第92話 好きな人だけには変わらなきゃ 4

「その気持ちは物凄くうれしいけど・・・・絵の方はどうするの?」


「好きな事をやって、それが仕事になれば、それは確かに理想よ。・・・・でもそんなに甘くない事も分かってるし・・・・・・・・それに、好きな人と一緒になるのも私の夢だから・・・・直樹は私と一緒じゃ嫌かな?・・・」


そんなの嫌な訳がない。俺は、もし何だかの理由で別れたとしても、一恵の事はずっと感謝するだろう。

こんなに、俺にとって心の支えになってくれる人なんてこの先、現れないだろう。

ただ、悩んでいるって言う事は、100%夢を諦めてないって事だから、ここは何とか説得して考えを正そうとした。


「嫌な訳ないじゃん!確かに自分の好きな事を仕事にって、かなり難しいとは思う。でも、可能性はゼロじゃないでしょ。可能性がある限りは、一恵の夢を追った方がいいと俺は思う」


「・・・・・確かにゼロじゃないけど・・・・直樹が死んじゃったら・・・・」


「そんな簡単には死なないよ~!」


「絶対に!?」


「うん!絶対に!」


「約束できる!?」


「うん!約束できる!」


しばらく一恵は黙って、自分の取り乱した心を静めているようだった。

絶対に死なない約束なんて、本当は出来ない。

何が起こるのか分からない未来の事なんて。

でも、これくらいの事を言わないと、本当に彼女の夢をつぶしてしまう。

自分の夢を諦めてから一緒になっても、俺は遅くないと思っている。

出来る事をやって、結果ダメになっても、一恵は納得は出来るはずだから。


「・・・・・わかった。直樹の言う通りにする」


ホッ・・・・わかってくれたようだ。


「直樹はやっぱり、高校に行かなかった事、かなり後悔してる?」


「そうだね・・・・やっぱり俺も青春はしたかったよ(笑)」


「青春か~~~。でも早いもので、あと半年で卒業だ~~」


「そうだね~。俺も早く治して、車の免許を取りにいかなきゃ!」


「ちゃんと、隣に乗せてね♡ な・お・き♡」


「そんなの当たり前じゃん!」


そう言いながら、うれしそうに一恵は病院から帰っていった。

今日と言う日は何だったんだ・・・・・・

二人の女性からプロポーズを受けるなんて・・・・・

これが、人生最後のモテ期なんだろうか・・・・・


前の入院の時は、俺なんて死んでもいいや!と思っていたのに、今回は絶対に死なない約束までした。

そう思うと、俺の心も変わってきてるんだと実感した。

そう変えてくれたのは、一恵の存在があってこそ。

今から大変なリハビリも、彼女のために頑張らないといけないと強く心に決めた。

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