チョコ菓子よりも欲しいのは(ヴァダース、コルテ)
お忍び日和の続き物のようなものですが単独でも読むことはできます
ポ●キーゲームネタ
一応コルテ×ヴァダースのつもりです
北ミズガルーズにある玄関口、港町フルーア。戦闘服ではなくカジュアルな装いに身を包んでいるヴァダースとコルテは、その街の商店街通りを歩いていた。秋晴れの空が心地良く、最高の散歩日和である。
「それにしても、久々に街に来ましたが随分と様子が変わるものですね」
「そうですね、活気に溢れている良い街です。まったく平和そのものですね」
「商品も見たことがないものが結構出ていますよ、ツクヨさん」
「あとで見て回りますか?」
ところで、ヴァダース・ダクターはカーサの最高幹部としてその名前が世界中に知れ渡っている。商人や一部の一般人でさえも、カーサの最高幹部にはヴァダース・ダクターという人物がいると知っているほど。
そんな人物がこの港町を歩いていることに、街の人たちは気付いていない。それは同行者のコルテに今日一日は偽名で呼ぶよう依頼したからだ。変装していることも相まって通り過ぎる町の人たちは誰も、彼がヴァダース・ダクターだと気付いていない様子である。平和ボケというか、愚かというか。今日に至ってはそれが好都合ではあるのだが。
街を練り歩いていると、やたらと人だかりができている店があることに気付いた二人。顔を見合わせ、立ち寄ってみることにした。
人だかりができていた場所はどうやら、菓子店のようだ。人だかりの中にはカップルがいたり、自分たちのように男性の二人客や女性の二人客なんかもいる。彼らのお目当てはその菓子店で売り出している、新作の菓子らしい。店員が忙しなく働いている様子が伺える。そんな中、店の外では宣伝なのか、一人の従業員がその菓子の説明をしていた。従業員らしき男性はヴァダースとコルテを見て、にこやかに声をかけてきた。
「そこのお洒落な方々、新作菓子お一ついかがですか?サンプルで3本セットのこちらをお渡ししています」
手渡された包みを見ると、それは長細いチョコ菓子だった。従業員曰く、細長く成形し焼き上げたプレッツェルに、溶かしたチョコレートをかけたものとのこと。あまり見ない形の菓子だが、それが何故こんなにも人だかりを作っているのか。
「それはですね、当店でこの菓子を使ったあるゲームを提案したところ、自分たちも試してみたいとお声を頂きまして。それが結果的に、こんなにも多くのお客様にお求めいただけているのです」
「あるゲーム、ですか?」
「はい。二人で行うものなのですが、お互いこの菓子を両端から食べあうだけという単純なゲームです。ルールはたった一つ、両端から好きなように食べあうだけ。恋人同士でなら、いつキスしてしまうかという駆け引きなんかもできるのですよ」
だから店内にはカップルが多いのか、と納得する。もらった菓子を手にしたヴァダースが、感心したように話す。
「ほう、人の心理を使った中々に趣深いゲームですね」
「はい。お楽しみいただいたお客様の中には、途中で気恥ずかしくなって菓子を折ってしまったという方や、すぐさまキスしてしまった方もいらっしゃって、実に多種多様な結果を当店でも拝聴しています」
「それはそれは。では、私も試してみましょうか」
「ありがとうございます!そちらのお客様もぜひ、大切な方と楽しまれてはいかがでしょう?」
従業員がコルテにも試供品を渡す。礼を告げてから、二人はその場から離れることにした。チョコ菓子なので早めに食べなければ溶けてしまう。
「どこか落ち着ける場所で試しに食べてみましょうか?」
「溶けてはあと後が大変ですからね、そうしましょうか」
そう会話をしながら歩きだすヴァダースとコルテ。コルテは歩きながら、先程のヴァダースの言葉について考えていた。私も試してみましょうかというあの言葉。ヴァダースはスタイルもよく、基本的に人に接するときは紳士的だ。組織内で彼に恋心を抱いている人物が案外いることを、コルテは知っている。
もしかしてもうすでに誰かと恋仲になっているのだろうか。ヴァダースも人間だ、きっと自分よりも魅力的な人がいればそんな人と付き合うのだろう。彼の幸せを願っている自分にとっては、良いことだ。それなのになんだろう。この、誰かにとられることに恐怖しているこの気持ちは。自分以外の人と付き合うヴァダースのことを考えたくない、この仄暗い感情は。嫉妬?自分が?誰ともわからないヴァダースの想い人に?
