第35話 決戦Ⅲ

 視点は再び上空に戻る。

 宇宙航空艦〈天雲〉の艦上。その場所で激しい戦いが起こっていた。


「っふ!」


 黒髪の13歳くらいの少女が刀を振るう。しかしそれは軽快なステップで避けられた。

 黒髪の少女が相対している相手は、大きな体格に太った体型の持ち主だった。その体からは想像もできないほど俊敏に動いており、中々少女の攻撃は当たらない。


「っく!」


 肥満体型の敵───ハナエルが出した光弾が少女───アーテルに迫る。それを右回りに回転して避け、後ろを向いた瞬間に作り出した氷の先の尖った弾をハナエルに向けて放つ。

 ハナエルはそれを光の壁を作り出すことで防いだ。一進一退の攻防が続いていた。


(中々有効打が打てないな……このままだと無為に魔力を消費するだけ……)


『時止めの力を使うのは最終手段よ』


(……わかってるよ)


 相手がどんな力を所持しているかわからない。それ故に絶対ともいえる力を彼女は行使していなかった。今までとは違う。次元の違う強さ。それを彼女は肌で感じていた。


「……ふむ。様子見はここまでにしようか」


 唐突にハナエルがそう言った。瞬間、今までとは比較にならないほどの速度でアーテルに迫った。


「ッ!?ぜぇあ!!」


 反射的に刀を振るい後退する。が、ハナエルは急停止して刀を避け、また加速してアーテルに追いついた。


「んな!?」


「ハァッ!!」


「ガッ!」


 殴り飛ばされ、反対側の壁に突っ込む───前に空中で体制を立て直し、壁に足を付けた。そのまま体全体をバネにしてハナエルに突っ込む。


「ゼイッ!」


 それを半歩左に避けることで躱し、一旦彼我の距離が開く。


『手強いわね……』


(あぁ……今までの敵とは格が違うな……)


 両社睨み合いながら先の後を読み合う。数秒後、動いたのはハナエルの方だった。

 ぶつぶつと呟きながら左手を引き、右手を掌をこちらに向けて突き出す。

 何をするつもりなのか、それを見てアーテルは危機感を覚え、すぐさま直線状から離れようとした。が、一瞬遅かった。

 何もされていないはずなのにアーテルは腹を殴られた感触を感じた。そして大きく吹き飛ばされる。


「かはっ!」


 肺の中の空気が全て吐き出される。アーテルは空気を求めて喘いだ。


「ゲホッ!」


 だが、そんなことをしている暇はない。敵は回復するまで待つほどお人よしではないのだ。

 アーテルはすぐさまその場を飛びのき、深呼吸をする。


「む。避けられたか」


「なんッだ……今、の」


 殴られた場所をさすりながら、先ほどの攻撃を反芻する。しかし、全く解明できない。


「次、行くぞ」


 そう言ってまた構えを取るハニエル。アーテルは即座に回避を選択した。

 その場を飛びのいた瞬間に地面が抉れる。


「くっ……!」


 アーテルは円を描くように移動してハニエルに狙いをつけさせないようにした。


「ふむ。いい判断だ」


 が、アーテルは吹き飛ばされた。


「ガッ……!?」


 大きな音を立てて壁にぶち当たり、床に落ちる。壁から幾つかの小さな瓦礫が落ちた。


「……まだ、立てるか。存外固いな」


 咳き込みながらもアーテルは立ち上がり、刀を構えた。


「ぐっ……ぅぁ」


『大丈夫!?今急いで回復魔法を構築してるから!』


 ふらふらとしながらもハニエルを見据えて立つアーテル。クロノアが彼女の身を心配して身体の怪我や傷を治療する魔法を構築しだした。


(……なんなんだ、こいつ。さっきのは蹴りだった。でも、アイツは近くにいなかったはずだ)


 アーテルは腹に受けた感触を思い出し、警戒しながらも思考に没頭する。


(……つまり、奴が使った力は威力を転移させるか、自身の一部を転移させるか。若しくは自身の肉体が一瞬にして伸び縮する能力、か)


 ハニエルは攻撃を仕掛けない。ただジッとアーテルを見つめるのみだった。アーテルはそれに気づき、更に思考を深める。


(何でアイツはこっちに仕掛けてこない……? 何かしら制限のある能力だからか……? それとも俺を弄んでいる……? いや、恐らくその線は無い、と思う。ならなんだ……アイツは何を待っている……?)


 アーテルは考え続ける。折角相手が待っているんだ、これを逃す手はない、そう考えていた。


(考えろ……考えろ……)


 アーテルは魔法少女になったことで向上した思考力と思考速度を存分に使う。

 魔法少女になることで得られるのは、思考力、思考速度、身体能力を向上させてくれることだ。これは魔法少女の服装に付与されている能力で、魔法で上乗せしても反発して消滅することは無い、素の能力を底上げしてくれるものだ。その向上率は魔法に比べれば低いが、成人一般男性ならば殴るだけで気絶させることが可能なほどだ。因みにアーテル自身は『服』の身体能力向上効果は知っていてもどれくらいかは知らなかったりする。『服』の情報は魔法少女学園が検証した結果なので、彼女が知らないのは無理もないと言えるが。


(待てよ……? アイツの言動を今一度思い出せ。確かアイツは……)

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