第28話 侵攻開始

 俺は急いで支度し、外に出た。すると、大きな影が俺を───いや、ここ一帯を覆っていた。思わず空を見上げて、固まった。

 突き抜けるような青い空があった場所には、正しく巨大な船が浮かんでいた。底しか見えないので、その全容が知れる訳ではないが、とにかく巨大だった。

 呆然と見上げる。ハッと我を取り戻して、クロノアを呼ぶ。


「もしかして、あれが……」


「えぇ、恐らく……」


 二人して船を見上げ……いや、待って聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど。


「恐らく⁉︎え、どゆこと⁉︎」


「天雲の形状なんか知ってるわけないでしょ!私が貰えるのは断片的な情報だけなんだから!」


 えぇ………?何その微妙な奴……。いや、ありがたいんだけど。


「それより!……どうやって行こうかしら?」


 顔を突き合わせて相談する。住民の人たちも異変を感じたのか、みんな外に出てきて見上げ出した。


「あー……飛行魔法フライで?」


「あそこまで高く飛べるかしら?」


 飛行魔法フライと言うのは、自身の体を軽くして魔力により推進力を生み出して宙を飛ぶ魔法だ。属性としては空間もしくは風属性にあたる。飛行魔法フライは高高度になる毎に使用魔力が増大していく。因みに時間経過でも消費するので莫大な魔力が減る。長時間飛行ははっきり言って無理だ。

 正直、今の魔力量(感覚的に)では船まで着くのに難しくはない。だが、着いてからの戦闘も含めるとなると、難しい。空中戦もありえるか。その場合でも、無理だな。


「うん。無理!」


 清々しいまでに何も出来ないね!いや、待てよ……魔力か魔法で足場を作って身体強化した跳躍ジャンプでだったらいけるかも?

 と、考えていると突然頭の中で声が響いた。


『あーあー。マイクテストマイクテスト。聞こえますか?地球人の皆さん?え?もう聞こえてる?早く言ってよそれ!』


 デジャヴ。とてもデジャヴ。

 周りを見渡すと、同じように呆然と立っている人たちがいた。恐らく、家の中でもそういう人はいるのだろう。


『えー。ごほん!こちら、〈怪物の侵略者モンスター・インベイダー〉です』


 遂に向こうさんも改名しちゃったよ……。


『これより我々は本腰を入れて貴方方の地球を侵略いたします。もし、死にたく無いのであれば、我々に投降してください。そうすれば命だけは助けます』


 いや、えぇ……?

 犯行声明がそこらの犯罪者と同じだ。まぁそれは今は置いておこう。

 奴らはどうして今になって本格的に侵略を開始したのか。分からないことが多いが、取り敢えずはあの艦に行かなければ。後手に回っている現状、早くしなければ被害が拡大してしまう。


「で、とうするの?」


 その金色の瞳は俺の心を見透かすように見つめる。実際に見透かしているんだろうけど。


「決まってるだろ?───あそこに行くぞ」


 そう言って俺は頭上を指さした。


「───ジャンプで」


 笑みを浮かべて。


 ◇◇◇


 一方、艦内ではドタバタと忙しそうだった。


「おい!早く地上チームはポットの前に並べ!もうそろそろだぞ!」


「俺はどこのポットに並べばいいんだよ!」


「これが最後かも知れないんだ、目一杯食べるゾォ!」


「後にしろそんなもん!つか食べただろ!」


「おい!この揺れはなんだ⁉︎」


「知るか!誰かが暴れたんだろ!」


 ごちゃごちゃとしていて、纏まりが無い。


「全員!じゅゔもーぐッ!」


 そんな時、船員の頭上からダミ声が響いてきた。その声により、ザワザワとしていた艦内がシンと静まった。

 船員達が頭上を見上げると、そこには自称〈大天使〉とその補佐役であるローブの男が艦橋に立っていた。


「これより!我々〈怪物の侵略者モンスター・インベイダー〉は地球への侵攻を本格的に始まるッ!死ぬ者もいるだろう。悲しむ者も居るだろう。だが!最後まで、誇りを持って生きろッ!それこそが!我々が"あの地"から脱出した意義だ!その意義を忘れず、最後まで戦い抜けッッ!」


 〈大天使〉の言葉により、熱気が高まっていく艦内。静かに傾聴する船員達。〈大天使〉はそれを見て、右拳を突き上げた。


「我々の意地をッ!我々の意義をッ!我々の誇りをッ!"あの地"に住む奴らに、見せつけるのだッッ!!」


「「「「ウォーッッ!!!」」」」


 船員達は〈大天使〉に同調し、雄叫びを上げて右拳を突き上げた。


「さぁ、くぞ!最終決戦だッ!」


 『死』を覚悟した怪物達と人々を守る魔法少女ヒーロー達の戦いが、幕を開けた。




☆☆☆☆☆


 明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致しますを

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