第5話
俺の免許が作られている間、何もすることがなかったので、イーギと雑談をすることにした。
「なあ、異世界の移動先がここになったわけだけど、これって何か意図があってそうしたのか?」
「あったりめぇヨ。ここはイングべ村っていうんだガ、ここはこの下界でも指折りにのどかで、しかもここの住人はみんな親切でいいやつなんダ。この服は、その親切につけこんじまったわけだが、まあそれは不可抗力ってことデ。」
「まあ、そういうことにすっか。・・・じゃあ、知っててこの場所を始まりに選んだんだな?」
「そういうこった。下見をしたかいがあったゼ。」
「下見、してたのかよ・・・。まあいいや。」
とはいえ、このギルドまで慣れたように向かっていたことを考えると、納得がいく説明だ。
「そんで、もう一つ気になることがあるんだけど、最初の地点が教会だったんだが、それは悪魔的に嫌だったとか、そういうのはないのか?」
「ああ、それカ。それに関しては、ちょっと説明をしなくちゃなんねえナ。まず、お前らの下界では、悪魔と天使がいがみ合っているっていう構図があるが、ありゃ間違ってる。実は、悪魔と天使はお互い仲良しなんだヨ。」
「・・・は?」
正直、頭がパニックを起こした。あの概念が、間違っているだと・・・?
「まあ、そうなるわナ。確かに、争ってた時期があったシ、今でもその感覚を持ってるやつがいるが、ほとんどはそーゆうのはお構いなしに仲良くやってるゼ。第一、その争いってやつも、くだらなすぎて笑っちゃう原因で起こったしナ。・・・まあとにかく、仲がいいんダヨ。」
とにかく俺は、そう納得するしかなかった。
「分かったよ・・・。でも、だからって教会に移動するこたなかったろ。」
「いやぁ、これが関係あるんだヨ。まず、あの場所に女神像があっただろ?あれ、俺の上司なんダ。」
「じ、上司?」
なんだこの衝撃のオンパレードは。ここまでくると面白すぎるわ。
「ここに来る前、俺、下界の管理をしているって言ったよナ?ほかの仕事もあるが、実はそれらの仕事ってのは本来、俺達よりも上位の存在にある神の仕事で、神同士がそれぞれ役割分担をしてその仕事を全うするはずだったんダ。けど、それだと俺達、悪魔や天使が暇をもてあまして何しでかすか分からなイ。」
「なるほど。実際にお前は俺を巻き込んでるしな。」
「やかましいワ。・・・そこで、神が俺達を部下にして仕事をさせることで、自分は楽になるし、俺達を管理できるってことで、一石二鳥だってなったンダ。で、俺達も暇だったんで、それに賛同して神の下で仕事してるんだヨ。そんで、俺の上司の仕事が・・・」
「この世界と俺の世界を含む一部の世界の管理、ってことだな。そんで、お前がその仕事をしている、と・・・。」
「ん?どうかしたのか?」
「いやそうだろ。訳わかんねえよ。」
まず、悪魔と天使が仲良し、ってなんだよ。しかも、悪魔が女神の部下になって仕事を肩代わりしてるってのもおかしい。それじゃあ、俺達が長い間そうだと思ってきたものは何だったんだ?そんで、なんでそれを訂正しないんだ?
俺は、それを思わず口にしていた。すると、
「確かにそうだナ。もちろん、俺達に対するお前らのイメージは正しいゼ。悪魔はいいかげんな奴で、天使はマジメな奴なのは確かダ。けど、それで争ってて、俺達がやられるってことにすれば、都合のいいことがある。それって何だと思ウ?」
しばらく考えると、ふと答えが閃いた。
「・・・っ!そうか、善行を行うようになるのか。」
「そうだ!そのおかげで、お前らの平和が作られてるってわけヨ。どうだ?こう言われると、お前、なんだか世界の裏側を知ったみたいでおもしれーダロ?」
確かにすごく信じられない話だが、不思議と筋は通ってるように思える。ここまですんなりと納得できたのは、俺にしっかりとした宗教観がなかったからなのかもしれない。
なんて話をしていると、
「冒険者免許ができました。受付に来てください。」
と木の棒から声が聞こえた。なるほど。これはいわゆるトランシーバーみたいなものだな。
・・・あれ?
