第54話
ウィル・アルヴァ。神話の時代に、虐げられていた人間達を守護し、父なる神と崇められるようになった、創造神の一欠片。
脆弱な存在ながら力強く生きる人間の姿に、未来への可能性を見出したウィラルヴァは、人間こそ、竜族をも超えた特別な存在ではないのかと、苦悩を抱えるようになる。
それはやがて、人を信じたい、人を守りたいという思いとともに、人でありたいという願い、そして、絶対神であらなければならないという責任と、三つ巴の想いとなり、ウィラルヴァの心を蝕んでいった。
そして勃発した、奴隷達の反乱。
神族との圧倒的な力の差に、次々と討たれてゆく人間達。そして、それでも挫けずに団結する人々の姿を目にし、複雑な想いを抱えたウィラルヴァの心は、ついに崩壊を迎えた。
やがては父なる神と呼ばれることになる竜神、ウィル。
母なる神と呼ばれることになる竜神、アルヴァ。
そして、残された虚無、名も無き欠如神。
三つに分かたれた絶対神の、いつ終わるとも知れぬ戦いの幕開けだった。
神話の時代より、人々の守り神であった父なる神、ウィル。
果たして彼は本当に、俺の中にある理想の父親像、そのものとして描かれていたのだろうか。
分からないが、遠目とはいえ、実際に彼の姿をこの目に映してみて、湧き上がった感慨、その温かさは、疑うべくもなかった。
そのウィルが、言ったのだ。
ティアスで待っていろ。必ず会いにゆく、と。
ならば、再会できるそのときまで、全力で守り切らねばならない。
ティアスは…レインティアは、何があっても守り抜いてみせる。
もう一度ウィルと出会える、そのときまで。
今にも雨の降り出しそうな曇天の夜空を、マリカの意識に委ねて飛翔を続ける。
──シュウ様、どこかで一度、休憩を取りましょう。かなりの神力を、消耗されていらっしゃいます──
本当に人が住めるのかと、疑いたくなるほど荒れた大地の続く中、いくつかの集落の上空を飛び越え、見晴らしの良い岩山の、頂上付近に翼を休める。
かなりの距離を、全力で飛んできた。さすがにここまでくれば、あのガーゴイル達も追ってはこれないだろう。
そもそも、あれが召喚魔法である限り、術者であるルイーズ、もしくは配下の誰かしらから、遠く離れた場所では、コントロールすることができなくなってしまう。
それだと、その辺りの魔物と、同様の存在でしかない。恐るるに足らず、というやつだ。
──解除します──
マリカの言葉に合わせ、寄り添った暖かい感触が、身体から抜け出てゆくのを感じた。
俺の背中にあった斑天竜の翼が、フワリと浮き上がり、人型のマリカが、幽体離脱するかのように姿を現わす。
完全に実体化したマリカが、軽く手を振ると、いつものマリカの猫耳フード姿の服が、ふんわりと風に揺れるようにして、マリカの身体を覆っていった。
「ディグフォルト…融合解除」
究極融合状態のディグフォルトを、リングへと戻す。
途端に、グラリと意識が揺らいだ。
ラグデュアルと交戦してからこちら、ずっと融合状態を維持していたのだから、さすがに無尽蔵の神力も、底を尽きかけていたらしい。
ちょっとマズい状態だ。意識が途切れてしまうほどではないが、しばらく休まないと、移動するために飛ぶことすらできないだろう。
額に手を当てて、軽く息を吐く。辺りを見渡すと、緑もなく岩肌しか見えない殺風景な風景が広がっていた。
切り立った絶壁に近寄って、その向こうを見下ろす。視力はもう常発能力のものだけだが、それでも普通の人間よりは見える。荒れた荒野の続く平原の、遥か遠くの海岸沿いに、小さな漁村らしき影が見え隠れしていた。
ここは大陸のどの辺りになるのだろう。…分からないが、最初にこの世界に降り立ったときの、あのサソリの魔境から、ずっと南に行った、帝国領のどこかになるのだろうとは、なんとなく把握できた。
「そういえば、マリカ? 猫姫融合のことだけど、あれは一体、どんな理屈で…」
と、マリカに猫姫融合の、詳細を聞こうとしたら……
「あ! その辺に魔物がいるかも知れないにゃ! ちょっと偵察して来ますにゃ!」マリカがそそくさとした態度で、クルッと後ろを向いた。
……おっと。突然のニャーニャー言葉。
これは何か都合が悪いようだ。何を隠そうとしているんでしょうか?
