第16話 出た目で こうげき


これは、今から10年前の話だ。





市民病院にある4人部屋の病室。



ビニールカーテンで仕切られた狭い空間に、

俺を含めた男4人が狭苦しく間を詰めてベッドを取り囲む。




ベッドの角度を少し上げて上体を起こしているのは、親友のショーゴ。




俺ら5人は小学生の頃に出会った。


一度高校で離れたものの成人式で再会し、

その日から数えてもう6年もの付き合いになる。



ここまで仲が良くなれたのは、兄貴肌で面倒見が良く、明るい性格のショーゴが中心にいてくれたおかげだ。




そんなショーゴが交通事故に遭って入院したという知らせを聞いた時の衝撃ったらなかった。



居ても経ってもいられなかったのは俺だけじゃなかったらしい。



SNSのチャットでやりとりし、返信がなかった1人を除いて予定を合わせて、こうしてお見舞いに来たのである。




「悪かったな!わざわざ来てもらってさ。この通り、元気だからよ。」




いつもと変わらない真夏の太陽みたいに暑苦しい笑顔を浮かべながら言うが、どこからどう見ても元気には見えない。



それもそのはず。




その笑顔のすぐ上、おでこには何重にも包帯が巻かれていており、あまりにも見た目が痛々しい。




彼はバイクで帰宅途中、慣れた道で電柱にぶつかるという単独事故を起こし、頭を何針も縫う大怪我を負ってしまったのだ。




普段はおしゃれな服装と茶髪とが相まって若々しい印象なのに、今は地味なパジャマ姿で少しやつれた顔。



年相応…いやそれよりも老けて見える。



流行とは程遠い重たい黒縁眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな遠山が腰をかがめて目線を合わせた。



「どこがだよ。全然元気そうじゃないじゃないか。というか、元気なわけがないだろ。

電柱に正面から衝突したんだろ?

もし、俺らを気遣って言ってるなら、今すぐにやめてくれないか。

折角お見舞いに来たというのに、心配されてちゃ面目丸つぶれだ。」



ぐっと眉間にしわを寄せつつ口角を下げたその顔は、心配と叱咤する気持ちが混ざったような表情をしている。



友達思いの遠山は、大きな事故に遭ったというのに元気そうに振舞っているショーゴが無理しているんじゃないかと心配になったらしい。




「いや、本当に体はこんなだけどさ、それ以外は元気なんだよ。心配ありがとうな。」

「なあ、事故った時ってどんなだったぁ?バイクだったから衝撃も相当だったろ?」



遠山とは対照的に、心配するそぶりは全く見せず、自分が気になったことを聞くマル。


親友が事故にあって今、痛々しい姿でいるというのにこいつは相変わらずマイペースだ。


もう慣れっこなのか、ショーゴは淡々と答える。



「驚いたよ。

いつもの慣れた道を運転してたらさ、突然車が飛び出してきたように見えて。

避けようとしたらそのまま電柱にズドン!だよ。

その時に頭をぶつけたのか、しばらく意識無くしたな。」

「へぇ。直前まで気づかなかったってこと?