「もしかして、さっきの会話、盗聴されてないよな・・・?」
「いや、大丈夫ダ。だって、強制送還されてないシ。しかもこれ、発信専用なんだ。そうじゃなかったら、俺がこんなにベラベラしゃべると思うカ?」
と言ったので、
「いや、絶対にしゃべるだろ、お前。」
と返した。
受付に着き、木の棒を返すと、
「これがイーギさん、そしてこれがシイマさんの免許です。」
と言い、免許を渡してくれた。大きさはフツーのカードと一緒だが、そこにはやはり何も書いていなかった。すると、
「冒険者免許の使い方を聞きますか?」
と聞かれると、イーギは、
「よし、頼むゼ。」
と言ったので、受付嬢が説明を始めた。
「ではまず、魔力をその免許に流してください。」
と言ったので、実際に魔力を流すと、そこにいろいろな文字や絵が浮かんできた。
「このように自分の免許に自分の魔力を流すと、情報が浮かんできます。書かれている情報としては、ステータス、能力、財産、資格などです。また、見たい情報だけ表示させることもできます。なお、免許に情報が写るのは、免許の所持者とその人の魔力が一致するときだけです。」
へえ、つまり、プライバシーが保護されるのか。スゲーな、と思っていると、受付嬢は説明を続けた。
「次に、免許の機能について説明します。我々冒険者組合は、この免許を通じて様々な情報をお送りします。その情報を受け取ることができたり、一部の依頼に対して、ギルドに行くことなく引き受けたりすることができます。また、ギルドに様々な報告、意見を思念として送ることもできます。」
え、マジかよ。クッソ便利じゃねえか。
「さらに、この免許を使って、物品の決済、取引を行うことができます。ただし、免許で行うことができない地域や店がありますので、ご注意ください。」
・・・。
「最後になりますが、もし免許の所持者が命を落とす、またはその危機に陥った場合、この免許は自動的に冒険者組合に報告を行います。その際、冒険者組合はその近くにいる冒険者に緊急の連絡を行います。」
・・・マジか。
「大まかな説明は以上になります。質問はございますか?」
・・・これ、完成度が高すぎないですか?
俺達は質問をすることなく、ギルドから出た。
正直、この免許のクオリティを甘く見てた。いやこれ、下手しなくても、スマートフォンを超えてるぞ。なんだこれ。なんか、俺んとこの文明が劣っているような気がするんだが・・・。
なんてがっくりしていると、
「これで準備が完了したわけダ。あとは何をするか・・・分かるよナ?」
と言ってきたので、分かりきっている答えを言うことにした。
「ああ、この世界を遊びつくすんだろ。まずは、モンスター退治でもしてみるか。お前、下調べしたんだったら、このあたりのモンスター事情も知ってるんだろ?」
「たりめーヨ。ここがこんなにのどかなのは、ここに生息するモンスターがザコい上に,人の生息域に侵入せず、人に危害を与えようとしないからダ。だから、ここで心置きなくモンスター狩りが行えるってことヨ。具体的には、あそこの森林を奥に進むと、モンスターとエンカウントできるゼ。」
そういうわけで、俺達はその森林に入っていくことにした。
森林に入っていくと、そこは霧などがなく、視界は良好だったが、木々が思っていた以上に生えていて、遠くが見えない状況だった。すると、
「見えづれえな。上から観察するか。」
と言い、イーギはジャンプして木の枝に飛び乗った。そして、
「おーいシイマ、お前も登れよ。」
と言ってきた。しかし、スポーツテストで平均値以上を出したことのない俺は、
「ごめんな、俺できねえんだわ。」
と答えるしかなかった。すると、
「運動神経的な意味でか?それなら大丈夫だ。そもそも、この下界はデフォルトで超人みてーな動きができるようになってんだ。ていうか、お前の下界の方が珍しいぞ?」
と言ってきたので、実際に体を動かしてみた。すると、
「おぉ・・・。」
ギルドの時には気づかなかったことがたくさんあった。まず、すごく体が軽い。まさしく、思い通りに動けそうだ。しかも、頭が冴えている気がする。これなら、あの木の枝にも飛び乗れそうだ。
そう思い、俺は目標の木の枝を見上げ、足を曲げて、垂直飛びの要領でジャンプをした。すると、その木の枝にスッと乗っかることができた。
自分の運動神経の高さに驚いていると、
「よし、じゃあこのまま移動して、モンスターを探そうぜ。」
とイーギが言ったので、俺はイーギと共にモンスター探索をすることにした。
しばらくすると、
「おっ、第一モンスター発見!」
と言い、イーギが指をさした。その先には、俺達の身長を上回る高さのスライムがいた。スライムは淡い緑色をしていて、スライムを通して地面が見えた。動きはゆっくりで、体内に手のひらサイズの赤い球体があるのが見えた。なるほど。これが俺達の記念すべき第一戦か。
「やっぱり始まりの戦いは、スライムだと相場が決まってるな。」
と言うと、
「分かってるじゃねえか。それじゃ、戦闘開始と行こうぜ。」
とイーギか答えた。それから、俺達は木から降り、スライムの前に対峙した。
しかし スライムは
まだ こちらに きづいていない!
