ライフリング・ゼロ

@kaede1123

第一章 ドラゴン討伐編

プロローグ

 戦う力とは古今東西、時代背景によって指し示すものが違っていた。


 石器時代で言えば石器製の武器、戦国時代で言えば刀、多様化された現在であれば銃火器。


 最もそれは人の主観という色眼鏡が加われば更に変わってくる。


 情報であったり、薄っぺらい紙屑や目に見えない電子媒体のお金。


 全てが全てを武器ということに無理があるだろうが、それでも人類は長い歴史の変遷の中で様々なものを武器として生き抜いてきた。


 その主戦場は国であったり社会であったりと、これまた多様に存在するものだが、そんな中でも変わらないものは存在する。




 勝者と敗者。


 

 それは“世界を越えて”も存在する絶対ルール。


 その世界に魔法や魔法を利用した技術の産物が存在したとしても、戦い方が変わり戦い方を取り巻く環境が変わったとしても、絶対に変わることの無い摂理であり真理。


 普遍的存在とも言える見えない概念は、時に哲学としても機能し人の心を縛り付ける毒ともなる。


 戦いには勝者と敗者が必ず存在する絶対的なルールの上に、科学知らない世界の者達が魔法の予備知識も無しに挑んだところで絶対に魔法戦では勝てない。


 同様に魔物が存在しない世界で育った者が、戦い方も知らずに魔物に挑んだところで八割がた殺されるだろう。


 絶対ではないにしろ結果は目に見えている。


 それが現実として存在するのが今の世界。


 異次元の門を通して繋がった一つの世界の中で、結局のところ違う世界同士で分かり合えることは勝つか負けるかということだけ。


 少なくともそれが根本に存在するルール。


 だがそれでも、例外だって存在する。魔法に対し魔法を知らないものが挑んだら負けるという話の中、では科学を知らない者に科学をぶつければいい。


 斜め上の発想から生まれた転換期が、この拮抗した別世界同士の立ち位置を大きく変えた。



 そう、例えるならば、一発の銃弾をより真っすぐより遠くへ飛ばす銃口の内側に刻まれた溝が、銃を形作る上で重要な普遍的なルールとしよう。


 圧倒的な状況下の戦場や戦いの中で、ルールから外れながらも奇跡的な成果を起こす者がいた。


 また、どう考えても不可能な暗殺をやり遂げるものがいた。


 そんな長年の戦いの歴史の中で築き上げられた概念を飛び越え、絶対的な枠組みの中から外れること、外れた者やそんなルールに囚われず、ルールに抗う者を、いつしか人々はこう呼ぶようになっていた。



───理不尽を捻じ曲げる者ライフリング・ゼロと。



 だがそんな奇跡的な伝説も、伝える者がいなくなれば廃れるし、時折偽物だって現れる世の中である。


 人間だっていつまでも戦争しているわけではない。


 繋がってしまったとは言え、違う世界同士で戦い続けることに意味はない。それ故にそんな奇跡の話は、何時しか伝言ゲームの如き捻じ曲げられ、使えない役立たずの存在、それこそ線状の無い使い物にならない銃に例えてポンコツ野郎ライフリング・ゼロへと置き換えられていった。



 最もこれら一連の流れを歴史と呼べるほど、一つになった世界は長い時間を過ごしていない。


 これはあくまで一人の少年の、人生の中で経過した時間の中での話である。




※※※



 GWゴールデンウィークまで目前ということもあり、学園都市風見ヶ丘の街の街頭テレビでは、GWを意識したCMがバンバン流されていた。


 マーチャンダイジング手法ってスーパーでよくある販売手法じゃなかったか? なんて思ってしまうのだが、GWにこそ浮かれる国民を狙い撃ちにするような抱き合わせ販売を促す内容がずらり。


 


 それだけGW商戦は一年の中でも重要なイベントと認識されているのだろう。


 勿論GWは社会人だけじゃなく一般の学生にも訪れる青春の1ページ。


 彼女彼氏がいる生徒ならばここぞとばかりにデートできるだろうし、四六時中一緒にいたら飽きちゃうよなんて、リア充だから言える発現すればリア充狩りに襲われるだろうし、青春なのか地獄なのかは人それぞれ。