26歳って若くないんだなぁ。

高校からバイクに乗り始めて、乗りなれたはずのお前でも事故するんだもん。怖えよ。」

「お互いにおっさんになったよな!ははは。」

「俺はバイクじゃないけれど、建築やってれば色んな重機に乗らざるを得ないからさぁ~。

昔から乗りなれてるとはいえ気を付けないとなって。

お前が事故起こしたっていう連絡もらった時思ったよ。」

「あれ、マルは誰から連絡もらったんだ?」

「俺の奥さんから。ほら、俺とお前の奥さん仲良いから。そこからみんなに伝えたってわけだ。」

「あ、そうか!そうだったな。ありがとう、マル。

それにしても、嫁がいて助かったよ。事故した場所が家の近くでさ、音を聞いて駆けつけてくれて。…あ、そういえばタケ、オダケン。お前ら結婚は?」




ショーゴが俺ともう一人、無口なオダケンに顔を向ける。



オダケンがすすんで身の上話を話さないことは分かっているから、彼の発言を待たずにすぐに答えた。




「俺は去年のプロポーズが断られてから気まずくなっちゃってさ。今も付き合ってるけど変わりなし。ほぼほぼ夫婦同然なんだけどね。」

「仕事に集中したいって言ってたもんな。でも、年も年だろ?もう一回お前から言ってやったらどうだよ。」

「それが中々ね。オダケンは?」




これ以上結婚の催促をされるのを避けるために、オダケンに話を振った。



「俺は…もう恋愛は良いかな。」

「さすがモテ男は言うことが違うな!ははは。」

「そんなことねえよ。」



静かに否定するが、オダケンが女性にモテることはその容姿から明らかだった。



どこか暗い表情をしているが、それもまた絵になる。


踏ん切りがつかなくて結婚をしていない俺と違い、しようと思えば出来るけれど好んで独身でいる、そんな余裕があるオダケンが羨ましい。




「あれ?マコトは?」



ショーゴが周りを見渡して遠山に尋ねた。



「ほら、あいつ今東京で働いてるだろ?来れないみたいでさ。」

「仕事が忙しいんだろうな。あいつ、幸薄い顔してるからなんか心配だわ。」

「大丈夫だろ。それなりにやってるって。」

「そうだといいんだけどな。タケは仕事大丈夫か?まだあのブラック企業に勤めてんのか?」



ショーゴが包帯とおでこの境目を親指で掻きながら言う。



「ブラックじゃないって。忙しいだけ。でも、そろそろ気晴らししたいかな。」

「お、じゃあ、俺が治って色々落ち着いたら温泉でも行こうか。」



その提案にマルの目が少年のように光る。



「いいねぇ~。疲れとろうよ。」



そこから全員口々に今まで行った旅行の思い出を語りだした。



「今まで色んなところ行ったよな。高知に行ったの覚えてるか?」

「大学の時だろ?あれが1番の遠出だったな。」

「部屋代浮かそうとして一部屋だけかりて、誰が床に寝るかじゃんけんしたよな。」

「ははは。懐かしいな。」

「そうだなぁ~。

…あれ?さっきからなんか鳴ってね?」




マルが周りを見渡す。

実はその音は全員薄々気づいていた。



マナーモードにしたスマートフォンの連続したバイブレーション。


その長さからして、着信なのが分かる。



遠山が俺を見る。

「タケ、お前か?俺は違う。」

「いや、俺じゃない。」

「俺でもないよぉ~。オダケンじゃない?あ、そうだ。隣から聞こえるもん。」



指摘されたが、オダケンはスマホを取り出そうとしない。



「オダケン?」

「とりあえず切るか何かしてくれないか?気になるから。」

「…そうだよな。ごめん。」




遠山に注意されて流石に無視できなくなったのか、ポケットから携帯電話をとりだすオダケン。


その画面を見て、オダケンの目が見開いた。



「どうした?」

「…いや、結構時間経ってるなって。そろそろ帰ろうぜ。長居しても悪いだろ。」



それを聞いて腕時計を確認する。


俺らがこの部屋に来てから20分が経とうとしていた。




「本当だな。ショーゴ、お大事にな。そろそろ帰るわ。」

「お大事にぃ~。しっかり治せよ~。」

「おう!気をつけて帰れよ!ありがとな!」



ショーゴがニカッと笑う。



話を聞いた時は心配だったが、元気そうなショーゴが見れて良かったと安堵した。



病室を出てエレベーターに向かおうとナースステーションの前を通る。



カウンターの近くでファイルを見ていた1人の若い看護師が、

俺らに気づくなりハッとした顔になり、

「すみません。」と声を掛けてきた。




「はい?」



遠山が振り向いて応える。



「すみません。お声を掛けるのを忘れていました。面会票書かれていませんよね?ご記入をお願いします。」

「あ、そうでした。すみません。全員分まとめて書いてもいいですか?」

「はい。ここに代表の方のお名前と面会人数、ご関係をお願いします。」

「分かりました。」



看護師から説明を受けた遠山が筆立てに手を伸ばす。

無作為に取り出したのは、町内会で配られるようなグリップのない安っぽいつくりのボールペン。



掴み方が悪かったのか、それはするっと手から滑り落ち、ビニール製の床に転がった。



その光景を目にした途端、

頭の中に稲妻が走ったような強い衝撃を感じた。



「おいおい、遠山大丈夫かぁ?」

「ははは。もう年だわ。」



マルと遠山の朗らかな会話が聞こえてくるが、俺の心はざわつき落ち着かない。




「タケ?エレベーター乗るぞ。」

「あ、ああ。」



気のない返事をして3人が待つエレベーターに乗り込む。



下降していく静かな箱の中、

俺はボールペンが転がったのを引き金に思い出したある記憶を反芻してしまっていた。



(なんで、なんで、今思い出したんだよ…!)



