7 母の気遣い


Iさんは幼い頃

オカルトや怖いことが好きでした。


どれくらい好きかというと

お化けが出るという噂を聞いては

友達とその場所に探検に行くほど。


幼稚園の頃から仲のいい同級生のA子も

オカルトが大好きで

一度身体が動かなくなる体験をしたIさんに

「分からなかったら南無阿弥陀仏でいいからお経を唱えるといいよ。」と助言をしてくれたことがありました。


怖い思いを2度としたくないとその言葉を刷り込んだそうです。




Iさんが子供の頃、

2階建てのお家に引っ越すことになりました。


幼心に階段がある家に憧れていたので

とても嬉しかったそうです。


新しいその家で楽しい生活に

胸をときめかせるだけで良かったのに

Iさんのオカルト好きはここでも発揮され

あることをしたくて

うずうずしていました。


それは階段の段数を数えること。


A子から「アメリカの死刑をする時に使う階段は13段なの。だから13って不吉な数字なんだよ。」と聞いていたのと、

当時、13日の金曜日だったりと13が不吉な数字というのが流行っていたのでどうしても階段が13段か確認したくなったのです。



1…2…。

Iさんの幼い足がうきうきと階段を登っていきます。


9…10…11…。

もう階段の先が見えてきています。


12…13…。



13で足が止まりました。

階段は13段だったのです。


(階段が13段だ!)

その途端急に怖くなりました。


想像は楽しいのに、実際に起こると怖くなってしまう。

幼い頃にはよくある可愛らしいことです。


階段の段数だけなら気のせいですませたのでしょうが…。





それから3~4年後、

小学校3年生になった夏の終わりのある日。



寝室で寝ている最中、

Iさんは身体が動かなくなりました。

幼いIさんは当然パニックに。



その足を手が掴んできました。

その感覚はまるで、老婆のようなしわしわの手。


それは掴むだけでなく、Iさんを引っ張っていきます。



ダメだ!連れていかれる!と恐怖を感じていたIさんはA子の言葉を思い出しました。


藁にもすがる思いで必死に

「南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!」と

唱え続けます。


念仏の力か、

しばらくしてIさんの金縛りは解けたのだとか。




次の日、そのことをお母さんに伝えると

朝御飯に塩むすびを握ってくれたそうです。



その家は中学生になる前に引っ越していきました。






さて、Iさんが中学生になった時です。


お母さんが「もう時効だから話すけど…。」と

ぽつり。



実はお母さんには元々霊感がありました。

テレビからの雰囲気を感じとり、

チャンネルを変えることもあるぐらい。


あの2階建ての家には何かいるとすでに感じ色々と怖い思いをしていたお母さん。

ですので、それらの存在から家族のことを守っていたそうです。

しかし、体調を崩してしまった時には守ることが出来なかったのだとか。




きっと、子供のIさんに言っては怖がると

気遣って何も言わずに守ってくださっていたのでしょう。






さて、そんなIさんですが

実はもうひとつ体験していることがあります。


おなじく小学生の頃

母方の曾祖母が危篤だと連絡が入り

夜中にお母さんが出掛けることになりました。

あんたもついてくる?と聞かれ悩んでいると

耳元で「行きなさい」と女性の声で言われ、

ついていったら最後の時に立ち会えたという

体験。



ご先祖様か守護霊か。

どちらにせよ、Iさんの守りの強さがうかがえます。




Iさんはその体験を曾祖母がなくなるからという意味で言ってくれた、所謂虫の知らせと受け取っていましたが

私はもうひとつの意味でもとれるのではと思いました。





「お母さんがいなくなったらこの家は危険だよ。」



その忠告でもあった「行きなさい」だったのではないか。





あくまで作者の妄想ですが…。


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