第34話 決戦Ⅱ
別の場所では、紫髪の背の高い魔法少女と、人狼のような体躯を持つ男が戦っていた。…………戦っていた?
「わうわう!」
「あらあら、いい子ね。さぁ、取ってこーい!」
魔法少女はフリスビーを投げ、それを人狼が追う。その勢いは車以上で、まさに戦車と言えるほどだ。
何故こうなったのか。それは数時間前に遡る。
魔法少女は創造生物を蹴散らしながら、敵の基地と思われる場所へ向かっていた。彼女の役割は遊撃。救助の魔法少女は他に割り当てられていたので、戦闘をすることになったのだ。それ故に創造生物を一撃で吹き飛ばしながら進んでいた。
しかし、基地までもう半分といったところで人狼に足止めをされたのだ。
魔法少女が地上を走っていると、突如として正面から突進してきた人狼の男。サイドステップでその突進を彼女は華麗に避けた。
戦闘の開幕だった。
彼女の持つ武器は円盤。鉄でも、木でも自由に素材を、質を、形状を変えることが可能だった。彼女のスタイルは闇属性の魔法を相手にかけて、撹乱しながらその武器でぶっ叩くというパワー系で、その様から「紫の鬼叩き」と周囲が呼んでいた。彼女はそれに不満を抱いていたが。曰く「可愛くない」とのこと。
余談はさておき彼女の武器はその円盤と闇属性魔法にあった。
対して人狼の男の武器はその体躯と硬質な爪、凶悪な牙だった。人狼の背の高さは2メートルを少し超えるくらいで、容易に魔法少女の背丈を超えていた。当然それ以外も大きく、長くなる。身体能力はオオカミ以上で、その俊敏さは魔法少女にとっても脅威だった。
人狼は初手こそ躱されたが、絶対的に有利に立っていた。……筈だった。慢心さえなければ。
「ひ弱そうな女だな!」
「あら、そうかしら?」
「いいぜ、お前からの攻撃、一回だけ受けてやるよ!」
「あら、いいの?」
そんな会話がなされて、あっさり人狼は洗脳された。
闇属性魔法、と言うのは基本的に精神に干渉する魔法だ。もちろん、物理攻撃もできることはできる。だが、基本属性の中で唯一精神干渉に重きを置いた属性なのだ。そしてその使い手となればそれ相応の耐性を会得しなければならない。『洗脳』は精神干渉系の中でも成功率は低い方だが、相手が油断をしている、かつ自身に余裕がある場合は他の魔法と同等の成功率となる。そして耐性が無ければ───こうなるのである。
「あなたは犬よ。今からフリスビーを投げるから取ってきなさい」
「わうわう!」
完全に飼い主と飼い犬だった。彼女は円盤をフリスビーの形状にして、最も創造生物が多い場所に向かって投げる。彼女の狙い通りフリスビーは創造生物たちの群れの方に飛んでいき、人狼はそれを追った。
創造生物達をボーリングのピンのようになぎ倒していき、フリスビーを加えて彼女の元へと戻る。これを数時間繰り返した。
結果、彼女の担当区域の創造生物はほとんど倒され、消滅していた。
しかし、『洗脳』はそう長く続かない。どれだけ長けていても丸一日が限度だ。彼女の『洗脳』は精々3時間程度。人狼の『洗脳』が切れかかっていた。
「グッ……うぅ……」
「はい。『洗脳』っと」
が、すぐさま魔法をかけなおす。当然のように犬に戻る人狼。彼女と人狼はベストマッチだった。
「さて……そろそろ用済みね……」
『洗脳』は何度もかけ直すことが可能だが、その度に耐性がついていき、『洗脳』の時間も短くなる。その為にいつかは人狼を倒さなければならなかった。
魔法少女は鉄の円盤を作り、人狼をお座りで待たせる。
彼女はその二つ名の通りに──人狼の頭を叩いた。息つく暇もなく次、次、と鬼気迫る表情で人狼の頭を殴り続ける。
人狼は訳も分からず殴られ続け、ぼこぼこにされ、数十分後には息絶えた。
「ふう……(頭の固さが)強敵だったわね……」
一息ついて、汗を手で拭う。
その現場を何も知らない一般人が見たらきっとこう言うだろう。
「凄惨な現場だった」
「正直人狼が可哀想だった」
「彼女に近づきたいとは思えない」と。
こうして人狼との戦いが終わった。………戦いだったかは疑問符が浮かぶが。
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