全身からにじみ出てくるべたつく嫌な脂汗。


その不快感に耐えつつ、目の前にある3人の背中を眺める。



目に焼き付いた、転がるボールペンの映像と共に、抑圧していたあの日の光景がじんわりと鮮明に思い出されていった。









コロコロコロ…。


六角形の鉛筆が机の上で転がる。

俺らは机を囲んで息をのみ、食い入るように見ていた。


ピタッと止まった瞬間、歓声があがる。



「やったー!俺の勝ちだ!」

「すげえ!やったな!」

「くっそ!負けたー!」




俺らが小学校4年生だった頃。



当時、バトル鉛筆というものを使った遊びが流行っていた。



あるゲームのキャラクターが書かれた六角形の鉛筆には、

 【パンチ -10ポイント】みたいに技名と与えられるダメージが書かれている。


点数を100ポイント持っているところからスタートし、

お互いに鉛筆を転がして、ダメージを与えたり身を守ったりして戦う。


先に持ち点が0ポイントになったものが負けという遊びだ。




技は【ほのおビーム】や【みずカッター】、【すがたがきえる】なんてのもあったかな。



今思うとしょぼい技名だけれど、当時子供だった俺にはそれらが最高にかっこよく思えた。



俺は持っていなかったけれど、

人気のキャラクターが書かれた鉛筆のデザイン、かっこいい技と単純で分かりやすく面白い遊びに、すっかり夢中になっていたのだ。



その日も俺たちは、帰りの会が終わったにも関わらず、教室に残ってバトル鉛筆で遊んでいた。



「オダケン!お前、やっぱり強いな!」

「へへっ。」

「あ、やべ!俺もう帰らないと!」

「遠山、帰るのかよ!」

「塾あるから!めっちゃごめん!」



遠山がバタバタと駆けて帰っていく。



机の上には、見たことのないバトル鉛筆が残されていた。



「あ、あいつ忘れていったのかな。タケ、いつも見てばっかだろ?今日は参加しようぜ!」



ショーゴがそれを俺に向かって差し出す。

赤色が印象的でかっこいい鉛筆で、思わず手に取ってしまった。




ただ、手にして俺はがっかりしてしまった。



他のバトル鉛筆と同じなのは六角形であることぐらいで、人気のキャラクターが書かれておらず、技も何も書かれていないのだ。



いや、文字が書かれてはいるようなのだけれど、目がかすんでしまったのかよく見えない。




「タケ、試しに転がしてみろよ!」

「え、あ、うん。」



促されるまま握っていた鉛筆を机に放つ。



コロコロコロ…。



数回回転しながらゆっくりと曲がっていき、それはオダケンの前で止まった。





【24 ずっといっしょ】





手書きしたかのような文字で、意味の分からない数字と言葉が書かれている。



「オダケン、これってどういう意味?」



バトル鉛筆に慣れたオダケンに聞こうと顔を上げ、固まった。



目の前には、大人になったオダケン。



その背後には女が寄り添うように立っており、真っ赤に塗った爪をオダケンの両肩に食い込ませながら、首をひしゃげるように曲げて顔を覗き込んでいた。




「え!」



瞬きした瞬間に彼らは消えていて、そこにはいつものオダケンがいた。



驚いて鉛筆を見ると、そこには先ほどとは違い【ビリビリ電気 -15ポイント】と、技名と与えるダメージが書かれていた。



