第9話 デジャブ

季節も、初夏。ジメジメとした梅雨が明け、晴天がつづく毎日。

学生にとっては夏休みと言う、最高のイベントがあるが、自分には関係ない。

これが社会人なんだなーと、しみじみ思った。


いつもの帰り道。土手沿いには、加藤さんの姿をちょくちょく見かける。

毎日ではないが、見かけた時には、あいさつ程度に話するくらいになっていた。


「あっ、加藤さん今日も頑張ってるねー」


「あ・横井君。お仕事ご苦労様~。絵の方がね、自分なりに手応えがつかめてきてね、もうちょっとで完成なんだ~」


「それじゃーもう、スランプ脱出だね」


「うんうん!何だか難しく考えすぎたのが逆にプレッシャーに感じてしまって、頭の中で混乱してたみたい(笑)」


「そうだねー考えすぎてもダメなんだよね」


「何事もほどほどにって感じかな(笑)」


加藤さんの、まっすぐな笑顔がすごく可愛い。


「加藤さんに一つ聞いてもいいかな?」


「うん、いいよー」


「か・・・彼氏とかっているのかな?」


「えっ・・・そんなのいないよぅ~。じゃー横井君は彼女はいるの?」


「俺なんかがいるわけないじゃん~!」


「そうなの?横井君、なんかモテそうな感じするけどな~」


「そう言う加藤さんの方こそ、絶対にモテてそうだけどな~」


「いやいや~私なんか。絵ばっかり描いてるから全然~」


何なんだ、このいい雰囲気は!ちょっとは期待してしまうじゃん。

本当に気を使えて、可愛くて、俺と少し性格が似てて、って。やばい!好きになってしまうじゃん・・・・・いや、こんな俺に好意を持ってるなんて、ないない!

変な期待と妄想が頭の中をかき回していた。


「どうしたの?横井君?」


「いや・・・・・ハハハ」


「あのね・・・・横井君・・・・もし良かったらでいいんだけど・・・・スマホの番号教えてくれないかな?・・・・・・」


何という展開!この前のマネージャーのデジャブじゃないか!


「あ~~えっと~~俺、まだスマホ持ってないんだ・・・・」


「え~~持ってないの~~。何かと困ったりしない?」


「そうでもないよ。特に電話掛けたりもしないし、ゲームとかもしないし」


「そっかー残念だな~」


今度の休日に、スマホを買いに行くことは言えなかった。

女の子の方から電話番号を聞いてくるなんて・・・もしかして・・・恋心が少しでもある?んがぁぁぁぁ!そんなわけない!そんなわけない!

必死に自分の心の中に言い聞かした。


中学時代に変に期待して、何度も失敗してるから・・・・・今度こそは!ってやつ?なんて、もう、収集つかないくらいに、訳が分からなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る