第33話 決戦Ⅰ
「その名で呼ぶなぁぁぁぁあああ!!!」
恥ずかしさで思わず拳を突き出した。華麗に避けられたけど。なんか最近避けられること多いな……鍛錬でもするか?
「素人だね」
映像から聞こえてきた声とはまるで違っていた。そのせいで拳を振りぬいた姿勢で固まった。超イケメンボイスである。
俺の脳内は疑問符でいっぱいになり、思わず〈大天使〉であろう人物に目を向けた。
先ほどは恥ずかしさでしっかりと見ていなかったが、体型は画面越しに見たものと同じだった。しかし、服装がところどころ違うし、何より声が違う。もう一度言う。超イケメンボイスである。
「あぁ、この声かい?実は今までボイスチェンジャーを使っていてね。本来はこの声なんだよ」
嘘つけ。
「本当だよ。まぁこの見た目でこの声は不釣り合いにもほどがあると言われてね」
そりゃそうだよ。その見た目でんなびっくり声が出てくるとは思わねぇもん。ってあれ?俺声に出してたっけ?
「君はわかりやすいね。全部顔に出ているよ」
「なん……だと……」
今度ポーカーフェイスの練習でもしよう……。
「うん。何というか……君は、うん。あれだね」
何かをこらえるような悩まし気な顔をしながら言いよどむ〈大天使〉。
「何だよ!」
「いや、敵である私の言葉を素直に聞くんだなぁ……と、思ってね」
………はっ!?そうだった!?
「気づいたのが今か……」
『……』
残念な者を見る目で俺を見る〈大天使〉。ついでにクロノアにも呆れられている気がする。
というか今こうして話している場合じゃないんだよ!
『……はぁ』
今気づいたのかとでも言うようなため息が聞こえた。
「……で、お前が親玉の〈大天使〉でいいんだよな?」
人差し指を突き付けて聞く。
「あまり人を指で差すものじゃあないよ」
何で今俺敵に諭されたの?そりゃあ俺が悪かったけどさ……。
「そうだよ。私が≪地球≫を侵略しに来た親玉、〈大天使〉”ハナエル”だ」
なら、こいつを始末してしまえば……。
「あぁ、そうだね。全ては解決し、≪地球≫に平和が訪れるだろう」
「ナチュラルに思考を読むな!ともかく、行くぞ!」
「そう簡単にやられはしないよ」
こうして最後の戦いが幕を開ける。
◇ ◇ ◇
一方、地上では。
「クソガァ!!!」
「くっ!なんて強い力だ!」
猛々しいオレンジ髪の男と、オレンジ髪ショートの魔法少女が戦っていた。
男の方は上半身だけ出した中肉中背の半裸状態で、黒、赤、オレンジが綺麗に混ざった色味をしている。手に武器は持っておらず、あるのは黒いナックルのみ。己の武器は体だと言わんばかりである。
対して魔法少女の方は、ヒラヒラとポップな感じのオレンジ色の服に身を包んでおり、正直言って動きにくそうな服装である。手に持つ武器は棘のついた棍棒で、服装と武器がデスマッチ状態だ。身長としては一般的な女性の背丈である。棍棒の長さは大体所持者の上半身ぐらいの長さだ。因みに棘に少々血がこびり付いている。見た目の違和感が加速する。
男と魔法少女はぶつかっては反動で離れ、ということを幾度か繰り返しており、戦場はもはや世紀末世界と同等である。もっと環境に配慮してほしい。
男が一度拳を振るえば魔法少女はそれを受け流すように棍棒を振るい、カウンターを浴びせようとする。しかし男は反対の手でそれを防ぐ。強い力と強い力がぶつかり合ったせいで衝撃波が生まれ、両方を吹き飛ばす。ついでに周囲の建物も吹き飛ばす。あ、20階建てのビルが崩れた。
これを何度も繰り返しており、既に数時間は経過している。因みに全く同じ動作を繰り返していたりする。もっと戦いのバリエーションを増やせよ。
また、他の魔法少女や男の援軍が助太刀しようにも、魔法少女と男にぶん殴られて助けに入れないといったことが起きている。仲間に何をしているんだろうか。
仕方なく魔法少女と男の援軍同志で戦っているが、あまりにもやる気がない。むしろ殴られたせいでケガまでして戦意喪失状態である。何をやっているんだろうか。
「っふ!……いいのかい?お仲間なんじゃあないのかなっ!」
「そりゃあおめぇもだろうがよ!」
ニヒルに笑い合いながら拳と棍棒を交わす二人。再び同じ動きをして同じ威力の衝撃波が周囲に放たれる。そばで戦っていた二人の援軍が吹っ飛ばされてどちらも戦闘不能になった。やったのは二人である。
「くっ!中々終わりが見えないな!」
「クソ!早いとこ片づけて〈大天使〉様に魂を捧げなきゃいけねぇっていうのによぉ!」
全く同じ攻防を何度もしているから終わらないのである。こんなに面白くない戦闘がかつてあっただろうか。まだチートで無双していた方がマシ……でもないかもしれない。
「さっさと死ねぇ!」
「おめぇがくたばれ!」
三度拳と棍棒を交わす二人。もう一度言う。同じ攻防をしているからである。戦闘に進展がないのは当たり前である。
しかし、ようやっと事態が動き出した。
「ッ!」
「クソッ!」
それは、二人の武器が遂に壊れてしまったのだ。棍棒は粉々に砕け、ナックルはボロボロになって使い物にならなくなっていた。
それも当然。なぜならずっと繰り返し同じ攻防をしていたせいで、ずっと同じ場所に同じ威力の攻撃を受けていたのだから。実は玄人張りの戦闘をしていたのである。頭おかしい。武器はよく頑張ったと思う。
そして互いの武器が壊れたならばやることは一つ───そう。
「じゃあな。案外お前との戦闘は楽しかったぜ」
「ふっ。僕もだよ。また戦えることを願っている」
素手での殴り合───違う。どうしてそうなった。
二人は別々の方向へと歩を進めていき、途中で仲間たちを拾って、魔法少女は自衛隊などが設営した基地へ、男は地球に降りてきた際に拠点とした場所へと戻っていった。
言うまでもなく怒られた。
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