第88話 何言ってるんだ、この人

入院から一か月。

足の骨折だけじゃなく、左手の後遺症も残っているから、リハビリまでに時間がかかった。

松葉杖を持つ左手の感覚も50%くらいシビレているから、うまく歩けない。

バランスも保てず、あと、寝たきりで、筋力の低下が激しく、片足で歩くだけでもしばらく時間が掛かった。


ストレスで押し潰されそうになると、一恵が一生懸命、心の支えになってくれた。

それに答えるためにも、早く退院しなきゃと焦りばかりで、身体は言う事をきいてくれない。


こんなに辛いリハビリもう嫌だ・・・・・逃げたい・・・・・


表の顔では、大丈夫なフリをしているが、次第次第に、心の闇の方が強く感じられるようになってきていた。


加害者の渡辺さんも、毎日のように、お見舞いに来てくれるのはいいが、正直、

こんなに辛いリハビリが続くと、憎たらしくなってきて、顔も見たくない。

そう思えてきたある日。

いつもは、一輪の花と、謝罪の言葉を言って帰っていくのだが、この日は意外な事を、渡辺さんから話された。


「お身体の調子は、良くないですよね・・・・本当にごめんなさい・・・・」


「そうだね、良くはなってないね」


「一つだけ質問してもよろしいですか?」


「なに?」


「今、彼女さんとかいらっしゃいますか?」


「は?・・・・・・・・いますけど」


「私に出来る事は、横井さんを養っていく事だと思っています。後遺症などで、働けなくなったりしても、私が全部、面倒を見ていくことが、せめてもの罪ほろぼしだと思っています。だから、彼女さんと別れて、私と結婚してください。私に出来る事は、これくらいしかありません・・・・・」


何言ってるんだこの人は・・・・・・・さすがの俺も、頭に血が上ってきた。

悪い事をしたって気持ちはわかるが、これはちょっと違うだろ、と、初めて彼女にたいして、強く反論で答えた。


「あの~、俺に傷つけたことで、そんな考えになったのは、わからなくもないですが、俺の彼女の心まで傷つけるんですか?それだけは絶対に許せない!!もう見舞いも来なくていいですから、顔を見せないでください!!」


渡辺さんは泣きながら「ごめんなさい」と一言を言って、病室を後にした。

こんな俺でも、一生懸命、看病してくれる一恵と、別れるなんてありえない。

一恵の存在が、どれほど大きなものなのかを実感させられた。


入れ違いのように、病室に一恵が、お見舞いに来てくれていた。

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