第32話 最終局面

 暗闇の通路と部屋を抜け出してから、走り続けた。

 今まで簡素な作りの通路だったが、少し装飾された通路になっていた。進むごとに扉やその周辺が華美になっていく。

 恐らくここは幹部用の居住区だということが予想できる。

 そして───一際豪華な造りの扉に来た。金縁って意味あるのかな……。

 その重厚な扉を押し開けて(身体強化しててもめっちゃ重い)、体を中に滑り込ませる。

 中は暗闇で、あたりの様子をうかがい知ることができない。

 重すぎるドアがひとりでに閉まる。


 ゴゴゴゴゴゴ……バタン。


 その音に一瞬びくりとするも、明かりを欲して魔法を発動させようとした。しかし、それは不要だった。

 突然カッ!っと明かりが付き、俺の視界を数秒白く染める。

 次第に目が明るさに慣れてきたところで、耳障りな声が響いてきた。


「ようこそ!我が艦艇〈天雲〉の中枢へ!」


 目の前には───なんだっけ?謁見の間っていうんだっけ?よくわからないがそんな感じの部屋の作りがあった。もしかしてあれが主犯の〈大天使〉ってやつじゃあ……。あれ?でも聞いていた話と姿かたちが違うなぁ。画面越しに見た姿とも違うし……。

 なんてことを考えながら相手の次の言葉を待つ。


「……」


「……」


 誰も何も話さない。微妙な空気が流れだした。数秒間待っても、誰も話さないし、動かない。

 ふと、強化された視力で相手を見ていると、何か言いたげな視線をチラチラと俺に向けていた。

 え?何?俺も何か言えと?えー?なんて言えばいいんだ……?たしかこういう時は───、


「先手必勝!」


 俺は駆け出して相手に接近する。


「『違う!』」


 クロノアと相手の言葉が重なり、同時に駄目だしされた。なんで?

 それは兎も角止まれないのでそのまま袈裟切りにする。が、ヒラリと躱され、ローブの裾を切り裂くことしかできなかった。


「っち」


「女の子が舌打ちをするな!」


 思わず舌打ちをするとそう怒鳴られた。お前敵だよね?何でそこ気にするの?


「ふっ!はっ!やっ!」


 流れるように連撃を打ち込むが、そのすべてをひらりひらりと躱される。


「ちょっ!まっ!待て!」


 誰が敵に待てと言われて待つのだろうか。そんなことするの馬鹿か素直な奴だけである。


「待てって言ってるでしょ!?」


 怒ったのか唐突に手に持っていた杖で殴ってきた。


「はぐぅ!?」


 そこそこ力を込めていたのか、ゴォン!と音が響く。痛みに蹲り、手で頭を押さえる。


「はぁはぁ……。最近の若者は本当に礼儀がなってないな……」


 俺から少し離れてそんな言葉を漏らしたローブ姿の敵。


「ぐぅぅ……。お前のせいで脳細胞が一億個死滅したじゃないか!」


 涙目で睨んで叫ぶ。


「何の話!?」


『こいつらの会話は疲れるわ……』


 クロノアに呆れられた。


「くそっ。何故こうもペースを乱されるのだ……まぁいい。貴様の運命もここで終わりだ」


 息を整え終わったのか、大仰に手を広げてそう叫ぶ敵。


「ふははは!貴様如きに見せる姿では……」


 なんて自信満々にフラグ立てをしている間に時間を止めてサクッと首を刈る。


『あなた本当に酷いわね……』


「隙を晒している相手に慈悲をかける必要ある?」


『うーん、この……うーん』


 クロノアの唸る声が頭に響く。

 そうこうしているうちに奥の扉の前まで来た。今まで見てきた扉と何ら変わりはなく、本当にここであっているのか怪しかった。どうこうすることもできないから入るしかないけど。

 プシュッと空気が抜ける音がして扉が開く。

 扉の奥の部屋は、先ほどの部屋よりも一回り程小さく、機械に満ち溢れていた。時折ピピッと音が鳴り、何かを知らせている。

 そして、目の前に車椅子に座る人物がいた。その様はまるで、俺がすぐに訪れることを予期していたようだった。


「やぁ……よく来たね。〈伝説の魔法少女〉」

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