第48話 大丈夫

入院してから1か月が過ぎた。

正直、そこまで良くなったとは思えないくらいに、痛みとシビレは残っていた。


リハビリしても・・・・・・うまくいかない・・・・・


俺は焦っていた。本当に大丈夫なのか??・・・と。

いつもの時間に、リハビリ担当の松本さんが、病室を訪ねてきた。


「コンコン・・・・・・・・松本です。失礼します~」


「どうぞ~」


「それでは、移動しますね~」


「あっ。松本さん。俺、大丈夫なんですかね?ちょっと心配になってきちゃって」


「大丈夫です!焦る気持ちはわかりますけど、私たちを信じてください!」


「そ・・・・そうですね・・・・」


リハビリ以外は特にやることなく、安静にしてるだけ。

だから、嫌な事ばっかり考えてしまう・・・・・・

こんな性格って、なかなか変わらないから・・・・・どうしようもない。

とにかく、治る事を信じて、やるしかない。

別館に移動して、リハビリを行った。


「横井さん、今日は、左手で豆をつかんで、横のコップに入れてください」


「はい、わかりました」


やっては見たものの・・・・・左手の感覚がシビレでほとんどなく、豆をつかんでいるって、目ではわかってても、力加減もわからなく、落としてばかり・・・・・・・


「くっ・・・・・・・・・・・・なんで・・・・・・・・・」


「横井さん・・・・・・・・・次のリハビリに行きますね・・・・・・・・」


そうすると、松本さんが、俺の左手を両手でさすってくれた。


「大丈夫ですからね・・・・・・・大丈夫・・・・・・・大丈夫・・・・・」


加藤さんの、おまじないみたいに、何度もさすってくれた。

しかし、触られている感触も、あまり感じられなく、不安になった。


リハビリが終わり、昼食を食べて、また、嫌なことを思い出していた・・・・・・


靖枝さんは、俺が、入院してるって、知らないだろうな・・・スマホも鳴らないし。

まぁ、期待もしてないから、どうでもいいんだけどね。


会社も、ひどいもんだよな。

確かに、俺も悪いけど、あっさりクビにするんだからな・・・・・・・・・

社会ってそんなもんなの?

大人ってそんなもんなの?

こんなんだったら、俺は、大人になんか、なりたくない・・・・・・・・・


「俺、頑張ってたよな・・・・・・頑張ってなかった???・・・・・・・・・・・

俺の出来る範囲では、頑張ってたよ!!!・・・・・・・・・・・・・

頑張っても・・・・・意味ないのかよ・・・・・・・・・

頼むから・・・・・・まともに動いてくれよ・・・・・・・

なんで・・・・・・・なんで、動いてくれないんだよ・・・・この左手はよ・・・

くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


俺は取り乱し、自分を見失っていた。

そんな時だった。加藤さんが、見舞いに来てくれた。


「コンコン・・・・・・・・・加藤ですけど入ってもいいかな?」


「・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・うん・・・・・どうぞ・・・・」


「横井君。約束のお弁当作ってきたよ~~~~(ニコッ)」


「ほ・・・・・本当に~!ありがとう~!」


「私が、食べさせてあげる!!!」


「えっ?そ・・・・そんなこと・・・・・・」


「いいの!!私がやりたいんだから!!!ほらっ!!あ~~~んして(ニコッ)」


そうやって、照れながらも、食べさせてもらった。

こんな、俺なんかのために・・・・・・・・・・


加藤さんと居ると、嫌なことも考えなくて済む。

唯一の、落ち着いた時間を過ごしているのかもしれない。

本当に、感謝しても足りないくらいに、ありがたく思っていた。





横井君が、叫んでいる所を、聞いてしまった・・・・・・・・・・

凄く不安定な、精神状態なんだと思う。

だからこそ、私は笑って、勇気づける事にした。

大胆な行動になってもいい。とにかく、横井君の笑顔が見たい。

私がついてるから、大丈夫だよと、心に思い、早い回復を待ち望んでいた。

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