「マリカ。ちょっと待ちなさい」
翼を広げて飛び立とうとしていたマリカの首根っこを、ガシッと引っ掴み、持ち上げて、山頂の平らな岩肌部分へと強制連行する。
「は、離してくださいにゃー。偵察に行けないにゃー」
プラプラ揺れるマリカが、飛び立てずに必死に翼をパタつかせた。
「マリカさん…何か、隠していることがありますね?」
「な、何も隠してないにゃ。濡れ衣にゃ」
「にゃーにゃーゆってる時点で、信憑性はない!」
ちょっと語気を強めて言ってみせると、マリカは猫耳をショボンと伏せながら、諦めたようにため息を吐いた。
「分かりました。でも…ちょっと長い話になりますが、聞いてくれますか?」
そう言って、どこか思い詰めたように、肩越しにジッと俺の目を見る。
うん。素直でよろしい。では、聞かせていただきましょうか。
「……ことの始まりは、ジャスミンティーの魔法を開発するのに、水魔法の取得が、どうしても必要だったことにありました」
しおらしく話し始めたのを見て、マリカを地面に下ろすと、近くにあった手頃な岩に腰掛けた。
マリカは俺のそばに歩み寄り、薄暗い中、ちょうど同じくらいの高さになった目線を合わせながら、続けて語り始めた。
「水の属性を生まれ持たなかった私には、水魔法を取得する術がありませんでした。いくら覚えようと努力しても、水竜神ティン様の元に通って、水魔法を習っても、初級の魔法すら、発動させることができなかったのです」
なるほど…。それはまぁ、そうだろうと思う。人間と違い竜族は、いくら修練しても、生まれ持った属性の力しか、扱うことはできない。
そもそも、扱うための機関が備わっていないのだ。耳がなければ聴くことができす、目がなければ見ることが叶わないのと同様に。
続けてマリカは語る。
「そこで私は考えました。私が水の属性を扱えない理由、私の中にある竜族の理、そのものを弄ってしまえば、水魔法を使うことができるようになると」
…ふむ。なんとも恐ろしい発想だが…まぁいい、とりあえず話を聞こう。
「理を操作する魔法…勿論、この世界の理、そのものを操作できるだけの力は、得ることはできませんでした。ですが、百年以上の長い研究の末に、理の表層程度なら、作り変えることのできる魔法を、編み出すことに成功したのです」
「理を作り変えるってお前……いや、まぁいい。賢竜マリカウルなら、それくらいのことができて当然かも知れないな」
とはいえ……恐ろしいことでは、あるんですけどね。一歩間違えれば、この世界をも滅ぼし兼ねない危険な能力だ。
すでに存在している理に干渉して、利用するだけならば、他にもできる者がいるだろう。
例えば
もっとも、ダグフォートがシィルスティングとなった現在では、闇竜皇ヒメリアスが、それを代行しているわけだが。それでも理を読み解き、干渉し、使用するのは、漆黒竜ディグフォルトでも可能だった。その知識があり、干渉する力を有しているからだろう。
マリカが操作できるという、表層程度ってのが、どれくらいのものなのか、今一つピンとこないが…まぁとりあえず、太陽を西から昇らせることができるとか、この世界のルールを覆すようなことは、不可能なのだと思う。
…でなければ、マリカ一人で破壊神も倒すことができるだろう。
マリカはちょっと笑って、
「買い被りすぎです。そこまで大したことが、できるわけじゃありません。水の適性を付けて、水魔法を覚えることはできましたが、下手したら人間でも扱える人がいそうなほど、初歩中の初歩の魔法だけです」と、自嘲気味にほっぺを掻いた。
なるほど。精々が、何もないところから水を出す、程度のことってわけか。攻撃魔法に応用できるほどじゃない、ということだろう。
「この世界を構成する理を、操作することができるのは、シュウ様だけですから」と、マリカは俺を見て、自分のことのように、得意気に胸を張った。
……うん。それについては、ツッコミどころがあるけれど。
確かに、知らずにいくつかの理を定めてしまったのは俺だろうけれど、大部分はウィラルヴァが創造したか、あるいは、自然とそうなってしまったものだ。
まぁ…とりあえずは、話を聞こうか。
「私はシュウ様の…創造主様の、第一の眷族なのです。シュウ様の中に存在する、シュウ様の眷族の理。
シュウ様が未だ、ご自身で把握しておられず、無防備だった眷族の理を操作して、私は…というかアルちゃんもですが、正式に、シュウ様の眷族という立場にあります」
…………………ん?
