海斗という存在

陽子という強烈なエネルギーを持った存在を前にする海斗くん。


海斗は、間違いなく陽子へのカウンターです。


陸にいる海斗と、

海にいる陽子。


海が苦手な海斗と、

海が好きな陽子。


この相反する存在が海という(それも海斗にとっては非日常な)特別な場所で出会うことで起こる化学反応。

これが今作の醍醐味です。


またこれは、作者様が作品に対して取り組みやすくすることを意識したものでもありました。

実際に海が苦手、泳げない人、そういった方々がいると思ったのです。


つまり、「海が好きな人は陽子に共感」しやすいでしょうし、

「海が苦手な人は海斗に共感」しやすい状況を作りたかったのです。


人間、オススメされたものを「あ、はい、そうですか。やってみます」とすぐに吸収することは案外難しいものです。特に人にオススメされたテレビ番組とかアニメとか漫画とか、わざわざ自分で調べて取り入れようとすることって、言うほど多くはないですよね。少なくとも、それを受け入れられるのは、自分の精神状態を含めて余裕があるか、あるいは相当に好意を持っている人間からの助言か、2つに絞られると思います。ましてそれが「自身の苦手なもの」について力説されるほど、反対にこちらは冷めていってしまうものです。


A「わたし、ナス苦手なんだよね」

B「えー! なんで、ナスおいしいじゃん!」

A「あの生臭さと食感がね」

B「じゃあ、こんど美味しいナス料理教えてあげるよ!」

A「え、いいよ。作るの面倒だし」

B「あ、じゃあこれとかは? 今頼んじゃおうよ! すいませーん店員さん!」

A「嫌いだって言ってんだろ」


となるのは容易に想像できます。


とはいえ、人がオススメしてくれるものというのは、だいたいは良いものです。私もこういう経験は過去に何度かありまして、「ああ、素直にきいてればもっと早く出会えたのに」とか、「偏見をもっていたなぁ」と反省することが多いです。

それでも受け入れるには腰が重いのですから、不思議なものですよね。

チャレンジとは、それくらい「エネルギー」が必要なことなのです。


さて、本作の海斗くんですが、理由は設定如何にしろ、少なくとも海が苦手な訳ですから、その苦手なことにチャレンジする動機が必要です。

その動機が、海斗のキャラクター付けに大きく影響しているのは言うまでもありません。


単純に美女に「泳げないの?」と笑顔で煽られるだけで飛び込みたなる人もいるだろうし、せっかく一人旅をしたのだからと自分を変革したくて覚悟したのかも知れない。あるいはそう思わせるだけの魅力が、陽子にはあったのかも知れない。


ここらへんの動機が、まさに作者様の個性だったのではないかと思うのです。


自分だったら、どうアプローチされたら、苦手な事に挑戦するだろうか。

その理由を紐解くのが、私は特に面白く感じていました。



と言いますのも、私は介護系の会社で本社勤務しておりますが、その性質上、実に多くのことを人から学び、またそれを人に教えていかなければなりません。それは例えば現場だったり、後輩・部下だったり。他企業から得られたノウハウを、自社にいかさなければならないわけです。

そこで障害となるのが、伝え方。オススメの仕方なんですね。

人間、誰しも自分が行ってきたことが間違っていたとは思いたくありません。そこに深い考察があったのか、ただ慣例に習っていただけなのかは関係なく、単純に自分の存在を否定されるのが怖いのです。新しい手法を取り入れたり変革することは、得てして自分を否定することに繋がりがちです。本当はそうじゃないのですけれど。

特に介護の現場はITリテラシーが低く、スマホやPCをまともに触れない人が大勢います。高齢化の現在、働き手の負担を削減するために文明の力を借りて効率化しなくては破綻してしまいます。


そこで、今回のテーマです。

「苦手なものに、どうしたら挑戦できるのか」。

「どうアプローチされたら、自分は挑戦できるだろうか」。

私はこの点について、実に多くの海斗くん達から学ぶことができました。


ただまぁ、最終的に正義は「美女に誘われる」でしたね。

逆を言えば、「ただしイケメンに限る」です。


布教する側は、手段を講じるより前に、自身の魅力を高めよ。


そう言われた気がしないでもないです。←



そんな訳で、海斗くんは陽子との出会いを通じて、苦手を克服し、その素晴らしさを体感することになります。

これはまさしく、「どんな陽子だったら、(作者自身の)弱みをさらけ出しても良いか」という、現れだったかもしれません。



言い過ぎか。

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