するとイーギが右腕を本来の形にして、
「バックスラッシュ!」
と言い、スライムの赤い球にめがけてその右腕を伸ばした。いや、スライムのどこがバックにあたるんだよ。
すると、イーギの腕はスライムの体をへこませた。
「なかなか弾力があるナァ。」
と言い、イーギがさらに力を入れたとき、スライムは動きを少し止めた後、プルン、とそのへこませた部分が跳ね返り、そのまま勢いよくイーギの上半身を飲み込んだ。
上半身は動かなくなっており、最初は力を入れていたイーギの下半身が、徐々に力が無くなり、地面から離れ、徐々にスライムの体に入っていったのが確認できた。
・・・あれ?こいつ、死ぬんじゃね?
「・・・ちょっと待てえぇ!」
それから俺は、浮いた足をつかみ、イーギを精一杯引っ張った。すると、ズブブブと音を立てながら、イーギをスライムから引っこ抜くことに成功した。俺はスライムから距離を取り、
「おい、大丈夫か?」
と言い、意識のないイーギを往復ビンタしていると、
「へっ、へっへ・・・。三途の川が見えたゼ。」
とドヤ顔で俺にサムズアップしてきた。いやお前、死にかけたんだぞ・・・。
するとイーギが、
「・・・っ!やべ、腕、が、、うご、、、かねェ・・・。く、口、、も・・・。」
と言った。まさか、あのスライム、麻痺持ちか!
気が付くと、俺の手も握力が少し落ちていた。
スライムは襲われたとも知らずに、一定の方向にゆっくり進んでいたので、とりあえずイーギの回復を待つことにした。ちょっとすると、
「・・・よし、一応体は動かせるようになったが、あんまり力は入んねえナ。・・・ちくしょう、あんにゃろめ、ぶっ殺してやル。」
とイーギがリベンジしたがっているようなので、一つ質問を投げかけることにした。
「気持ちはわかるが、じゃあどうやって倒すんだ?」
「・・・一つ、策があル。」
俺達は少し休んでから、再びあのスライムの前に立ちはだかった。今度は、作戦を用意してきた。
まずイーギは右腕を悪魔の形にして、あの時と同じようにスライムを貫こうとした。
しばらくしてスライムが動きを止めた瞬間、
「今だ、行け!」
と言われたので、俺はスライムのへこんだ部分に手を伸ばして飛び込んだ。イーギは、飛び込んだ俺の足をつかんだ。
スライムの内部は妙に生暖かく、そしてデュルデュルであった。そして、力が抜けそうになりながらも、あの赤い球を目指し、体を動かし、魔力をまとい、腕を伸ばした。
手が赤い球に届いたときには、もう握力はなかったので、俺はそれを両手で挟んだ。それを確認したイーギは、両腕がスライムに飲み込まれながらも、
「オラァ!」
と言い、俺をスライムの核ごと引っ張り出した。そして俺は両手を離し、スライムの核を宙に投げると、イーギはその右腕の鋭い爪でスライムの核を真っ二つに切り裂いた。
その核は静寂の中、コンコンと地面に落ちた。妙に耳に響いた。俺はイーギに腕を引っ張られて立ち上がり、イーギと顔を見合わせた。そして、
「「フッ・・・フッ、フッ、アハハハハハ!」」
と大笑いしながら、ハイタッチをかました。
「やったな!イーギ!」
「最高だな!シイマ!」
最高だった。ここまで達成感と喜びで満ち溢れたのは、生まれて初めてだった。
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