第90話 好きな人だけには変わらなきゃ 2

二人でクッキーを食べながら、お互いの過去についての話題になっていた。

過去と言っても、まだ17年しか生きていないけど、楽しい思い出よりも、辛い思い出の方が、俺の心には鮮明に残っている。


「直樹も人見知りだよね・・・かなりの。何か子供の時にきっかけがあったの?」


「ああ・・・・あったね・・・子供心には凄く辛かったことが・・・」


これもまた、思い出したくも言いたくもない出来事があった。

小学校6年生の事。友達の家で遊んでいたら、突然、母親から電話があった。

わざわざ、友達の家にまで電話してくるのだから、何事が起ったのか不安になった。


「もしもし、直樹? あんた電車を止めたって本当!!??」


「はぁ~??」


またくもって理解できなかった。

慌てて家に戻り、話の全容を母親から聞いた。

なぜか俺が、線路内で石並べをして遊んでいたという。

小学校6年にもなって、そんな危ない所で遊ぶわけがない。

いくら子供だって、それくらいは理解できる。

後日、事務所に来てくれと電話で言われたらしい。

事務所に行くまでの数日間は、とにかく泣いたり、不安になったりで夜も寝れない。

そりゃそうだ。やってもいない事を認めるわけにはいかない。


当日は日曜日。

その日は、市主催のソフトボール大会がある日だった。

俺はピッチャーを任されていて、すごく楽しみな日でもあった。

が、もしかしたら大会すらも行けないかも・・・・・

そんな中、メンバーの一人が、俺の家に電話を掛けてきた。


「直樹、もうみんな集まって出発しちゃうぞ~」


「・・・・・・・・ごめん・・・・・今日行けないかも・・・・」


俺はこれ以上の言葉がでなく、受話器を投げて、二階で大泣きしていた。

やってないのに!なんで!!悔しくてたまらなかった。

実家は駅裏にあるから、事務所までは徒歩1分くらいの近い場所。

父親に、頭を撫でてもらいながら事務所に向かった。


事務所に入って、ものの1分。


「あ~~~~~。この子じゃないな~~。もう帰っていいよ」


『はぁぁぁ!!!』その一言で、謝罪もなく家へ帰っていった。

めちゃくちゃ腹がたった。数日も不安で寝れなくて苦しんでいたのに謝罪すらない。

その後、無事に大会には行けたのだが、納得がいかない!!!


後日、謝罪をするために、何かお詫びの物を持ってくるだろうと、子供心に思い、

もしかしたらゲームくらい持ってくるかも!と、幼稚な考えすら期待していた。

しかし、謝罪の言葉1つもないまま、事は終息していった。

後から聞いた話によると、俺の前の家の子供のしわざだったらしい。


子供心でも、ありえないと思った。

大人って、無責任な生き物なんだな!!

名前もまったく違うのに、どうやったら間違えるのか!!

間違えたら間違えたで、謝罪くらいは普通するもんだろう!!

この事があってから、【人は信じられない】【謝罪もしない】と心に刻まれたのかもしれない。

社会に出てからも、最初の会社で感じられた、大人のいい加減さ。

みんなが、そんな人ではないのは分かっている。

ただ、自分勝手な人間が多いって事も実感させられた。



こんな、つまらない話でも、一恵は納得しらがら聞いてくれていた。

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