第18話 救い
左手の親指と中指をあわせ、耳の横まで持ってくる。
ドロドロは此方を見ず、ブツブツとなにかを呟いていた。
「――――ち、違うもん。グヒュ。ノロマなのはこんな体だからだもん。グヒュ。ハゲじゃないもん。仕方無いんだもん――――」
ちょっと悪寒が背筋を走った。
いや、キモいわー。その体躯で「もん」は無いわー。
中身女の子かもしれないけど。
もうちょっと外見を気にしてほしい。
俺は頭を振る。
いやいや、そんなことはどうでも――――どうでも?ほんとに?まぁいいや。ここが決め手だから早くしないと。
フッと息を吐き、一気に中指を降ろす。
―――――...........パチンッ...........―――――
瞬間、世界が灰色に染まった。
これは、時が止まった証拠だ。現に、目の前のドロドロは動きを止めている。全くと言っていいほど動かない。
でも、悠長にはしていられない。何故ならば――――、
―――――カチコチカチコチカチコチカチコチ
俺の右目から既に時を刻む音がする。
これは、時を止めている間進む時計だ。いや、戻る時計と言った方が良いな。
この″停止世界″の中にいる間、俺の体は若返る。その時を刻むのが、この右目。″戻りの
さて、じゃあとっとと終わらせますか!
俺は左足を引いて走る姿勢になる。腰をためて一気に走り抜けれるように。
持っている刀を突きの形にもっていき、腕も同様に引く。焦点は奴の心臓部。
そして、一気に駆け抜ける。
ドパッ!
奴の後ろまで走り抜ける。
振り返ると、ドロドロの心臓部に何かに撃たれたような穴が開いていた。
俺はそれを見て――――、
―――――...........パチンッ...........―――――
時が、戻る。
◇◆◇
???side
いつも、いつも。
いつも、いつも。ボクは虐げられていた。
最弱だから。強くないから。
考える頭がないから。
特殊な力はあっても、強い筋肉はないから。
だから、虐げられていた。
そしてそれは、ボク自身も、思っていたことだった。
だから許容した。虐げらることを。
だから考えた。強くなる方法を。
ない頭で。必死に考えた。
必死に。必死に。
そして思い付いた。
そして、丁度のタイミングで、ボクに最初の任務が来た。
ボクに!一番槍が与えられた!
認められた!――――そう、思っていた。
ボクに与えられた任務は、地上に降りて人間を乱獲すること。
それは、ボクが考えていた方法にとてもマッチした。
その時は喜んだ。ボクが活躍できる、と。
でも、一度成功して、本部に帰ってきた時に、聞いてしまった。
『クククッ!アイツ本当に面白いよな』
『アア。そうだな。とても可哀想だ』
『フククク。まぁ、夢を見させてあげればいいのでは?』
『まぁ、そうだよナァ。何てったって、捨て駒だしナァ?』
『ほんと、あの人も人が悪い』
絶望した。もう、何も、なにも考えられなくなった。
それからはもう、ただ忠実に任務をこなすことを考えた。
10人、20人、30人と増えていき、最終的には50人を越えた。
最初から最後まで、自分の体に閉じ込めて。
何故、自分がこんなことをしているのかわからなかった。
すぐに〈大天使〉様に献上しなければならないのに。
ただ、何となく。献上したくなかった。
ただ、それだけだった。
何人かの魔法少女と名乗る女の子達が来た。
絶望を感じていたボクはその娘達に救いを求めた。
ボクはもう、死んでしまいたい。
でも、ボクの方が強かった。
幸か不幸か、ボクの戦略が彼女達にとって最も不利になった。
だから、求めた。もっと強い魔法少女を。
そして、ピンクの魔法少女と黒の魔法少女に出会った。
ピンクの娘はとても弱くて、他の人たちがその娘を庇ってボクに呑まれたけれど、彼女は諦めなかった。粘り強かった。
でも結局は、ボクに呑まれた。
一人の男の子の為に。
次に、黒色の娘が来た。
その娘には、強者の雰囲気と言うものがあった。
この娘なら。ボクはやっと、と思った。
でも、彼女も苦戦した。
やっぱり。ボクには勝てないんだって。
ボクは、こんなに強くなったのに。
なんでこんなに悲しいんだろう?
