29 名古屋ばあの話
私には2人、大切な祖母がいます。
一人は、実話怪談で度々登場するのは父方の祖母です。
生まれた時から一緒に暮らしたので、
私が言う“おばあちゃん”は、多くの場合彼女のことをさします。
もう一人は、今回初めて登場します、母方の祖母であります。
小学校の休日や祝日には、
彼女がいる母方の実家に遊びに行くのですが、いつも笑顔で温かく迎えてくれる優しい人で、私は大好きでした。
神社の敷地内にあるこじんまりとした平屋で暮らしていて、
夫婦でお宮さんの仕事をお手伝いしており、
心優しく慈悲深く、
動物が大好きで、肉が食べられない、
ちょっと天然な素敵な方です。
名古屋で暮らす彼女のことを、
私は親しみを込めて、名古屋ばあと呼んでおります。
今回のお話は、
そんな名古屋ばあが体験した2つの不思議なお話です。
ちなみに、今回のお話は名古屋ばあに直接ではなく、母から聞きました。
ですので、記憶が曖昧なところがありますが、現在ご本人に確認が取れる状態ではないため、そのままぼんやりとした表現のまま書くことをお許しください。
(1)母の肌が綺麗な理由
実の娘である私が言うのもなんですが、
母の肌はとても綺麗です。
ファンデーションや下地が無い状態でも毛穴一つなく、きめ細かく滑らかでトーンが明るい理想の肌で、
20代の従妹達からも
「A子さん(母のこと)って本当に肌が綺麗!羨ましい!何かやってるの?」と
羨ましがられるほどです。
そんな美しい肌を持つ母ですが、幼少期は酷いアトピーで悩んでおりました。
顔だけではなく全身が真っ赤に荒れており、
当時の医師からも
「ここまで酷いアトピーだと、ステロイドぐらい強い薬を使うしかない。だけど、治ったとしても、ケロイドだったり発赤の後遺症が残ることは免れない。」と言われたほどです。
祖母は母の肌に悩みました。
このままステロイドによる治療をするか、
それとも、
後遺症が残るぐらいなら他の治療をした方がいいのか…。
愛する我が子の治療の分岐点に立たされ、
祖母は途方にくれました。
悩みの渦中にいた祖母ですが、突然、転機が訪れたのです。
ある日のこと。
祖母は夢を見ました。
夢の中で、祖母は電車に乗っているのですが、なんとそこに、すでに亡くなっていたはずの自分のお母さんがいたのです。
着物を着た彼女は祖母の隣に座っています。
(もう死んだはずなのに、なんで一緒に電車に乗っているんだろう。)
そんなことを思いつつも、言葉は交わさず、流れ去る車窓の景色を眺めました。
しばらくして、電車がとある駅に停車しました。
お母さんに促されて、祖母はその駅を降りました。
今まで一度も聞いたことのない駅で、見たことのない景色が広がっています。
お母さんはそのまま祖母をある場所へと誘導しました。
そこは、今まで一度も行ったことのない、見知らぬ神社でした。
信心深い祖母はためらうことなく、お母さんと一緒に手を合わせてお参りをしました。
すると、お母さんは祖母の方に向き直ってこう言ったのです。
「これでもう大丈夫。」
そこで夢から覚めました。
何だか不思議な夢だったな、と思った祖母でしたが、本当に不思議なことはその
なんと、あれだけ酷かった母のアトピーが薬を使うことなく、自然にけろっと治ってしまったのです。
そんなわけで、年を重ねた今も、母の肌は後遺症なく、美しいのであります。
(2)雲の中の顔
今から何十年も前のこと。
祖母がお買い物をしに、町を歩いておりましたら、ふと金物屋が目につきました。
その金物屋は、祖母が普段から贔屓にしており、お店を切り盛りしている夫婦とも大変仲良くしているところです。
祖母は見慣れた金物屋の頭上を見上げ、呆気にとられました。
なんと、そこにふわふわと雲が漂っているのです。
その雲はただの雲ではございません。
金色(もしくは、五色*1)に輝いており、雲の真ん中には、金物屋のご主人のお顔がはっきりと浮かんでおります。
祖母はそれを見て、
(ああ、なんて綺麗な雲なのかしら。どうして金物屋のご主人のお顔があそこにあるのかしら。)なんて具合に、美しさに見とれてしまったそうです。
少ししてその雲は霧のように消えてしまいました。
後日、金物屋のご主人が亡くなったことを知らされた祖母。
命日はなんと、彼女が雲を見たその日だったそうです。
*1
陰陽五行説に由来する、青・赤・黄・白・黒の五種類の色の組み合わせのこと。
神社になじみ深い祖母なので恐らく黒ではなく紫の組み合わせとを見たと思われる。
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