「これは俺に15ポイントのダメージを与えたってこと。」

「すごいな!いきなり攻撃成功だ!」



オダケンの冷静な説明と、ショーゴの褒め言葉にすっかり気分を良くして、さっき見たことなど忘れてしまった。



「じゃあ早速俺と戦おうぜ!」



マルが俺の正面に躍り出る。



「おーし!負けないぞ!」




早速鉛筆を投げた。


やはり、先ほどのは見間違いだったのか、変な目が出ることなく順調に進んでいく。



バトルは手に汗を握る展開になった。



マルは残り30ポイントで俺は10ポイント。


このままいけば俺の負けだが、30ポイント以上の大技を出せば逆転勝ちも出来る。




(絶対に倒す!)




そう念じて鉛筆を転がす。



コロコロコロ…。



乾いた音を立てながら回る鉛筆。

ある面を上にしてピタッと止まった。



待ちきれなくて、かぶりつくようにすぐさま鉛筆を上から覗きこむ。




そこに書かれていた言葉を見て、俺は言葉を失った。




【40 つぶれる】




オダケンの時と同じ、手書きのような文字で数字と言葉が書かれていた。



慌てて顔を上げると、そこには誰もいない。



ただ、足元に嫌な感覚を覚えた。




怖くて下を見ることが出来なかったが、

何もなかったはずの床にいつの間にか水たまりが出来ていて、

俺はそこに足を突っ込んでいるらしかった。




「うっ!」



靴下に染みこんでくるのは、水よりも粘性のある生暖かい液体。


ゆっくりと足を上に引きあげると、ネチャッという音と共に、鼻に鉄のような臭いがまとわりついた。



(なんだこれ!気持ち悪い!)



言葉も出せず、目を見開いて突っ立つことしかできない。


その間も靴下に液体が染みこみ、臭いが増していく。


動けずにいる俺の肩を誰かの腕がバンと叩いた。




「ひい…!」

「残念だったな!タケ。負けだよ。」

「え、え?」



隣には笑顔のショーゴ。

目の前には得意げなマル。



机の上には2本の鉛筆があって、

俺の鉛筆は-10ポイントの技、

マルの鉛筆は-50ポイントの大技の面を上にして静止していた。


それを確認する頃には、足元の水たまりも、臭いもすっかり消え去っていた。


その場で足踏みをし目でも確認したが、

木製のタイルが敷き詰まっているだけで何もない。




「そんな地団駄踏むなって。」

「え、違う…。そうじゃない…。」

「よっしゃ!次俺な。」



混乱している俺をおいて、マルとショーゴが入れ替わりバトルの準備をし始める。



「ま、待って、俺、もう…。」



震える声で訴えるが聞いてもらえない。



「どうしたんだよ?ほら、持ってって!」

マルが俺の手に鉛筆を握りこませてくる。



「あ…、あ…。」



鉛筆を投げることへの恐怖で動けずにいると、目の前にいるショーゴと目があった。



彼の頬がぴくつき、イライラとしているのが分かる。



早くバトルをしたい気持ちは分かるが、

その態度は怯えて困惑している友人に向けるものにしてはあまりにも冷徹だ。



バトル鉛筆に対する恐れは、だんだんと無言で急かしてくるショーゴへの苛立ちに変わる。




(うるさいな!分かってるよ!)




