16 ありがとう




同じ介護職であるということで意気投合した

ジュンベリーさんは、

実際に見えることはないものの、

それ以外の感覚で霊の存在を感じてしまうのだとか。



お線香や強烈な独特の臭いを嗅いだり、

誰かの強い念や思いが中々離れず、

耳鳴りや金縛り、

話し声に悩まされるなんてことがあるそうです。



そんな彼女が語ってくださった2つの体験談に出てきたのは、

視覚で感じられるものとはまた違った霊の存在。


とても興味深いお話でした。





1つ目は、彼女が好きだったアーティストのお話。



ジュンベリーさんは昔、

あるアーティストグループのことが気になるようになり、

彼らが出る番組などを何気なく録画するようになりました。



そのグループのメンバーの1人は病気に侵されており闘病中だったそうです。



ある日の朝のこと。



夢と現実のはざま

目の前に闘病中であるその人が現れたかと思うと、

ジュンベリーさんに最高の笑顔を見せて、

「ありがとう。」と話しかけてくれたのです。



現実ではないにしろ、

好きなアーティストが話しかけてくれたという幸せな体験のはずなのに、

彼女は悲しい気持ちで胸が苦しくなり、

気が付いた時には涙を流していたのです。



それから2日後、ニュースがその人の死を伝えました。

偶然か否か、命日は、彼女が「ありがとう」と話しかけられた日でした。



とても優しいアーティストだったその人が、

ファンの元へ一人ひとり挨拶に行ったのだろうなと思ったそうです。





2つ目は彼女が以前勤めていたデイサービスでのお話。



利用者のAさんは、歩行も不安定で食欲が落ち、寝ていることが多くなった方でした。



デイサービスでは

お食事や入浴などの生活支援の他に、

レクリエーションを行うなどの

活動が出来るようになっているのですが、

その方は来たとしても、ほぼ横になって過ごされていたそうです。



ある日のこと。


Aさんは急にしゃっきりと立ち上がり、

しっかりとした足取りで歩きだしたかと思うと

利用者さん一人ひとりの手を握り

「ありがとう。せばな!(ここの地方の方言でさようならの意味)」

と声を掛けていったのです。



Aさんはデイサービスの時間を挨拶に費やし、

一通り終えた頃には帰る時間となり、

そのまま帰宅されました。



Aさんはその日を境にして、デイサービスの利用を休むようになっていきます。



ある日の朝、ジュンベリーさんが利用者さんを迎える準備をしていました。


その一貫で、Aさんが寝転ぶ際に好んで使っていたソファーを整えます。


ふと頭の中に、Aさんの声で「せばな!」と聞こえてきたのです。


今、誰も来ていないはず、どうして声だけが聞こえたのだろうと首を捻りつつそのまま準備を続けました。



準備を終えて介護職員が集まってする朝礼に参加して、申し送りが始まりました。


そこで初めて、Aさんが亡くなったことを知らされたのです。



身なりを綺麗に整えて、礼儀を重んじる丁寧な性格のAさん。


きっと挨拶に来てくれたのだろうなと感謝の気持ちで胸がいっぱいになったそうです。







人の念や、霊臭に悩まされてしまうジュンベリーさん。




その強い感性だからこそ、

彼らの「ありがとう」という感謝の気持ちを受けとることが出来たのかなと思います。




胸がじんわり熱くなる素敵な体験談でした。





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