第8話 徐々に前向きに
会社の昼休み。俺は、田中係長とキャッチボールをしていた。
また今度、練習試合があるらしく、人集めに苦労しているようだった。
「横井君、今度の日曜日お願いできるかな?次はピッチャーをやってほしいんだ」
「ええ、まぁ予定もないですし、いいですよ」
「助かるよー!絶対にみんな驚くから。横井君の球速に」
「そうですかね?大した事ありませんよ」
そう言いながらも、少しは自信があった。
あと、今村マネージャーが来るかもと、少し期待もしていた。
「係長、ちょっと気になる事があるんですけど」
「ああ、なんだ?」
「うちの会社の敷地内に今、建物立ててるでしょ。あれは何ですか?」
「ああーうちの本社の一部が来るらしいぞ。でも、まー下請けのうちらにはあまり関係ないからな」
学校も上下関係が厳しかったけど、社会に出ても同じ事。そんなもんだ。
そして日曜日。野球目的なのにやっぱり キョロキョロ とマネージャーを探してしまう。ただ話したいだけなんだけど、内心は、どこか少し期待していた。
でも、いわゆる 八方美人 タイプだから、誰とでも仲良くなれるポジティブ派。
俺とは真逆の性格っぽいから、過剰な期待を持たないようにと心に刻んでいた。
「あっ!横井君だ~~来てくれたんだね~~」
「ど・・ども」
「今日、ピッチャーやるんだってね!私、期待しちゃうから~~」
「俺、ピッチャーやったことないから不安なんですよー」
「大丈夫!大丈夫!横井君ならうまくやれるよ~~私が保証する(笑)」
(どんな保証してくれるんだ?)
「そう言ってもらえると何か出来そうな気がしてきました」
「うんうん~応援してるから頑張ってね~~」
そう言いながら、他のチームメイトにも声を掛けにいくのに去っていった。
ストレートには自信あったが、後はカーブくらいしか球種がなく、どこまで通用するものなのか・・・・そんな中、試合が始まった。
1回を抑えたら、ある程度、自分の力がわかる。そう思いながら全力投球した。
無事に1回は三者凡退に抑えられた。
(これはいけるかも、三振も2つとれたし)
そうやって上手くこなしながら最終回。ファーボール1つは出したが、ここまでノーヒットに抑えていた。
たかが5回までの試合なのでって、自分は思っていたけど、周りのみんなはノーヒットノーランに少し期待しているようだった。
そんな周りの反応に、急にプレッシャーが押し寄せてきた。
1つアウトを取るだけで何だか騒がしくなり、ツーアウトまでこぎつけた。
「あっと一人~!あっと一人~!」
最後のバッターに対しては自信のあるストレート1本で押しまくった・・・・
ファールで粘られ、タイミングも合ってきている。本来なら次はカーブでタイミングをズラすべきだが、裏をかきストレートだ!と思いっきり投げた結果・・・・・
カキーーン
見事にセンター前ヒットを打たれてしまった。
周りからは「あぁ~~~」とため息が漏れた。
試合には勝ったが、なかなか上手くいかないものである。(人生と一緒だ)
終了後にマネージャーが駆け寄ってきた。
「あ~~~もうちょっとだったのに~~~~おしかったね~~~」
「まーそんなもんでしょ。出来過ぎたほうでしょ」
「あ~~~!横井君は欲がないんだね~~~もっと悔しがらないと~~~」
「実際、初めてピッチャーやったんだから、あれだけも上出来ですよ」
マネージャーの方がすごく悔しがってて、すごく可愛くみえた。
話が進むにつれて、どんどん話題がズレていき、思わぬ方向へ話が切り出された。
「ねぇ横井君、スマホの番号、教えてくれないかな~?」
「えっ?あぁー・・・俺、スマホ持ってないんですよ」
「えええ~~~!今時スマホ持ってないの~~~~!本当に~~~?」
「ま・・まぁ使わないんで」
「今時のスマホは必需品でしょ~~~!あっ!だったら私と一緒に買いに行こう」
「え??」
そうやって半ば強引に、スマホを買いに行こうという感じで、今度の休日に約束をした。正直ここまでされたら、変な期待もしてしまう自分がいた。
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