第7話 腐っていた自分
次の日、いつもの土手沿いで時間になるまで絵を描いていた。
17時30分前から手を休めて横井君が来るのを待っていた。
向こうの方から見えてくる自転車に気づき、顔を確認したら、やっぱり横井君に間違いなさそうだったので、恥ずかしながらも声を掛けてみた。
「あっ、あのーすいません」
ゆっくりと自転車は止まってくれた。
「はい??」どうも覚えてなさそうな返事が返ってきた。
「あのー、横井君ですよね?」
「え、はいそうですが・・・」
「私、この前一緒にカラオケにいった加藤です」
「あ・・・あ~。哲の彼女の友達の~」
「いきなりでごめんなさい;;びっくりしたでしょ?少しお時間いいですか?」
「あ~別にいいですよ」と自転車から降りてくれた。
どうして彼女がこんな所にいるのだろうと疑問に思ったり、自分の事を覚えててくれたんだと、少しうれしかったりで少し頭が混乱していた。
「この前のカラオケでは本当にごめんね。全然楽しくなかったでしょ・・・」
「あ~いいよー別に。高校生の話題にもついていけないくらい分かってたから。それに自分が仕事の話した所で、誰も分からないし、つまらないでしょ」
「で・・でもね、もうちょっとみんな気を使ってほしかったなって私は思う。私から色々と話題提供できれば良いのだけれど、どうしても一歩引いちゃうのよ」
「あ~まったく俺と同じだね。団体行動が苦手というかみんなに頼るというか」
「横井君もそうなんだ~、良かった」
「ハハハ、良くはないけどね。性格をもっと変えたいとは思ってるけど、そう簡単には変わらないよ・・・・」
「うん、うん。それすごくわかる!私も積極的におしゃべりしたいな~とか思うもん。でもいざとなったらね・・・・」
(あれ、でも何でだろ。横井君とはすごく積極的におしゃべり出来ちゃう)
「あ・あのさぁ横井君。これ聞いて良いかわかんないんだけど・・・・嫌だったら無理にしゃべらなくていいから。あのね・・・高校に行かなかったのは、何か特別な理由とかあったりするのかな?」
「あ・・・・ああ・・・」
この事は、先生、親、友人、誰にも話した事がない。って言うか言いたくない話。
だけど何か、加藤さんにはしゃべってもいいやと思ってしまった。
「俺ね、中学の時、野球部だったんだけど、2年生のときケガしちゃってね。2年生の秋に新人戦ってあるのわかる?」
「あ~3年生が引退して2年生が主になっていくんだよね」
「そうそう、これでも一応レギュラーだったんだ。夏休みだろうが暑かろうが、休まず練習して勝ち取ったレギュラーだったんだけど・・・試合当日の朝練でボール
が顔面にぶつかってね・・・幸い、命に別状はなかったんだけど、自分の心にはウソがつけなかった。
『どんなに頑張っても意味がない』
積み重ねてきた努力も一瞬で消え去る。悪い方向にしか考えられなくなって腐っていった。友人とかの慰めの言葉もまったく耳に入ってこなくなって、自分が3年生の時にはもう手遅れで、やる気もまったく出ない抜け殻になっていったんだ。」
「ごめんなさい・・・・辛い出来事思い出させちゃって・・・」
「いや、自分が悪いってわかってる。なぜ乗り切れなかったんだーって。思春期のせいにはしたくないけど、1度間違った道にいくと戻るにはかなりの考える時間が必要になるのかもね。未だに迷いながら生きて行ってるけどね・・・ハハハ」
「過去は変えられないから、今を大事に、そして楽しくいかなくちゃね。私も今スランプ気味だから色々考えちゃって」
「何のスランプ?」
「えっとー、私、美術部で今コンクールに出す絵を描いてて、少し前からここで風景画描いてるの。ただ、まだ手応えがないんだよね」
「あっ!そうなんだ。俺、この道が通勤路でね」
「だと思った(笑)だから話し掛けようとしたの」
「絵、見てもいい?」
「いいよー、ぜひ感想を聞いてみたい!」
スッっと渡された風景画。
素人目だから何とも言えないが、すごく綺麗な絵だった。
「すごくいいと思うよ~全然絵の事わからない素人だけど;;」
「ありがとう(笑)」
「私、なぜだかここの景色が気に入って何十枚も描いてるの。建物の位置とか全く変わらないけど、毎日毎日、違う景色に見えてくるの。ここだけじゃないのだろうけど、景色も生き物なんだなぁ~って、最近思うようになって」
「ここは、こだわりの場所なんだね」
「そうかもね・・・フフフ」
そろそろ夕日が沈む時間。お互いの知らない部分が見えようとしていた。
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