え? それってどういう……
「私も、アルちゃんも、シュウ様の加護下にあるのです。シュウ様の場合、加護というよりは、保護という感覚に近いですが。
ネーロとマウラも、直接、名を与えられたことにより、シュウ様の加護下に入りました。私の眷族であった彼らは、必然的に、シュウ様の眷族としても、迎え入れられたのです。
マークやトニー、そして最近ではギルス・レインも、シュウ様の聖域である、あの屋敷に住んでいる難民の皆んなも、シュウ様の加護下にあります」
「ち、ちょっと待て!? それって、いつの間にそんなことになってるんだ!?」
マリカはクスクスと笑いながら、
「シュウ様が、ご自身でそうなされたのです。おそらく、無意識に。
勿論ある程度のことは、第一の眷族である私の権限によって、問題が起こらないように、コントロールしてあります。
そうですね、例えば…屋敷の外にいつも集まっている、下級ロード達に関しては、シュウ様に絶対的な忠誠心を抱いている者にしか、加護は与えられていません」
ええっ!? あいつらも!? それって、どんだけウェルカムな加護なんだよ!?
「待て待て待て待て! それって大丈夫なのか? 俺に加護を与える力があるのかどうかは、とりあえず置いておくとして…
例えば父なる神の、ウィル・アルヴァの加護なら、一定量の神力を増強させるとか、死したのちに、大陸の西側に生まれやすくなるとか、加護ごとの特殊能力があるだろう?
闇竜皇ヒメリアスや、マリカ…斑天竜の加護ならば、神力ブースト性能に加え、光と闇の属性技の威力が上がったり。
創造主の加護って、なんなんだ?
何か、厄介な特殊能力が、付いたりするんじゃないのか!?」
そう。この問題で、何よりも一番大事なのは、その部分だ。
俺に加護を与える力があるってのは、まぁ百歩譲って納得するとしよう。マリカが言うんだ。間違いはないのだと思う。シィルスティングや導きの靴に加えて、ウィラルヴァが持たせてくれた力だとしたなら、十分にあり得る話だ。
ネーロとマウラが、六星魔竜にしては強すぎるのも、マリカが俺の設定の、遥か上を行く力を備えているのも、それが理由なのだとしたら、辻褄も合う。
ただし、その加護を受けたのが、マリカやアリエルのような竜族なら、まだいいのだ。
だが、人間であるセラお姉さんやマーク君達、さらには子供達まで、加護だか保護だかの影響を受けているとしたら、後々、大きな問題が生じるかも知れない。
特に子供達だ。もし俺の加護のせいで、あいつらに何かあったら、俺は絶対に、自分を許すことができない。
マリカは、そんな俺の心情を察したのか、ニコリと笑ってかぶりを振り、
「いいえ。今のところは、なんの心配もありません。
シュウ様の加護は、特に強力な、神力増強能力がありますし、身体能力も格段に向上しますが、その他には特に目立った能力は……
ああ、ラルフお爺ちゃんは、やたらとお酒に強くなったりしていましたね。もしかしたら、病気なんかにも強くなるのかも知れません」
「いやいや、それはまぁ、都合のいい能力だとは思うけど。
今のところ、ってどういうことだ?」
さらっと聞き流しそうになったが、そこだけは聞き捨てならない箇所だ。
マリカは何かを確認するように、静かに、俺の胸に手の平を当てた。軽く目を伏せて、俺の心音を確かめでもするかのようにして、ピコピコと猫耳を動かす。
「まだ…ハッキリと定まってはいないのです。何しろ、シュウ様ご自身が、ちゃんと把握していらっしゃらないので。
これから、徐々に定まってゆくと思います」
「徐々に定まってゆく? それって何を基準に定まってゆくんだ? 俺が、そう強く念じでもすれば、定まるっていうのか?」
マリカは困ったように小首を傾げた。