後、ハゲじゃないし。ノロマは仕方がないもん。
そして、彼女は――――指を、鳴らした。
気がつくと、ボクの目の前には彼女は居なくて。
ボクの後ろに立っていた。
ボクの体が崩れていく。
何故、と思って見てみると、穴が開いていた。
何かに撃たれたような穴が。
そして、悟った。
アァ、彼女がボクを殺してくれた。
やっと、悲しみを感じずに逝くことができる。
アリガトウ。アリガトウ。
でも、最後に。聞きたい。
「ボクは――――強かった?」
彼女はニヤッと笑って――――。
◇◆◇
「ああ。今までで一番、強かった」
俺がそう、答える。
すると奴は、体が崩れながらも、ニコリと笑った。それは子供のような笑みだった。
もう、醜くなかった。本当に子供のような形になった。
「アリガトウ。ボクを倒してくれて。アリガトウ。ボク、幸せダヨ―――――」
そう言うと、その体は灰となって消えた。
後に残ったのは、今まで呑み込まれた人達。その数は56人。
本当に、強敵だった。今までに、ないくらい。
多分、最初に呑まれた人からいるのだろう。
奴等は魂を欲している筈なのに。何故、彼は、自分の体に留めたんだろう?
それは、彼にしかわからない。
「うう・・・・・」
ピンクの魔法少女の娘が呻く。
俺はその娘に近づいて、
「大丈夫か・・・・・・?」
彼女が目をうっすらと開ける。
「あ・・・・なた・・・・・・は?」
「私?私はアーテル。魔法少女アーテルだ」
俺が名乗ると彼女は目をカッと開き、ガバリと、勢いよく起き起き上がった。
「うおうっ」
「まさか―――?本当に―――?」
ジッと俺を見つめる。
何だ?俺の顔に何か付いているのか?
いや、それよりも――――滅茶苦茶帰りたい。もう、しんどいのだ。大体二時間ぐらい戦ってたし、魔法もバンバン使ってたから、精神的にも疲労が半端ない。
「あー。えっと、とりあえず起きたみたいだから、俺は行くね。もう、できることもないから。それじゃあね」
俺はクルリと反転し、家へと向かう。
まぁその前に変身解かなきゃいけないけど。
すると、ピンクの魔法少女の娘が俺を引き留めた。
「ま、待って――――いえ、待って下さい」
「――――?」
彼女は真剣な顔で、口を開いては閉じを繰り返した。言おうか言うまいか、迷っているようだ。
俺は、彼女が話すのをしっかりと待つ。
数秒すると、やっと意を決したのか、話始めた。
「―――あの」
「うん」
「何故、何故貴女は――――そんなにも、強いのですか?」
強い、か。
「――――そうかな?」
「ええ、強いです。現に私たちでもてこずっていたあの怪物を、葬ったじゃないですか」
「――――」
「私は、私は強くなりたい。傲慢な自分を制御できるくらいに」
「――――そっか」
「―――」
沈黙が降りる。
彼女は不安そうにしている。
「―――ね、魔法少女が強くなるにはどうしたらいいと思う?」
俺は彼女に尋ねた。
「訓練、ですか?」
「そうだね。訓練も大事だよ。でもね、それは誰だって強くなれる方法だ。魔法少女じゃなくても、自衛隊の人達や軍人さんがやっているでしょ?」
教えを説くように、しっかりと、ゆっくり話す。クロノアに教えてもらった魔法少女が、強くなる方法を。
「た、確かに」
「訓練も強くなる方法の一つだけど、もっと強くなる方法があるんだ。それはね――――」
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