第36話 決戦Ⅳ
その戦場は静かだった。動くものが無く、ただ機械が動く音のみが響いている。
誰一人として動く者はいない。しかし、戦ってはいた。情報戦だ。
しかし、片方は焦りの表情を浮かべていた。必死に、必死に相手の心の内を知ろうと努力する。
歴然だった。どちらが優勢で、どちらが劣勢か。
だが途端に思案顔になる。それは何かに気づきそうな、手に届きそうな。そんな感じだった。
そして、幾日ともとれる長くも短い時間は、破られた。
───パチン。
アーテルが指を鳴らした。ただそれだけで世界の音が全て止まる。世界は色褪せる。
一足で瞬時にハナエルの正面まで飛び、斬りつける。
ガキンッっとまるで固い何かを叩くかのような甲高い音を立てて切り裂かれる。
しかし、現れたのは機械の体。
「やっぱりか……!」
また指を鳴らして世界を戻す。
色も音も、世界は取り戻す。
「……まさか」
どこからか声が聞こえる。それは驚愕している声音だった。
「あんたの声はどこか電子的だった。そして俺の顔の表情の機微もわかる……そこまでここは明るくないはずなのに。俺の表情を知るのならば、明暗がそこまで関係ない機械か、俺の間近にいるかのどっちかだそして……」
アーテルは気づいた理由を語り、唐突に振り向き、背後を切りつけた。同時に刀は中空で静止し、金属と金属がぶつかる甲高い音が鳴る。
「お前はそのどっちもだったわけだ」
「……」
アーテルはは含み笑いを浮かべ、即座にその場から離れ、ハナエルとの距離をとる。
「……ふふふ、そうか」
絡繰りがバレてしまったというのに、ハナエルは笑った。
「うん。予想していたよりも君は強いね。瞬間移動も使えるみたいだし。このままでは私に勝ち目はないな」
勝ち目はない。彼自身がそう言っているはずなのに、どうしてか楽しそうに───いや、嬉しそうに、笑っていた。
「ならば! 今こそ見せよう! 私の真の姿を!」
大仰に手を広げ、哄笑を上げる。アーテルはその隙を逃さず、一足飛びで迫り、刀を振るう。しかし、青く輝く六角形の障壁にその攻撃は阻まれた。
「チッ!」
「変身中に攻撃をするな! せめて変身前か変身後にしろ!」
ハナエルは白い光に包まれ、輝きを増していく。
アーテルは怒られた。
「なんでだよ! 今が一番のチャンスじゃないか!」
「ぐうの音も出ない正論だ!」
『お約束とか礼儀を知りなさいよ……』
クロノアにも呆れられた。
風が巻き起こり、空間が振動する。白い光は輝きを増し、遂には見れなくなってしまう。そうして数秒か、数分経ったのちに光が収まった。
目を開けたアーテルの前にいたのは───。
赤と黒が入り混じった人型のドラゴンのようなデザインに、スリムな体型。目の部分には黒いバイザーのような保護する部分があり、全体的にごつごつしていたり、とげとげしていたりで、何とも男心を擽るフォルムをしていた。
「───カッコいいじゃねぇか……ッ!」
アーテルは思わず心の底から湧き上がる気持ちを声に出した。
『喜んでもらえて良かったよ。さぁ、最後の戦闘を始めようか』
相変わらずのイケメンボイスを響かせながらハナエルは構えた。
それに応えるように、アーテルも刀を正眼に構える。
最後の決戦が、幕を上げようとしていた。
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