活動報告②

さて、久々の活動報告です。


自主企画で感じたこととして、「オリジナリティすごいな!」というのがあります。

今回は「意図して制約を多くした」のですが、それでも多種多様な作品が登場しています。「同じ牛乳でも味が違うよね」というレベルでは無く、チーズもあれば、ヨーグルトもあるし、中にはクリームリゾットだったり、乳製品ですらないものもあります。アイディアは無限大です。


今回はそんな視点から、二つの作品をあげたいと思います。



■瀬夏ジュン 様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891918359


一つ目は瀬夏ジュン様の作品です。

まず「ジャンルがSF」という点で特異ですね。あのあらすじでSFというだけでハードルが高い訳ですが、「最初はSFを感じさせない」ことがこの作品のスマートな所。

SFというと壮大な世界観や情報が登場しがちですが、今作はそれをせず、観測者である主人公が感じたありのままの世界を映し出しています。そして重要な点が、海をしてでは無く、として描いていることです。


海はご存知の通り、巨大な水たまりです。浜があり、波がある。

しかし、そこには根ざす生命があります。沿岸には沿岸の植物があり、動植物達がいて、そして海中には海中の息吹があります。

本作では、主人公の海中での活動を通じて、その生命達をじつにキュートに描いています。それはまるで隣人のよう。

「そうだ、海だもんね。生き物もいるよね。なんで忘れてたんだろ。当たり前のことなのに」

と、あらすじを提案した私ですら見落としていたことを思い出させてくれました。


作者様はダイビングをされるということで、その経験が存分に生かされている。そういった観点から海を見たことのある人にしかかけない「海という世界」が描かれている点が、素晴らしいと思います。またそのワードのセレクトも素敵。私が幼少の頃、父のダイビング趣味で訪れた海外でスキューバダイビングをしていた事を思い出しました。今になって、なんてボンベしょって海中深くまで潜ることをしてこなかったのかと、後悔しました。


という最中から、SFの匂いが香ってきます。


ネタバレになるので書けないのですが、そのテーマがまた素敵。根源的でありながら、難しくない。希望でもあるし、恋愛でもあるし、そして……。とにかくロマンがあります。


この「難しくない読み口」の中に「深いテーマ」や「気づき」を内包させるのは、絵本や児童書的なテクニックでもあり、技術と、何よりセンスが要求されます。


それを高いレベルで満たしている作品でした。未読の方も、そうでない方も、そういった視点から一読されることをお勧めいたします。



二つ目のご紹介がこちら。


■ふづき詩織 様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891803680


独特の世界観と根源的なテーマが印象的な瀬夏ジュン様の作品に対し、ふづき詩織様は「正統派」と言えます。しかし多くの参加者様が想像されるであろう正統派の姿とはひと味もふた味も違う。それは、「真摯さ」と「深さ」です。


私はこの作品を読んで、「純文学」というワードが浮かびました。主人公海斗の内面をフィーチャーし、多彩なワードでシーンを切り取っていく。まずその引き出しの多さと技術だけでも素晴らしいものがあります。


話は少し戻りますが、今回のあらすじには実は「多様な海の描写を強要」されやすいという特徴があります。具体的には、

・主人公が最初に見る海(俯瞰の海)

・陽子と泳ぐ海(没入体験の海)

・海への印象が変化(想像の海)

・初めて飛び込む、飛び込んだ海

・一年後に再び飛び込んだ海

まるで海が主人公が如く、複数回に渡って様々な角度で登場します。ただのどれ1つとして、「登場人物が同じ心理状況で見ている海は無い」ことが特徴です。


そして今作は、この「心理状態の変化による」情景描写の変化に、真摯に向き合っています。観測者である主人公の心理状況によって、「海」という現象の切り取り方が変わる。

現象は変わっていないのに、まるで別もののように映るということはよくあります。

例えば「好きな人が好きな音楽を好きになった」り、「最高だと思っていた商品の弱点を聞かされたことで、自分は困ってないのに微妙なものに感じるようになった」り。「上司の素敵エピドードを知ったことで、叱責されることに愛を感じるようになった」とか。そういう有り触れていながら見落がしがちな事実を、多彩なワードでときに非情に描き出しています。


そしてその「観測者によって事実が変わる」ことの非情さを、ここまで深く切り取った作品は他に無いでしょう。本作には、ある事実が隠されているのです。これには気づけなかった読者様も多いのではないでしょうか。かくいう私も、見落としたものです。このページにヒントがありますから、是非に、注意深く読んで頂ければと思います。それに気がつくかどうかで、本作のイメージはがらりと変わるはずです。



さて、本日は「私の主観と独断で」お二方の作品をご紹介させて頂きました。対極的なアプローチのように見えますが、共通して「とても深みがある」と言えると思います。精神的なパワーを消費すると分かっていながら、本あらすじを普遍的な恋愛物語で終わらせないというその気概を、改めて称賛したいと思います。



今後も、あくまで主観的な形で作品をご紹介したいと思います。

私は評論家ではないですし間違ったことも言いますが、「なるほど、そういう見方があったのか!」くらいの気持ちで受け取って頂ければと思います。

また企画の最初で申し上げている通り「企画内NO1」を決めたりはしません。「こういう角度だったら私的にこれが凄い!」とか、「これをやらせたら右に出るものはいないよね」的な、そういう紹介を都度都度していきます。機会平等公平ではないことはご了承願います。


お時間が許す方は、改めて紹介作品を一読してみてください。

何かお気づきになった点は、本コメントページで共有しましょう。作者様もきっと喜ばれるとおもいます。



それでは、また。


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