「──て?……コル──」
いや、彼の幸せを願うのなら自分は身を引くべきなんだ、そうあるべきなんだ。でも本当は、彼にもっと自分のことを見てほしい。自分以外の人間と付き合ってほしくない。でもそれを言うことは彼に迷惑をかけるのではないか──。
「コルテ!」
彼の自分を呼ぶ声で、コルテは我に返る。目の前を見れば、自分の顔を心配そうにのぞき込んでいるヴァダースと目が合った。
「あ、も、申し訳ありません!」
「上の空でしたが、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。申し訳ありませんツクヨさん」
「それはよかった。ベンチもありますし、座ってこれを食べてみましょう?」
「はい」
いけない、彼に気を遣わせてしまった。自分のために今日の散歩を提案してくれたというのに、情けない。コルテは軽く頭をふるって、ヴァダースの隣に座る。
「それにしても、このような菓子一つで楽しめるだなんて。なんとも安い享楽ですが、それはそれで楽しいのでしょう」
「先程伺ったゲームのことですか?」
「ええ。コルテ、よければ私と試してみませんか?」
「え……!?」
ヴァダースの突然の提案に、コルテは耳を疑う。思わず反論してしまった。
「僕よりももっとふさわしい方が、ツクヨさんにはいらっしゃるでしょう?その方に申し訳ありませんし、なにより僕では役不足ですよ……!」
「コルテ?」
「僕はツクヨさんの隣でなく、一歩後ろでいいのです。ツクヨさんと、貴方が慕う大切な方との幸せを願っているのですから」
にこ、と笑うがヴァダースは一つため息をついてから、こう口にした。
「コルテ。何か勘違いをしていませんか?」
「勘違い……?」
「ええ、大きな勘違いです。私が大切に思う人物は、目の前にいるというのに」
「え……それ、って……」
「わかりませんか?私は貴方を慕っているのですよ、コルテ」
「……!」
にこりと笑うヴァダースの顔を見て、とんでもない勘違いをしていたことを改めて思い知る。しかもかなり恥ずかしい勘違いだ。しかし恥ずかしさよりも今は、嬉しさの方が勝っている。だって、夢みたいだから。ヴァダースが、自分のことを慕っているだなんて。
「そもそも好きな相手でなければ、こんなゲームをしたいだなんて思いませんよ」
「そう、なのですか……?」
「あのですね、そこまで私が尻の軽い男に見えるのですか?」
「そんなことはありません!ただその……信じられなくて。だって、ヴァダース様が僕のことを慕っているなんて……」
「では、試してみますか?」
そう言ったヴァダースは手渡されていた試供品のラッピングを解き、チョコ菓子の端を咥える。その様子を見て、コルテはゲームのルール通りに反対の端を咥えて食べ始める。
これは、思った以上に気恥ずかしい。思わず目を瞑る。だが気配でわかる。ヴァダースも自分と同じようにチョコ菓子を食べている。顔が近づいていくことがわかる。どうしよう、いっそのことチョコ菓子を折ってしまおうか。うん、折ろう。これ以上は求めてしまう。
そう思い口に力を入れようとして、唇が重なり合う感触を感じた。思わず目を見開けば、眼前にヴァダースの顔がある。彼の瞳の満月は瞼が閉じられていて見えないが、それでも自分とキスをしているのは、紛れもなく慕っている彼で。
やがて唇が離れる。チョコからか、キスからか、甘い余韻が残っている。離れたヴァダースはにこりと笑う。
「これで、わかっていただけましたか?」
貴方のことを慕っていることを。
胸が高鳴る。こんな幸せなことが、今までにあっただろうか。夢のようだ。
ならば今日は、もう我慢なんてしない。
コルテは満足そうに笑いながら、ヴァダースの頬に手を添える。
「はい、十二分に。でもまだ、足りないです。だからヴァダース様──」
──もっと、ください。
チョコ菓子なんかよりも魅惑的で官能的で、甘い愛を。
もっと感じさせてください、記憶に焼き付けるように。
******
ということでポ●キーゲームネタでした
本当は前の話につなげるつもりだったんですが、さすがに一話に一万文字近くはアカンと思って分けました。
……これ、コルヴァダなのかなぁ……?
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