第89話 好きな人だけには変わらなきゃ 1

「直樹~。お腹空いてるでしょ!今回は、お菓子作ってきたよ~♡」


「おっ!クッキーか。いいね~!」

一恵は、さっきのやり取りを聞いていたのか?

いつも通りの彼女の姿に、すこし疑問を持ちながらクッキーを食べ始めた。


「モグモグ・・・・これまた・・・うまい!!何でも出来るよな、一恵は」


「また~~~♡調子いい事言っちゃって~~♡」


本当にこの時間だけは、辛いリハビリや痛みを忘れさせてくれる。

今が大変な時期なのに、俺に尽くしてくれる。

別れろなんて、どんな口が言ってるんだ!!

思い返したら余計に腹が立ってきた。


「ところでさぁ~直樹。ごめん!!さっきの話全部聞いちゃった」


あ~~~~。やっぱりか!確かに結構なボリュームでしゃべってたから仕方がないけど、何だか急に恥ずかしさがこみ上げてきた。


「あ・・・・・・えっと~~・・・・マジでありえないよね!!」


しばらくの沈黙の後に、一恵は嬉しそうに答えてくれた。


「直樹は余り、そんな事言ってくれないから私、すごくうれしかった♡」


日本人は、好きとか愛してるって、余り言わない人種だから仕方がないんだよな。

言い過ぎても軽く思われるし・・・・難しい所でもある。


「ま・・・まぁ~~~・・・やっぱり・・・恥ずかしいじゃん・・・」


「そうだけど、やっぱり言ってくれたら、もの凄くうれしいよ~♡」


「こ・・・・今度からは言うようにするから・・・・・・」

なんて言って、その場から逃げ出した。


ちょっと不満そうな彼女のふくれた顔も、めちゃくちゃ可愛いかった。


気持ちをうまく伝えるって、かなり難しい。人見知りな俺だから、余計に難しい。

でも、最近の一恵は、積極的に引っ付いてきたりで、最初のイメージから変わっていってる感じがする。

俺に対して、すべてを見せてくれてるようで、彼女に対して罪悪感さえ思えてくる。

けが人の俺だから、もっと彼女に甘えていいんだろうか・・・・・

いいんだよな・・・・・

好きな人には、すべてを見せるくらいでもいいんだよな・・・・・・

そんな事を思いつつ、いい加減に変われよ!と心で葛藤していた。

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