第30話 中盤戦

 走り続けること数十分。遂に上へと登る階段を見つけた。


「や、やっとだ……」


 既に精神がヤバい。恐らくここは敵に散々迷わせて疲労させるためのものなのだろう。そう思うことにする。そうしないと立ち直れなくなりそうだ。

 カンカンと音を鳴らしながら上っていく。

 次の階が見え、音が鳴らないように移動する。息を押し殺して周囲を窺う。

 誰もいないようだったので、素早く移動していく。

 一本道の通路で、一定間隔でドアが存在した。予想できるのは居住区。全ての部屋に住人は存在せず、鍵が掛かっていた。

 え?なんでいないのがわかるのかって?理屈は知らないけど気配を察知できるようになっていたからとしか言えない。強化した(されたとも言う)聴覚でも音を聞き取れなかったので、恐らくいないだろう。ちなみに全部確認したせいで余計時間がかかった。ついでにドアは近未来的なスライドドアだったので開け方がわからなかったのもある。

 そのまま進むこと小一時間。少し広い広間のような場所に出た。何も置かれていない、真っ白の空間。高さはわからないが、床と壁の境目があるために円形だとわかった。広さは直径20メートルくらい?感覚的にだからよくわからん。

 警戒しながら真ん中まで進む。


「おやおや……お客様ですかな?」


 唐突に前方に存在した扉がスライドして、その奥の暗闇からキザな声を出す人物が現れた。おじ様のような渋い声だった。

 姿形はイナゴ?が立っているような人?で、見れなくはないけど気色悪いと言うか。執事服も着ていて、何処かの魔王の側近みたい。声と見た目が合ってない。


わたくし、ホーションというもので御座います。以後お見知り……」


 何かを喋っている間に時を止めてサクッと首を斬る。割とグロい描写になったのに心は平静としている。そう言えば戦闘に関しても特に忌避感とかも抱かなかった。何でだ?


『戦闘服にそういう効果があるからね』


 クロノアの声が頭に響き、その言葉に納得……するか!


「え!?そんな効果あったの!?強化以外に!?てか精神弄られてるみたいでなんか嫌なんだけどっ!?」


『安心なさい。弄ってるわけではないわ。精神の周囲に魔法を張って強制的に安定させてるのよ』


 それもそれでどうかと思うけど!?

 そんな問答をしながら時を戻し、サッサと部屋を出る。え?執事服のイナゴはって?既に倒したやつのこと気にかける必要ある?

 そんな感じで進んでいくと、部屋に入ってから見た通り通路は真っ暗だった。


「〈光球ライト〉」


 すぐさま魔法を唱えて灯りを求める。天井に向けた掌から直径10センチくらいの白く光る球が浮かび上がった。これで光源を確保。

 光の球を至る所に向けて、周囲を確認する。別れ道はなく、さっきの部屋に入るまで通った道と同じようだった。

 歩くこと10分。また大きな部屋の前まで来た。前の部屋と同じくらいの広さ、大きさで、真っ暗だった。さっきの部屋の正反対みたいだ。いや、明かりがないだけなんだけど。実際照らしたら床は白かったし。

 流石にこの広さでは〈光球《ライト》〉の魔法では全体を明るくすることはできない。

 どうしようか。さっきみたいにまた現れるかも知れないしなー。と、考えていた時。前方からヒタヒタと歩く音が聞こえた。本来なら気づかないほど小さな音だったが、恐らく服によって強化されている聴覚によって、普通に聞こえた。

 その方向に目を凝らして見てみると、薄らと微かに動く影を見つけた。

 手に持った刀を正眼に構えて、戦闘態勢になる。光球は手に持ってても邪魔なので頭の上に移動させる。


『……ぷっ』


 笑うな!

 照らしている範囲に相手が歩いてきた。現れたのは───、





 ────貞○のように髪が長い、全裸の変態だった。





「ぎゃああああああああッッッ!!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る