第31話 vs 変態
思わず絶叫をあげて後ずさる。
予想だにしていなかった姿と、暗闇から現れた○子ヘアーによる恐怖が混じった悲鳴だ。二つの意味で怖い。
「ひぃぃぃ!!!」
魔法を使うことも忘れて体を抱きしめながら後退する。ちょっと涙が出てきた。
「えぇぇ……?」
貞○ヘアーの何かが困惑したような雰囲気を醸し出す。
「ひ、ひぐっ、う、うぇえぇぇぇん」
泣いた。敵の前で泣くとか恥ずかしい以上のものだけど、パニックと恐怖で何も考えられず、泣くことしかできなかった。
『え、ちょっ!?』
クロノアの困惑している声も聞こえる。だが、泣き止むことはできなかった。
そのまま泣き続けること30分(恐らく)。○子ヘアーの人に介抱してもらい、クロノアにも慰められていた。今年一番の恥辱である。
「うううううう」
『あ~。まぁ、うん』
「……」
今度は恥ずかしさで唸る俺をどうすればいいのか見当もつかないような感じで、困惑する二人。ほんとごめんんさい。
5分くらいかけて精神を落ち着かせて(精神を安定させる魔法は?)、なんだか戦闘する雰囲気でもないのでお話をした。
彼女は黒丸影さんと言って、なんと幹部をしているらしい。この船の中では常識人に入るそうな。もう一度言う。この船の中では、だ。貞○ヘアーをやめてもらうと褐色肌の美人さんだった。───何で露出狂の変態なんだ……。
どうも彼女によると、これが最後の侵攻らしかった。全ての
俺が通ってきた下の区画は予想していた通り、侵入者を迷わせて帰らせようと考えて作ったものらしい。船員の一部が時たま行方不明になって段々と数が減っていっていたそうだ。乗組員が迷うって……どうなんだそれ……。
彼女自身はここまで入ってきた侵入者をせき止める為に配置されていたらしい。ちょっと気になってるんだけど何で言葉の端々に優しさがあるの?君ら人の魂欲してるんだよね?
話し合いが終わり、さぁどうするとなった。どうしよう。
言葉を交わしたせいで変な親近感があって戦闘とかそういう雰囲気でもない。……一応介抱してもらった恩もあるし。
黒丸影さんも同じなようで、俺たちの間には微妙な空気が流れだした。
「……あー、その。まぁ、通っていいよ」
変な空気に耐えられなかったのか、黒丸影さんがそう切り出した。微妙な顔をしながら。
「いいんですか?」
思わずそう聞く。すると、嘆息しながら言った。
「まぁ、こんな空気でどうこうって言うのもおかしいし、別に一人見逃したくらいで罰とかはないと思うし」
「いやあるでしょ」
敵を見逃して更に奥に侵入させるんだから罰ぐらいあるでしょ。しかも情報漏洩しまくってんだから。
「ほら、さっさと行って行って」
「ちょ、ちょっと!?」
抗議の声をあげるもぐいぐい背中を押されて部屋の外へと押し出される。
「それじゃあね。元気でね」
そんな別れ際の挨拶を一方的にして、扉を閉めてしまった。しかも流れるように鍵閉めてるし。
「……はぁ」
『ま、いいじゃない。一戦無くなったと思えば。消耗もなく進めるわけだし』
クロノアがポジティブに考えるように促す。
「いや、そうなんだけど。う~ん。はぁ……仕方ないか」
諦めて、振り返り駆け出した。残るは二つ。側近の変態と───ボス戦だ。
「そういえば、あの人終始裸だったな」
◇◆◇
「あんな子もいるのね……」
黒丸影は暗闇の中で独り言ちた。
今まで周りに居なかった人種。ノンケの少女。その外見からは想像もできないほど大人びていて、それでいて年相応な反応もする女の子。
初めて外の人間と会話をして、自分たちとそう変わらないことに気づいた。変態でないことも高ポイントだ。
「この戦いが終わったら……外の世界で過ごしてみるのもいいかもね……」
ふふっと顔をわずかに綻ばせ、コートを脱いだ。
────宇宙戦艦〈天雲〉が落ちるのは、この数時間後のことである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます