第9話 人質解放作戦! 1

 時間がない。

 俺は即座に魔力を集結させて焔を纏い、掴んだ手首を砕く。


「っがぁっ!」


 そのまま俺は投げ飛ばし、次へ。

 加速だ。


「「人質を殺せっ!」」

 

 二人の声が重なる瞬間、俺は二人目に追いつく。

 容赦なく弾丸が吐き出されるのを俺は手のひらで受け止め、そのまま懐に潜り込んでから鳩尾に一撃。焔を爆裂させ、二重の衝撃でぶっ飛ばす。

 三人目は、接近してたら間に合わない。

 俺は即座に銃を抜き放つ。寸分のズレなく《闇火》を纏った弾丸が敵の銃を弾き飛ばす。さらに追加の銃撃で腕、足を撃ち抜き、俺は剣を抜きながら跳んだ。


「――くっ!」

「その反応だけは認めてやるけど、遅いっ!」


 構える《ヴィラン》に、俺は剣を当てる。一振りで、三つの斬撃。

 光の軌跡が駆け抜け、《ヴィラン》が切り飛ばされる。これで、人質は解放できる!

 俺の合図を待たずして、疾風が抜ける。

 ほんの僅かな、灰の臭い。

 それを残して、鼠小僧は鮮やかに颯爽と、人質三人を救い上げて消える。


 第一段階はクリア!


 俺は振り返りながら構える。

 呼応して、《ヴィラン》と市民が入り乱れて襲い掛かってくる。これも想定済み。

 確かに、この速度の中でいちいち見抜いて攻撃してたら間に合わないな。銃弾も飛んできてるし。殺害覚悟で魔法をぶっ放すのは、あまりにも乱暴すぎる。


 だからこそ。


 ナポレオン。

 お前だ。


「――《革命の開闢皇帝》」


 静かな声。

 同時に、一定範囲に効果が現れる。

 ずしんと重い空気――威圧だ、これは。

 刹那にして、動きが著しく鈍る奴らと、あまり変わらない奴らと分かれる。

 俺は大きく息を吸って地面を蹴る。


「いくぞっ!」


 しなやかに、鮮やかに。

 俺はすり抜けながら、悪性に偏った市民だけを狙って手刀を叩き込む。

 全員を昏倒させ、俺は軽く跳躍する。入れ替わるように戦場へ入ってきたのは、他でもないナポレオンだ。


「《豪烈風》っ!」


 ナポレオンが魔法を解放し、気絶した一般市民たちだけを吹き飛ばす。

 実に器用な魔法だ。優秀なナポレオンらしい。

 俺はまだ、あそこまでの細かい魔法コントロールはできないからな。本当に頼もしい。


「――ナポレオン? どうしてここに? 取り返しに来た? いや、けど……」


 混乱するクルとスル。

 これもまた狙いだ。ナポレオンが《ヴィラン》連中に有名なのも承知だからな。ナポレオンはそれだけ前線で常に戦ってきていたのだから。


 だからこそ、《ヴィラン》側の大攻勢でナポレオンはそっちにかかっていると二人は予想していたのだろう。


 完全に全滅したからこそ、《ヴィラン》側へは情報が十分にいき渡っていない。だからこそ使えると思ったものだが、上手くいってくれたようだな。

 俺はニヤりとしつつ、攻撃に出る。

 一般市民が全員弾かれたなら、もう遠慮はいらない!


「ナポレオンばっか見てたらぁ……火傷するぞ?」


 俺は全身から《闇火》を解放する。

 ちょっとずつだが、使い方に慣れてきてるぞ。


「スル、ナポレオンを頼む」

「おっけー、そっちのワケわかんない赤いのは任せるぞ」


 相手も動いてくる。

 俺たちに連携させないよう各個撃破を選んだか。そりゃそうだよな。相手は一定距離から離れないようにしなければ、互いに恩恵を得られる。


 けど……分断はこっちの作戦通り!


 俺は黙って敵に突っ込んでいく。さっき、銀髪にスルっていってたから、この金髪顔面ピアスはクルだろう。得物は――剣か。接近戦タイプか?

 見るからに真正面から戦うタイプじゃない。


 ほぼ確実に搦め手を使って攻めてくるタイプだ。


 どんな手段を使ってくるか分からない以上、警戒はしておかないと――!?

 俺は膨大な魔力の膨張を感じ取って咄嗟に左へ跳ぶ。

 直後、誰かが俺の腕を掴んだ。鱗肌の《ヴィラン》だ。じゅう、と音を立てて《ヴィラン》の手が焼かれ、煙を上げる。だが、離すことはない。

 つか、むしろ力が強くなってる!?

 振り払おうとした瞬間、背中に誰かがのしかかってくる。それだけでなく、正面から突っ込んでくるやつ、足をつかんでくるヤツ。数にして一〇人以上。


 何をするつもりだ?


 ざわざわと背中に嫌なものが駆け抜ける。《武士の直感》が働いているのだ。

 なんの攻撃だ!?

 ざわめきが、確信に変わる。

 俺にひっつかむ《ヴィラン》どもが、一斉に発光し、膨らむ。


 ――ずどずどずどずどおぉおおおんっ!!


 轟音。

 幾つもの爆発が、熱が、風が、俺を襲う!

 ぐちゃぐちゃになる中、俺は脱出していた。装備とスキルのおかげでほとんどダメージを受けていないが、問題はそこじゃない。

 あいつ、自分の部下を自爆させやがった!


「あはははっ! 今の爆発から生き残るなんて、大したもんだ」


 爆炎を突っ切り、俺は剣を引き抜きながら一気にクルへ肉薄する。カウンターに横薙ぎの一撃がやってくるが、俺は片腕で受け止め、剣を弾いてから一回転。三つの斬撃を放つ!

 ――が。

 その直前に《ヴィラン》が割り込み、代わりに攻撃を受ける!


「なっ……!」

「無駄だ。お前じゃあ、俺様に傷はつけられねぇよ」


 ずしゃあ、と崩れ落ちる《ヴィラン》の奥で、クルが舌で口周りを舐める。

 面白い挑発だ。

 だったら、もっと早く動くまで!

 俺は地面を蹴って左右にフェイントを刻みながら接近を試みる。

 だが、進路を塞ぐように《ヴィラン》どもが突っ込んでくる!


「《闇火》」


 俺は両腕から焔を放ち、邪魔する《ヴィラン》を一撃で屠っていく。応じるように、クルは剣を構えて魔力を高める。


「《氷凍舞》」


 放たれたのは、冷凍の液体。

 このまま焔をぶつけたら、爆発を起こす。予想した俺は拳を握りしめ、地面を殴った。

 豪快な破砕音と共にクレーターが生まれ、暴風が吹き荒れる。


「――ほう」


 風で冷凍の液体を弾き散らしてから、俺は銃を構え、炎を撃つ。


「ああああああっ! 《闇火砲》っ!」


 反動で腕がはじける中、渦巻く火炎がクルに迫る。

 そこに、ぼこぼこと音を立てて肉体を再生させている様子の《ヴィラン》が割り込む。


 って、おい、マジか!?


 驚く余裕はない。

 嫌な気配に全身をささくれ立たせ、俺は剣を振るいながら一回転する。

 次々と襲いかかってくる銃弾の雨を正確に把握しながら回避し、剣で叩き落した。


「《死して尚傀儡》」


 両手を広げながら、クルは嘲笑う。


「俺様の能力は、一度でも糸をつなげば、死んでも俺様のために働く人形と化すもの。それだけじゃなく、魔力を強制消費させて、自在に操ることも可能だ。つまり、周囲に仲間がいればいるほど、俺様は強くなるぜぇっ!」

「初手から自爆させるヤツのどこが仲間だっ! 仲間なら大事にしやがれ!」

「価値観の相違だな! 仲間は自分の良いように使ってこそだろう!」

「嫌いだな、大っ嫌いだな、そういう考えはよぉっ!」


 勢いよく地面を蹴ってクルに迫るが、また《ヴィラン》が邪魔してくる。

 これはどうにかしないとな──ん?


「剣技【風】、三の太刀」


 邪魔してくる《ヴィラン》に隠れて、クルが迫ってきていた。低い姿勢からの剣──が、ブレた!?

 なんだっ!?

 危険を感じて、俺右へ緊急回避!

 着地と同時に、風の刃が吹き荒れた。逃げ切れなかった《ヴィラン》たちが切り刻まれる。


「危険察知はあるようだな」


 姿勢の整いきらない俺に、クルが接近戦を仕掛けてくる。すかさず俺は振りかぶりの一撃を受け止めて、……弾けない?


「お前、剣を持っているくせに剣技を持っていないのか。低ランクか?」

「!」

「喰らえ。剣技【風】、三の太刀」


 周囲の魔力が荒れ狂い、俺を含めて一帯をズタズタに切り裂く!

 ──……ってぇ!

 やはりダメージはほとんどないが、痛みはあった。くそ、してやられた。


 剣術の上位スキル──剣技。


 Bランク以上になると適正があれば覚えられるスキルだ。剣を扱うにあたっての基礎が剣術なら、剣技はその進化版、象徴に応じて様々な効果を持つ技を使える。

 剣術しか持てない俺じゃあ、正面からやっても良いように斬られるだけだ。

 それだけ剣術と剣技には隔たりがある。


 じゃあ、俺が相手に勝っている要素があるとすれば。拳しかねぇだろ。


 クルが飛び込んでくる。既に技に入っているのだろう、キレも動きも鋭い。

 俺は躊躇なく剣を投げた。

 一瞬の虚。そこをついて、俺はカウンター気味に懐へ。ぎょっとしたクルの顔面に、俺は真っ赤に光る拳をめり込ませた。


「だったら、殴るっ!」


 真横にはね飛んだ顔面に、俺は斜め下から上へ回し蹴りをかます。


「さらに、蹴るっ!」


 がつん、と鈍い手応えと共に、相手が上に吹き飛ぶ。俺は素早く姿勢を整え、腰だめに構えて拳に《闇火》を集める。

 一瞬で極限にまで高め、閃光にした《闇火》を放つ。


「そして……ぶっ飛ばすっ!!」


 轟、と焔が空気を焼き払いながら、スルを飲み込む。


「んなっ……ムチャクチャだぁああああああああ――――――――っ!?」


 全身を激しく燃焼させながら、スルは地面に落下する。何度かもんどりうってようやく止まり、全身をボロボロにさせながらも立ち上がる。

 肉が抉れていたはずだが、急速に修復されていく。

 たぶん、自称仲間の魔力を吸い上げて再生させているのだろう。クソだな。


「ムチャクチャ上等だ。本気になったジジイってのはな、デタラメに強いんだよ」


 俺は拳を突き合わせて言ってやった。

 さーて、本番といこうか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る