい!」


 二人・・・そうか、イーギのことか。だとすると、同じ建物で寝てるのか。しかも、あの免許って、自動で知らせてくれるのか。便利すぎだろ。


 「しかし大変じゃったぞ、お主らの治療は。まずお主らの体を見たとき、怪我の箇所が多いわひどいわで、文字通り無理難題を押し付けられた気分になったもんじゃ。」


 「そんなにひどかったのか?」


 「もちろんじゃ!具体的に言おうか?肋骨5本の複雑骨折、頚椎損傷、頭蓋骨陥没・・・。」


 え?俺、そんなにドえらいケガしてたのか?


 「とにかく、体を治すことができてよかったわい。」


 「いや、そんな大怪我、どうやって治したんだよ。」


 「治癒魔法じゃ。ま、わしのやつはちと特殊でな、患者とかの他人の魔力を使って魔法をかけるんじゃ。しかしまぁ、この二人がいなかったら、お主、おっ死んでたぞ?」


 「私も驚きました。まさか緊急メッセージを使うなんて・・・。」


 「そ、そうだったのか・・・。そんで、今の俺はどうなってるんだ?」


 「ふむ、じゃあ少し拝見するかの。」


 そういうと、トロコッドとかいうじいさんの目が色を変えた。そして、俺の身体をジロジロと見渡した。すると、


 「まあ、あのころに比べると全然マシじゃが、体を動かしてはならないことに変わりはない。しばらくの間、絶対安静じゃな。」


 なるほど、おそらく今のは透視する魔法だな。そうすれば、あの受付嬢の裸体も拝めるってわけか。


 「そうか。ありがとな。ところで、こーゆーのって、代金的な奴はあるのか?」


 「はい。まず、緊急メッセージの発信で、我々冒険者組合に1000万チャリンをお納めいただきます。なお、救助してくださった方への返礼、そして治療費は別途そちらでお決めください。」


 チャリン・・・?ああ、この世界の金の単位か。しかし、1000万て多すぎだろ。


 「僕は何も受け取るつもりはないよ。これが本来の僕の活動だし、こういうのはお互い様だからね。」


 「わしゃ疲れたからな。少し多めにいただくとして、15万チャリン、といったところじゃな。」


 なんだこの二人。天使すぎるだろ。


 「なんか、本当にありがとな。そんで、あなたの名前は?」


 「レソと言います。」


 「レソさん、もーちょいまけてくんね?」


 「できるわけないです。」


 「ですよねー。」


 このとき、俺の頭にいいアイディアが浮かんだ。


 「なあ、トロコッドのじいさん、あんた確か、人の魔力で魔法を使う、って言ったよな?」


 「ああ、そうじゃが、それがどうかしたのか?」


 「今から俺がありったけの魔力を出すから、それで俺を治してくれねーか?」


 「ああ、構わんが、どれくらい治るかはお主次第じゃぞ?」


 「それじゃ・・・よっ!」


 そう言うと俺はさっきのように魔力を放出した。すると、


 「おお、思っていたよりも多い魔力じゃな。これなら、結構いい段階までお主の体を治せるぞ!」


 前から考えていたが、ここまで俺の魔力が多くなったのは恐らく経験強化のチートのおかげなのだろう。しかし、そうだとするとある疑問が生じる。


 肉体と魔力の伸びが釣り合わないことだ。それはなぜか。トロコッドが魔法で治癒を行っている間、俺はレソに質問をした。


 「なあ、レソさん。スライムって、どんなモンスターなんだ?」


 「まさか、知らずに戦っていたのですか・・・。スライムは魔力の濃度が比較的濃い場所で自然発生するモンスターです。そのため、スライムの肉体は純度の高い魔力そのものでできています。」


 「へー。」


 「そして、スライムの中にある核によってその肉体の形を留めています。ですから、その核が壊された瞬間、スライムはその体の形を保てなくなり、その肉体を飛び散らしてしまうのです。」


 なるほど。これで合点がいった。多分、魔力と同然のスライムの粘液から魔力を吸収して、俺の力にしたってことだな。だから、魔力だけこんなに上がったのか。なんか俺、人外だな。


 「スライムは基本的に自我がなく、また発生した場所の周辺しか移動しないため、敵としての害はありません。しかし、こちらからの物理攻撃はほとんど効かないうえ、近くにいると飲み込んで吸収しようとします。そのため、倒すのならば遠くから魔法による攻撃がセオリー、のはずですが・・・。あなた達はもしかして、物理攻撃でスライムを倒そうとしたのですか?」


 「あ、バレました?」


 「当たり前です。こんなに愚かな冒険者、初めて見ましたよ・・・。」


 そう言うと彼女は顔に手をやり、ため息をついた。そして、


 「いいですか?これからは、自分が狙う獲物について確証たる情報を集め、細心の注意を払って行動してください。いいですね?」


 と言ってきた。ここまで親切に言ってくれるってことは、もしかしてだけど、この女、俺に気があるんじゃないか?