「それは、シュウ様にしか分かりません。私に把握できるのは、理の表層部分のみです。
深いところは、その本質は、シュウ様にしか理解することはできません。それは加護や眷族の理だけに関わらず、全てにおいて同じことが言えます」
いや…それもまた、飛び抜けて大仰な話に聞こえるが…。
そもそも俺には、この世界の理どころか、眷族の理すら、把握する術がない。ただの人間に、それを把握する術なんか、あるわけがないじゃないか。
あるいは魔導具の開発のときのように、シィルスティングを使って眷族の理を把握しようにも、眷族とは、神族である竜族、特有のものだ。相当に上位の神族でないと、眷族を持つことはできない。少なくとも俺の出した設定では、そういうことになっている。
俺の所有する上位竜族といえば…確かに、元は闇竜神ダグフォートである漆黒竜ディグフォルト、そして光竜神ラウヌハルトであった白銀竜ランファルトがあるが、その二体はシィルスティングになったときに、眷族を後継に譲ってしまっている。シィルスティングとなってしまったら、眷族も加護も消滅してしまうからだ。
つまりその二体を使っても、眷族の理に関しては、把握することができない。眷族の理がどういうものなのか理解していたとしても、把握し、操作する力そのものは、失われてしまっているからだ。俺が把握できる理は、精々が、岩獣の魔神らを使っての、魔導具を開発するのに利用できる理、だけに過ぎない。
……だよな? ……うん。所有しているシィルスティングをざっと思い出してみても、それ以外の理を把握できそうなシィルスティングには、まるで心当たりがない。
「シュウ様は、理解する術を分かっておいでのはずなのです。あるいは……シュウ様がこの世界の理、その根源を把握し、干渉するためのシィルスティングが、あるのかも知れませんね」苦笑気味にマリカは言った。
そう言われても、心当たりがないものはしょうがない。俺の知らない能力を持ったシィルスティングが、リングの中に眠っているということだろうか。あるいは、所有していないシィルスティングの中に、そういった能力を持ったカードが、存在しているということなのかも知れない。
…いや、恐ろし過ぎる能力だぞ、それ。仮に所有している人物がいるとすれば、ウィラルヴァをも超える神、と言っても過言ではないと思う。ウィラルヴァにさえ、捻じ曲げることができない理が、この世界には存在しているのだから。
さすがに、そんな奴はいないと思いたいところだが…。
まぁとにかく、今は、俺の持っているという、眷族の理や、加護のことが大事だ。
うろ覚えではあるが、確か、加護下にある竜族や人間が、全て眷族という扱いには、ならなかったと記憶している。
眷族として権利を持つのは、竜族…つまり、この世界の神族のみであり、人間で言うなら、家族にも等しい絆を持つことになる。
加護というのは、神獣以下の存在、つまりは人間にも与えることは可能で、基本的に、与える側の器が大きければ大きいほど、より強力な特殊能力を持つことができる。
例えば、父なる神の加護ならば、受けた者は普通の人間よりも強い神力を持ち、死して竜脈を流れて生まれ変わる際に、大陸の西側…つまり、破壊神の支配領域を避けて生まれ易くなる。
余談だが、元は孤児であり、父なる神の教会の孤児院で育ったトニー君なんかは、父なる神の加護下にあるはずだ。つまり、俺の加護と合わせ、二つの加護を持っていることになる。
ここ二度ほど、ウィルは聖戦で連勝しているらしいが、その大きな要因は、父なる神の加護下にある人間が増えてきた、ことにあるだろう。これから先、時代が流れるほどに、破壊神は父なる神に勝利することが、難しくなってゆくはずだ。
ただしその力は、ウィルの器の大きさに依存されている。加護を受けた人間が増えれば増えるほど、その効力は薄くなる。
