第43話 そんなこと・・・言わないで・・・

すごく心配そうに、俺の顔を見てくる加藤さん。


「だ・・・大丈夫?横井君・・・・とにかく・・・・よかった・・・・・・・・」


「加藤さん、ごめんね・・・・わざわざ見舞いなんかに来てくれて・・・・・・」


「最初に聞いた時、もう、どうしていいか分からなくて・・・・

 ただ、待つことしかできなくて・・・・・・・」


「ごめん。俺も嫌なことが重なってね・・正直どうしたらいいのか・・わからない」


「何があったの??言いたくない事だろうけど、話していいのなら、話して・・・」


中学時代の話も、加藤さんにならいいや、と話した事があったっけ。

こんなに心配してくれる加藤さんには、本当に申し訳なく思って、俺は語りだした。


「まず、さっきなんだけど、上司の人が来て、会社をクビになった」


「えっ?」


「無断欠勤して、バイクで事故って入院。まぁ、覚悟はしていたし、あんな会社にも戻る気はなかったからね。人をゴミのように扱う会社なんかに未練はないよ」


「そんなに、ひどい扱いされてたんだ・・・・・・確かに、あの場所でも横井君を見かける事が少なくなっていったね・・・・・・」


「残業が当たり前になって、休日出勤も多くなり、精神的にも追い込まれて・・・

それでも、誰も助けてくれなかった。会社って・・社会ってそんなもんなのかもね」


「それはちょっとひどいね!!」


「どこの会社も同じなんだろうか・・・・・・偉い人ほど、仕事をしないし、ムリな注文ばっかりしてくるし。それで高給取りって、やってられないよ・・・・・・・」


「社会って・・・・そんな所なんだ・・・・・私も不安になってきた・・・・・・」


会社のグチなんか聞いても、嫌な思いしかしないのに、加藤さんは、何一つ嫌な顔もせず、真剣に俺の話をきいてくれた。


・・・・・・・そして、彼女の事も・・・・・・・・


「俺さぁ、彼女と別れたんだ・・・・・・・・」


「え・・・・・・・」


「はっきり、別れ話をしたんじゃないけど、もう・・・・・・・どうしても・・・・ありえないんだ・・・・・・・さっぱり分からないんだ・・・・・・・・・・・」


俺は、感情を抑えられず、カッコ悪いけど、目から涙がこぼれていた・・・・・・・


「加藤さんに、こんな事、聞くのもアレなんだけどさ・・・・・・・二股しますって堂々と宣言できるものなの???・・・・・

もう、何を信じていいのか分からない・・・・・・・

誰を信じていいのか分からない・・・・・・・・

人がもう信じられない・・・・・・・・

仕事も彼女も、自分勝手な事ばっかり言って・・・・・・・・・どうしたらいい??

俺は、すべてを失ってしまった・・・・・・・・・

正直・・・・・・・このまま・・・・・・死んでしまえばよかったのに・・・・」


禁断の言葉を言ってしまった。

加藤さんの目からも、涙があふれだして、こう言ってくれた。


「そ・・・・・・そんなこと・・・・・そんなこと言わないで!横井君・・・・・

私が・・・・・・私たち友達がいるじゃない!!!!

すべて失ったとか・・・・・死ねばよかったとか・・・・・

そんな悲しい事・・・・・・言わないで・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


こんな俺でも、心配してくれるんだ・・・・・・・・

こんな俺でも、友達でいてくれるんだ・・・・・・・

こんな俺でも、泣いてくれるんだ・・・・・・・・・


俺の心に響くものが、加藤さんの言葉にはあるような感じがした。


「ごめん・・・・・・ありがとう・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・」


しばらく、無言で二人は泣き続けていた。


少し落ち着きを取り戻し、これからの事を、加藤さんは聞いてきた。


「どれくらいで、退院できるの?」


「二か月くらいって言ってたかな」


「そっか・・・・・・また、お見舞いくるからね!!」


「いいよ~。わざわざ。加藤さんも忙しいでしょ」


「私が来たいからいいの!!」


「そう言えば、連休に遊びに行こうって俺から言ったのに・・・なんかごめんね」


「そんなの気にしないでいいよ~~。ちゃんと治して! また、遊びに行こうよ(ニコッ)」


「わかりました」


「変な事も、考えちゃダメだよ!!」


「わかりました・・・」


そうやって、最後は、お母さんみたいな口調で、病院から帰っていった。

だけど、加藤さんには、少し救われた。

まだまだ、心も、リハビリが必要だけど、何とか、底なし沼の心からは、脱出できたみたいで、本当に感謝のひとことだ。

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