第4話 トラウマ

入社したての頃は昼休みに食堂でごはんを食べていたけど、しばらくたってからは、食堂から逃げ出すように、青空ピクニック(ただ外で食べるだけ)だった。

誰ともしゃべらず、黙々とただ食べているごはんほど味なんて全くしない。

なんか食道にただ流し込んでるだけのような感覚で耐えがたいものだった。


昼休みは1時間。

コンクリートの上にダンボールを敷き、食べ終わったらやることもないから昼寝。

そんな日常がしばらく続いた。


しかし、ある日、上司である田中係長が声を掛けてくれた。


「お~横井君。ちょっとここいいかな?」


「え・・あっ・・はい。いいですよ」


「うちの会社って若者がいないから気の合う話し相手もいないよな」


「あーえっとー。まぁ」


「何かスポーツとかやってなかったのかな?おじさんは野球やっててね、この会社でも草野球チームがあって日曜日とか試合もやってるんだよ」


「あ、そうなんですか」


「横井君は野球とか出来るかい?」


「まー少しくらいなら出来ますけど」


「おーそうか!ではキャッチボールとか昼休みに付き合ってくれないかなー?無理にとは言わないからさ」


「あー考えておきます・・・・」


ひとりでいつも昼休みを過ごしてるから、上司なりに気を使ってるんだろうけど、

この『野球』こそが、自分の人生最大のターニングポイント!!

これを乗り越えていたら、また違う人生だったんだろうなーっていつも思っていた。


(まーでも、せっかく気を使ってくれたんだしキャッチボールくらいならいいか)

そんな訳で、シブシブながらも昼休みのお付き合いを了承した。


シューーー パンッ!

約2年ぶりくらいにグラブをはめてボールを投げた。


「おじさんのポジションはキャッチャーだから横井君はピッチャーやってくれないか?」


初めの方は、軽めに抑えて投げていた。なんせ2年ぶりだから。


「横井君、コントロールいいねー。あと投げるホームもいいし」


一応レギュラーだったから肩には自信はある。


「1度おもいっきり投げて見てくれないかーー」


「わかりました、いきますよー」


ビューーーー バンッ!!!

田中係長はビックリしていた。


「横井君、凄いね!!うちのエースより早いかも」


「そうですか?」


「よかったら今度の試合出てくれないかなー?頼むよー」


正直、気が進まない。すべての原因は野球にあるからだ。

昔のことは思い出したくない。頭の記憶から消したい。

でもこれから一生、忘れる事がないくらいに後悔している。

心の葛藤がしばらく続いた。


前に進むためにもここは、やっておくべきだ!考えすぎてもダメだ!

ネガティブよりポジティブいこう!

自分に言い聞かせながらOKの返事をした。

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