最も分かりやすい例えは、母なる神の加護だろう。母なる神の加護は、この世界に生まれ出る、全ての女性に与えられている。
だが、これと言って大きな変化があるわけではない。男性よりも少し寿命が長く、健康である、といった程度のものだ。加護を受けた人間の数が多い分、その効力は低くなっている。
…俺の中に、どれだけの器があるのかは、分からない。だが少なくとも現時点で、マリカは化物級にパワーアップしてしまっているし、もしかしたらこれから先、破壊神の加護のように、呪いだらけの厄介な特殊能力が、発動してしまう危険性もある。
…そんな不安定な加護下に、子供達を置いておいて、大丈夫なのだろうか。不安しか感じないんだが。
「…ご自分が、信じられませんか?」
考え込んだ俺の顔を見て、察したのだろうか。マリカが優しく微笑みながら、そっと俺の頰に片手を添えた。
「シュウ様は、邪悪ではありません。常に皆んなのことを考えてます。子供達の笑顔を考えてます。
だから、大丈夫です。シュウ様が、シュウ様らしくある限り、破壊神の加護のように、おかしな方向に定まっていくようなことなど、ありえません。
それに…何かあれば、第一の眷族である私が、なんとかします! だから、何も心配なさらないでください」
腰に手を当てて、ドヤ顔で胸を張ったマリカが、得意気に自慢の尻尾を、フリフリと揺らめかせた。
「…ありがとうな、マリカ」
ポンとマリカの頭に手を置いて、ヨシヨシと撫でる。
確かに。これは難しくアレコレ考えても、どうにもならない問題だろう。だったらマリカの言う通りに、加護が危険な方向に定まってしまわないよう、普段から心掛けておく以外に方法はない。
…あるいは、次にウィラルヴァに会ったときに、解決策を聞く手もある。…一向に夢の中に出て来てはくれないが。
とにかく。ウィルの言葉を借りるわけではないが、成るように成るだろう。心配するだけ無駄だ。
「そうか。まぁ…普通に考えたら、都合がいい話ではあるよな。セラお姉さん達が強くなれれば、それだけ生き残れる可能性も上がるわけだし」
「あ。言い忘れてましたが、セラお姉さんだけは、シュウ様の加護下にはありませんよ」
「………はい?」
「シュウ様は、セラお姉さんを保護していません。逆に保護されていらっしゃいます」
え? いや、まぁ…確かにそのとおりだけれど。
…マジ? 俺の加護って、そんな認識で成り立ってるの!?
「まぁこれについては…今後、何かしら解決策を、考えていけばいいと思います」頬にタラリと汗を垂らし、マリカが苦笑いした。
「そうだな……。まぁ最悪、危険な場所には、連れて行かないようにすればいい話だし」
「そうですね。とりあえずは、それが無難かと。
さて、あまりのんびりもしてられません。飛翔速度は落ちてしまいますが、私が飛んで移動しましょう。背中に乗ってくださいな」
マリカが足元から黒い煙を巻き上げ、斑天竜の姿になった。
「分かった。もう朝までに帰り着けそうにはないが……ずっとここにいるわけにも、いかないもんな」
マリカの背中によじ登り、ふうっと大きくため息を吐く。
斑天竜の翼がバサリとしなり、グンっと力強く上昇していった。
…予定では、一晩で帰るはずだったんだけどなぁ。思ってもみない大遠征になったもんだ。
湿り気のある夜風を受けつつ、過ぎ去る景色を眺めながら、自然と、もう一度大きなため息が漏れた。
だが俺はこのとき、全く気づかずにいた。
肝心の猫姫融合の真相について聞きそびれ、マリカが密かにほくそ笑み、キュピィンと目を光らせていたことを。
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