 少なくとも風見ヶ丘大学付属学院カザフの生徒である嵯峨楓さがかえでにとって、GWは地獄でもなければ青春でもない。


 カラーでも言えば灰色グレーだったが、それはたった数分前。


「俺、GWは彼女と過ごすから」


 そんな友人の言葉を受けて、自分が現在青春とは程遠い場所に立っていると気づかされる。


 それでもまだ限りなく黒に近いグレート言えるかもしれないが、友人が彼女とイチャイチャしている間、自分は無為な時間を過ごしていると考えていると、どうにも真っ黒に染まりそうになる気分である。


 それでも笑顔で良かったねと言えれば最高の友人かもしれない。


 例え内心では背中に気を付けろよと下卑た笑みを浮かべていたとしてもだ。


 友人がGW中に彼女と喧嘩をしますようにと、一足先早い七夕に呪いを込めながら、楓は自分の席に戻ると、前の席である幼馴染の男子生徒の清木場嵐きよきばらんが話しかけて来た。


「釣りにでも誘ったのか?」

「ああ。でも彼女と過ごすってさ」

「そうか。あいつの命もGWまでか。短い付き合いだったな」

「だな。来世ではミジンコに生まれ変わる様に祈ってやろう」

「軍事教練では顔面狙いだな」

「俺は防具の隙間を狙う」


 日常的に慢性化しつつあるリア充への妬みは、友人の裏切りで更に増幅。


 最早心は人の形を捨てて一種の鬼となっているのだが、それでも彼らは高校生。やることは軍事教練の際にフレンドリーファイアを意図的に引き起こす程度である。


 最もそれだけでも十分酷いのだが、彼らにとっては生ぬるい懲罰でしかない。


 ゲートによって二つの世界が一つに繋がった際、試験的に学園都市に導入された軍事教練科目は、今では正式な必須科目に認定され、現在では各都道府県の公立学校や一部の私立学校にも導入されている。


 それだけ時代は様変わりし、民間企業でも軍事ビジネスに手を染めることができるようになった。


 その結果、ここ数年で軍事関係へ進む生徒の数が飽和状態になったのも事実。

 

 だからこそ日本政府はそれを解消する為の新たな土台を用意した。

 異世界での冒険者稼業という、未だ発展途上のブルーオーシャン。


無論、異世界に跋扈する魔物の討伐は、異世界人の方が一日の長であるが、文化文明の発達が遅れ、魔法文明だけが発展しているという歪な文明の中で、冒険者ギルドを創設する着想が生まれるほど発想力は育ってなかった。


いや、あったのかもしれないが、現に存在していない時点で環境的、もしくは何らかの経済事情で出来なかったのだろう。


それ故に文明的に異世界より数百年も先を行くこちらの世界の人間日本国家は、様々な小説や漫画にアニメなどから着想を経て、それを教育やビジネスに取り込み、冒険者稼業へと繋げて飽和した軍事ビジネスから弾かれた者達の受け皿にした。


「くそ。こうなりゃGWの間は異世界で稼ぐか」


 それ故に、今時の若い子達筆頭の楓達の会話が必然的に、そう言った内容に偏るのも頷ける。



「でもよう、お前そう言えばロボ工の研究無かったか?」

「あああああああああああああ!! すっかり忘れてた!」


 嵐の一言で思い出したように慌てて立ち上がった楓だが、それが時すでに遅しとばかりに、既に教室に来ていた教師がこめかみに青筋を立てていることで気づく。


「その様子なら気づいたようだな楓。この後“生徒相談室”な?」


 担任であり軍事教練の教官であり、非常事態の際には作戦指揮官さえ務めるエリート教師。

 タイトなスーツでは隠し切れないプロポーションの見た目と裏腹に、苛烈でお仕置きが酷いと噂の九里坂悦子くりさかえつこは、出席簿の端末画面の教科ガラスを、うっかり握力で割りそうになりながら、楓にそう告げるのだった。

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