第12話 積極的

その日の帰り道。土手沿いに加藤さんの姿があった。

いつもは、絵画道具一式もってたんだけど、今日は手ぶらで土手沿いに座って景色を眺めていた。

自分の自転車姿に気づいてくれたのか、しゃべりかけてくれた。


「あ、横井君~お仕事ご苦労様~~」


「加藤さん、最近見なかったねー。絵は完成したの?」


「うんうん~!何とかコンクールに間に合ったよ~(笑)」


「じゃー、手応えがある作品に仕上がったんだね!結果が楽しみだね!」


「そうだね~(笑)でも、結果はどうあれ、私自身、すごくやり切った感があるから、満足してるんだ~。あわよくば結果も出せれば、さらに満足(笑)」


「自分でやり切った感があれば、後悔もないからいいじゃん(笑)」


「スランプを乗り越えられたのは、横井君の影響もあったからだよ」


「えっ?俺、何にもしてないけどな」


「いや、こうやって、おしゃべりしてくれただけでも、全然違ったよ。やっぱり一人で、ふさぎ込んでいたら、何も生まれない。悩みを聞いてもらったりしてストレス発散させないとダメだって、凄く思ったよ!だから、横井君に感謝しなきゃ!」


こうやって、少し話している所に、俺のスマホが鳴った。


プルルルル


「あ・・・ごめん、ちょっといい?」


「うん、いいよ」(あれ・・・・・この間、スマホ持ってないって言ってたけど?)


言うまでもなく、今村さんからだ。


「も・・もしもし~」


「あっ!もしもし、直樹君~!もう仕事終わって帰っちゃった~~?」


「はい、今、帰りの途中で」


「良かったらさぁ~ご飯でも食べに行こうと思って電話したんだけどさぁ~」


「えっ?今からですか?」


「もちろん~~。直樹君が引っ越し祝いでおごってくれるって言ったからさぁ~って言ってないか(笑)」


「えぇ、まぁ、いいですけど」


「本当!じゃー7時頃に直樹君の家に迎えに行くから~待っててね~」


そうやって電話が切れていった。


(思い切って聞いてみようかな~)「あれ?横井君、スマホ買ったんだ~」


「あぁ~えっと~最近買ったと言うか、買わされたと言うか・・・」


「も・もしかして・・今の、彼女さん?」


「い・いやいや~、会社の先輩だよ」


「そうなんだ~」

(少し怪しいけど、ホッとした。もう一度聞いてみようかな!)


「横井君。良かったら、私にも番号、教えてくれないかな?」


「え?あぁーいいよ」


「本当に~!また断られるかと思っちゃった;;」


「いやいや、俺、断ってないし~~!」


何だか、今日の加藤さんは積極的だな~。

もしかして、心の距離が縮まったのかな?って、また要らぬ事を考える。


「俺、登録の仕方、分からないから、加藤さんやってくれるかな;;」


「(笑)本当に、スマホ持つの、初めてなんだね~(笑)」


「何とも情けないです;;」


そうやって、加藤さんに丸投げして登録をしてもらった。

加藤さんは、笑いながら、とてもうれしそうにも見えた。


「はい!完了!ありがとうね~横井君!」


「いえいえ~どういたしまして~。それじゃーちょっと用事あるから帰るね」


そうやって、この場から離れるとき、手を振ってバイバイする姿が、何だか恋人同士のように見えて、すごくうれしい気持ちになった。

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