 「分かりましたよ。つまり、近いうちに一緒にご飯を食べたいってことですね?」


 「私の話を全然聞いてないですね。」


 あれ?ちゃんと聞いたはずなんだけどなぁ。


 すると、


 「プププ、プギャーハッハッハ!・・・ヤベ!」


 と聞き覚えのある笑い声が部屋に響いた。イーギだ。


 「なんだ、お前そこにいたのか。」


 「ああ、お前と同じようにおねんねしてたゼ。いやー、あれは想定外だったナ!」


 「あなた達、命が惜しくないんですか?」


 「「いや全然。」」


 タイミングまであったその答えを聞き、俺のものになる予定の女は呆れた顔をしていた。



 俺の魔力を使った治癒が終わったらしいので、もう一度体を動かしてみることにした。


 すると、なんということでしょう!あの時動かなかった肉体が、脳の指示にしっかりと対応しています!これぞ匠の技、もとい、まほう!


 と感動を覚えながら健康を噛みしめていると、


 「おお、想像以上じゃ。わしゃ、今の治癒でそこまで治るとは思わなかったわい。」


 とトロコッドのじいさんが驚いていた。ここまで治るのが早かったのは、肉体の蘇生のチートが一役買っているためだと思われるが、内緒にしておこう。ここでイーギのことが気になったので、イーギについて話を聞いてみた。


 「そういや、隣で寝てるやつはどうなんだ?」


 「ああ、そいつはまだ動けない頃のお主とそんな変わらんぐらいじゃったぞ。」


 「へぇ。じゃあそいつも今起きたことだし、俺と同じことやってみたら?」


 「そうじゃな。じゃあお主は、少しそこで寝ておれ。」


 そう言われたので、俺はベッドに倒れながら、体の状態を確認してみた。確かに、力を入れると痛い部分や違和感を覚える部分があったので、しばらく安静にしようと思った。




 しばらく今後の1000万問題について考えていると、


 「おお、体が動くゼ!健康って素晴らしいナ!」


 「おお、想像以上じゃ。わしゃ、今の治癒でそこまで治るとは思わなかったわい。」


 という驚きの声が同じテキストで聞こえた。じいさん、あんたNPCかよ・・・。


 すると、


 「おいシイマ!お前、動けるカ?」


 と言い、イーギが俺のベッドにやってきた。


 「動けるが、激しい運動はできないな。」


 「そうカ。だったら一旦、この建物を出ようゼ。」


 「何するつもりだよ?」


 「いいからいいかラ。」


 イーギの意図が全然わからなかったが、とりあえず悪いことをするつもりがなさそうだったので、


 「分かったよ。」


 と返事をした。


 するとあの3人が戻ってきて、


 「何やっとる!お主ら、絶対安静じゃ!」


 と怒鳴られたので、


 「いや、大丈夫だ、ジーサン。もうこいつもピンピンして、早く動きたいって言ってるゼ。」


 「そーいうわけで、世話になったな。それじゃあな・・・。」


 と言いかけた瞬間、


 「病院代と救助代、もういただいてますよ。」


 とレソさんが言ってきた。すると、


 「げ、マジかヨ。踏み倒せると思ったんだけどナー。」


 とイーギが嘆いた。こいつド級のクズじゃねえか。俺だったら、ちゃんとイーギに押し付けて払わせるんだがな。


 「まあそんなのいいからさ、俺達、退院していいか?」


 「まあ、お主らがそう言うなら、退院してもよいぞ。」


 と言われたので、俺達はこの病院から退院することになった。別れ際に、


 「なるべくわしの世話にならんようにな!」


 「もうこんな無茶しないでくださいね。」


 「体に気をつけてね!」


 と励ましの言葉を言われた。いつか、あいつらに恩返ししてやろう。

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