第37話 最後の戦い
どちらから始めただろうか。静かに火蓋は切って落とされ、同時に二人は走り出した。
中空で激突し、衝撃が部屋に走る。
(クソッ! ……コイツどんだけ強いんだよ……!)
アーテルは現在、複数の魔法を使用していた。
一つは自身の動きを速くする〈
だと言うのに、速さと力は拮抗していた。
二人が足に力を籠める度、床に亀裂が入る。力を籠めすぎるせいで、船内はボロボロだった。崩壊するのも時間の問題である。
『まさか! 拮抗するとは思わなんだ!』
「こっちもお前同様力を隠してたんでな!ハァ!」
同程度の力がぶつかり、空気を振動させる。今までつなっがていなかった罅が、一気に走り、全てつながった。
遂に、船は二人の戦闘に耐えられなくなり、崩落し始めた。
「『ッ!』」
ガゴンッとどこからか音が鳴り、ズズズズと船全体が振動する。そのことを知りながらも、二人は戦っていた。具体的に言うと取っ組み合いである。
相手の手をがっちりと掴み、押したり引いたりして、相手を転ばせようとする。子供の喧嘩にいつの間にか成り下がっていた。
「おい! この船沈んでるんじゃないのか!」
『そのようだな!』
直近で叫び合い、現状の確認をする。
「大丈夫なのかよ!」
『そんなわけないだろう!』
小学生みたいな会話を続ける二人。敵同士だった筈なのに普通に会話をしているのはなぜだろうか。
しかし、その間にも戦闘は続いている。子供の喧嘩から一転、再び超常の戦いに切り替わった。
「ラァッ!」
『フンッ!』
アーテルは刀で斬りつけ、ハナエルは自身の硬い腕で攻撃を防ぎ、殴り返す。アーテルはすぐさま飛びのき、また突撃する。
「ゼイッ!」
『セアッ!』
何度も何度も切り結び、衝突し、跳ね飛ばす。
だが、そう何度も耐えられるはずもなかった。
二人同時に床に着地した瞬間。足場が崩れた。
『「なっ!?」』
二人して地面に向かって落ちていく。
「クソッ! ってそういえばこの船住宅街の上にあったよな!?」
『ええ。これら全部弾き飛ばさないと被害が大きくなるわ!』
「っ! ……悩んでいる暇は、無いかっ」
左手を掲げ指を鳴らした。
───パチン……。
瞬間、世界が灰色に染まり、全てが停止する。落ちている瓦礫も。下で逃げ惑う人々も。呆然と立ち尽くす人も。──あ、いや、立ち尽くす人は元から動いてないか。
──そして、俺と直前まで戦っていたハナエルもそれは例外ではなかった。
こちらに掌を向けながら中途半端に静止している。
「さすがに考えすぎだったか。でもまぁ、いい訓練にはなったからありがたかったってことだな。それよりもまずはこの瓦礫だ」
細かくするか、それとも別の場所に運ぶか。正直細かくするほどの時間はない。こうして考えている今でも刻一刻と俺の時間は巻き戻っている。
だが、どこか別の場所に持っていくのも時間がかかりすぎる。ならどうするか。悩むまでもなかった。
「そのまま地面に落とす!」
人への被害が行かない場所に向けて空中にある瓦礫を一つ一つ落としていく。魔法を使って一気に落としたいところだが、この"停止世界"の中では魔法は一切使えないので、地道にやるしかないのだ。
さぁ、これからが勝負だ!
◇ ◆ ◇
なんだ、これは。何がどうなっている。
私と共に大量の瓦礫が落ちたはず。だというのに一瞬にしてすべてが地に落ちた。強化した私の眼ですら追いつけない速度。
この魔法少女は、一体……。
彼女の力を解明しなければ私が負ける。彼らの思いを背負ってここまで来たというのに。それらすべてが無に帰してしまう。それはダメだ。最後まで全力で、本気で戦わなければ、無理やり外に出してきた私の立場がない。
彼らが答えてくれたんだ。なら私も答えるべきだろう。
恐らく彼女は最強格の魔法少女。彼女を倒すことができれば、きっと……。
最後の戦いだ。彼女も切り札を切り出した。ならば私も切り札を切ろう。
『ここから、だな』
「そうだな。だが、これまで、でもある」
『ああ』
彼女もわかっている。これが最後になると。
地上に着地して、周囲に私たち以外誰一人として存在しない場所に来る。
彼女が被害を最小限にと考えたのだろう。
『さぁ、行くぞ! 魔法少女アーt……』
「あぁ。お前は強かったよ。いい勉強になった」
何を、された。
いつの間にか彼女が後ろに立っていた。
激しい痛みを感じて胸元を見る。胸にぽっかりと穴が開いていた。
『いつ、の、まに……』
「ついさっき」
ついさっき。ついさっき? 私の認知しえない速さで、私の心臓を穿ったというのか。なんだ、それは。
『……ふ、はは。ふはははは……』
「ど、どうした??」
笑いがこみあげてくる。
なんだ、それは。初めから茶番だったのではないか。同程度の力の持ち主だと思っていたが……間違っていた。
いや、恐らく戦闘技能は私の方が上回っていた。これは経験値の差だろう。しかし、彼女にはそれを上回る切り札があった。それだけの話だったのだ。
『なに、いい、戦いだった、と思って、な』
「えっ。あぁ…そう、だな。俺としても、いい経験を詰めた。それは、ありがとう」
『……ハハッ。まさか、お礼を、言われるとは……だが、一つ、気になることが、ある……』
死ぬ前に、一つだけ。彼女に聞きたい。
「なんだ? 冥途の土産になんでも答えてやるぞ」
『あぁ、ありがとう』
「ん。まぁな」
快く答えてくれる。あぁ、もしも。もしも彼女のような人があちらにもいたのなら。どれだけ楽しい日々を送れただろうか。私についてきた彼らはどれだけ救われたのだろうか。だがそれらはタラレバでしかない。今更、もう遅いのだ。
「それで、聞きたいことって?」
『あぁ……それは』
彼女の言葉に現実に引き寄せられた。だが、もう数秒後には死に絶えるだろう。早く、聞かなければ。
私は震える口を開いて彼女に問う。
『君は……〈俺っ娘〉というやつなのかい?』
「は? ……は?」
おや、何故か固まってしまった。あぁ……彼女の答えを知る余裕も無いな。
『さらばだ……〈伝説の魔法少女〉……アー、テル……』
私の意識は暗闇に包まれた。
「ちっげぇよ!? 俺は男だーーーーっ!!!!! って聞いてねぇし! あとその名で呼ぶなーーーっ!!!!!」
魔法少女は間違ってる! カグラ @kaguhika
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