陽子という存在

今回、キモとなってくるのが「陽子」という存在です。


この陽子、海斗と初対面にも関わらず、一緒に泳ぐことを提案して来ます。

あまつさえキスまで許しておいて、立ち去っていくような女です。


「はぁ!?」


と思った方も多いのではないでしょうか。

男性の皆さんは「意味わからん女だ!」と思われただろうし、

女性の皆さんは「嫌な女」と女から嫌われる典型的な女性像だと思います。


といいつつ、私から言えば、こういう女性は「割といる」普通の女性です。



今回の舞台は海。その海に、二人きり。

設定としてはっきりしているのは、海斗にとっては懐かしくも久しぶりの海であり、今の海斗を構成する世界からは外れた場所です。それも一人であり、普段の海斗をしる人はそこにいませんから、ある意味で海斗は、「海斗というペルソナ」を外した状態で陽子と接することができたと思います。


一方で陽子は、お気に入りの場所を海斗に紹介できる程度には、この海のことを知っている存在です。設定如何ですが、海斗にとってはアウェイ、陽子にとってはホームグラウンドな訳です。

そんな場所で、一人きりの陽子。陽子が一人でいたかったのか、一人になってしまったのかはキャラクター付によって変わるところですが、少なくとも、海斗に対してはかなりアドバンテージがあったと思われます。そう、強気に出れたのです。


端的に言えば、「自身の欲求に素直でいても良かった」場面でした。



「あいつ、デートしてさ、手も繋いだのに、俺とは付き合えないって言うんだよ。そんなのおかしくね?」

という声を男性からよく聞きますが、

「いやいや、それとこれとは別だよ」

という女性の声もよく聞きます。

「デートしてもいいかなって、その時はそう思ったんだよね。実際楽しかったし。でも付き合うとなると、別だよね。今はそういう気分じゃないと言うか、彼氏とかいらないかな」

ってタイプです。いや、大正論です。理不尽です。


という訳でこの陽子、久しぶりにこの地にやってきた独り身の海斗を見つけて、「ちょうど良かったから」一緒に泳ぎに誘い、「気分が乗ったので」キスをし、「やっぱり違う」ということで立ち去る。

そんな自分勝手で短絡的な行動でも、別におかしくはないという訳です。



ここに、作者様達の個性が多く発揮されたのではないでしょうか。


恋愛への取り組み方というのは、かなり人によって差が生まれる部分ですよね。私が上にあげたような例でいう奔放なタイプもいるし、しっかりと手順を踏まないと気持ち悪い人、行動一つ一つに理論武装する人だっています。覚悟がある人もいれば、水面を漂う落ち葉のようにゆらゆらとしている人だっています。


しかし人間、自分の恋愛観というはの簡単には曲げられません。こういう恋愛する人っているよねと理解を示そうとするものの、納得するには遠く及ばず。不器用な人ほど、そういう所は苦戦するはずです。


そういった作者様の恋愛感が、陽子のキャラクター付けに色濃く反映されていたと思います。

陽子はなぜ誘ったのか?

陽子はなぜ立ち去ったのか?

各々、ここに納得感が得られる設定と、キャラクター付けを意識されたのではないかと思います。



実際、投稿された作品には実に多くの陽子が登場しました。

その名の如く太陽のように明るい陽子、パワフルな陽子、年上の陽子。少し引っ込み思案の陽子。使命感に駆られた陽子、大人の余裕を醸し出す陽子、そして子供の陽子。


これはまさに、作者(海斗)がこの海で出会いたかった陽子なのではないでしょうか。


それは言い過ぎか。


ともあれ、本作は実質的に、陽子が物語を動かしていきます。

陽子がいなければ、海斗は海に潜ることはしなかったかも知れないし、海の中から見上げる陽光の美しさを知ることは無かったわけです。間違いなく、陽子は海斗にとって、人生を変えた一人な訳なんですね。


現実でもいませんか?

眩しいくらいの存在感を放ち、自由で、一方的に影響を与えていく、そんな人。


これだけの影響力を持つ陽子を、「主人公」とするか、

翻弄され、しかし負けじと行動を起こす海斗を「主人公」とするかで、

この物語のエンディングは決まるのでないかと私は予想しておりました。



そしたらまー、皆様のアイディアのすごいこと!


やはり、作家様の想像力はとてもすごいのだな、と、改めてそのパワーを感じたのでした。

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