俺は大きく振り上げて鉛筆を床に叩きつけた。




カーンカン、カンカン…。



鉛筆が床にぶつかって弾む、乾いた音が響く。




「おい、タケ。力入りすぎだろ。」

「…。」

「タケ?」

「わ、分かってるよ!!」




カッとなった頭のまま、机の下に潜り込んで鉛筆を探す。



辺りを見まわたし、ショーゴの足元にそれを見つけた。



這いずってそこまで行き、バッと掴み上げる。


眼前で鉛筆と対面した。






【26 たいあたり】






その言葉は、マルの時よりも濃く太く乱れた文字で書かれていた。




頭が真っ白になり、それから目が離せなくなる。




少しして何者かの小さく早い呼吸音が聞こえ、生暖かい息が顔に掛けられるようになった。






ピントは合わないが、鉛筆の向こうに誰かがいるのが分かる。




存在に気づき、俺の呼吸も早まる。




(だ、誰…?)




ゆっくりと、ゆっくりと鉛筆を下ろしていく…。






目と鼻の先にあったのは男の顔。





それは、大人になったショーゴの顔だった。





額はアケビのようにぱっくりと裂けて、そこからあふれ出た真っ赤な血が顔を染め、目はあらぬ方向を見ていた。





「う…うわあああああああ!」





机に背中をぶつけたことも気にせず、絶叫しながら教室から逃げ出す。



後ろから2人の声が聞こえるが止まれなかった。



休むまもなく駆けてたどり着いた下駄箱の前で、中腰になり呼吸を整える。



ふと、右手に目をやった。



走る間も存在を感じていた、掴んでいたはずの鉛筆。


開いて見た手のひらは汗をかいているばかりで何もない。



忽然と姿を消したそれは、二度と見つかることはなかった。


















気が付いた時には、俺は病院の出口に立っていた。



まだ呆然として無気力な俺の耳に、遠山とオダケンの会話が入ってくる。



「遠山、まだガラケーなのか?」

「マルもだよ。いきなり替えてもなれるまで大変だろ。

そういえば…オダケン、着信あっただろ?折り返さなくていいのか?」

「あ、いいんだ。」

「いやいや、もし大事な電話だったら…。」

「違う。そんなんじゃない。」




オダケンが苦々しく言い放って、スマートフォンの画面を遠山に向ける。




「…元カノだよ。24歳の時に分かれたっていうのに、より戻そうって今も電話かけてくるんだ。」

「この、短時間で、20件?」

「番号変えても、かけてくるから…。もう今は無視してる。」




遠山が顔をひきつらせる横で、マルが大きなあくびをした。




「俺、そろそろ帰るわ。明日早いし。」

「そ、そうだな。俺も帰るわ。タケ、また今度な。」

「あ、ああ。じゃあな。」




消え入りそうな声で言って、力なく手を振る。



遠山は首をかしげたが、2人に流されて歩き去っていった。




1人残された俺の心の中を、ある思いが埋め尽くしていく。




(ショーゴが事故に遭ったのは…俺のせいだ…。)





鉛筆に汚い文字で書かれていた【36 たいあたり】。




その言葉に沿うように、

26歳のあいつは電柱にぶつかって、

あの日見た幻覚のように頭を怪我した。



あの鉛筆が出した面は必ず現実で起こる。


そうとしか思えなかった。





(だとしたら…あいつは…。)





並んで歩く彼らの左端にいるマルの背中が、いやに目につく。





サーっと血の気の引いていく足先から、

あの日の水溜まりに浸かっていく錯覚に陥った。



(全部…俺のせいだ…。)



とりとめのない罪悪感が肩にのしかかる。




あの真っ赤な鉛筆に全ての責任を押し付けたかったが、それは出来なかった。




なぜならあの時、ショーゴに対する怒りをこめて床に叩きつけたのは俺だったから。


そして、マルを倒そうと強い気持ちを込めて投げたのも。





心の奥底に湧いた嘆きが喉元まで込み上がり、「ごめん。」という言葉がこぼれる。






姿が見えなくなってもずっと、

俺は壊れた機械のように、

「ごめん。」と繰り返し言い続けていた。

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