第11話 ヒロイン?

 それから数分後、少女が泣き止み改めて少女を見たとき、気づいた。気づいてしまった。

「あれ……? 春越はるごえ 亜衣あいさん……?」

「え……?」

 俺はハッとして口を塞いだ。声に出していたのだと気づいた。

 彼女も呆然としている。それはそうだろう。見ず知らずの人間が、他人の名前を知っているのだから。

 まずい! これは、バレるかも?

「何で、私の名前を……」

「あ、いや! えっと、その……」

 俺は必死に言い訳を考える。ど、どうしよう? どうすればいいんだ?

「まさか――」

 ギクッ。俺の体は固まり、動かなくなってしまった。

 ドキドキと、心臓が早鐘を打つ。

 ゴクリ。


 固唾を飲んで、少女の次の言葉を待つ。

「――魔法で分かったんですか!?」

 少女がそう言った瞬間、俺の膝は崩れ落ちた。

 ふぅーー、良かったーー。危なかったーー。

「だ、大丈夫ですか?」

 少女が此方の心配をしてくる。なんて良い子なんだ……。うちの妹にも見習って欲しいね。

「ああ、うん。大丈夫だよ」

 俺は安心させようと立ち上がり、少女に言う。

「まぁ、うん。そうだね。魔法……かな?」

 魔法とも言えなくもない。うん。嘘は言ってない。出会いが魔法的なものみたいなものだからね。

 ――――滅茶苦茶無理言ってるのは分かってるよ?

「凄いですね! 魔法って! 私も使ってみたいな~」

 先程まで泣いていたとは思えないほど元気になった。でも、その言葉はいただけない。

「ダメだよ。そんな風に気軽に言っちゃ」

「え……?」

 少女は俺の言葉に戸惑う。俺は真剣な顔で少女に諭すようにいう。これは、大事なことだ。

「魔法は、怖いものなんだ。魔法は人を容易く傷つけるほどの威力を持つし、実際、何を消費しているのかもわからない。不確かなものだ。いつ使えなくなるのか、何故使えるのかそれすらもわかってはいない。だからこそ、頼ることができない。それを軽く扱えってしまえば、いつか、足元を掬われる」

 まぁ、俺はガンガン頼ってるけどね!

 ただ、本当にわからない事が多いのだ。まぁ、何を消費しているのかは大体検討がついているけども。

「そう、ですね。確かに、その通りなのかもしれません。ごめんなさい」

 春越さんが頭を下げる。

「ううん。謝らなくていいよ。誰しも魔法は憧れがあるものだからね」

 俺がそう言うと、少女は花が咲いたかのような笑みを見せた。

「ありがとう、ございます。私も貴女みないな人に成れるでしょうか?」

 ウ~ン。俺みたいな人間か……無理だと思う。というかなっちゃいけないと思う。

「う~ん。無理……かな」

 俺がそう言うと、泣きそうになった。

「そう、ですよね……」

「ああ、違う違う!」

 俺は慌てて否定する。

「……?」

「その人のようになりたいって言っても、それは上部だけしか見てないんだ。その人の本質は実はそうではないのかもしれない。だから、もし人を目標にするのなら、その人の行動だけでなくて、信念とか思いとかそこまで見てから言った方が良いと、俺は思う。それに、君は君、でしょ?」

「そう、ですか。そう、ですね。確かに、私は貴女の本質の部分を知りませんし、分かりません。それに、私は一人しかいないということですよね?」

「うん、そうだよ。君は君にしかなれない。誰かに成り代わるなんてことは誰にもできないんだよ」

 っと、何だか説教くさくなっちゃった。

「あ、そろそろ移動した方が良いかな? 立てる?」

 俺は手を差し出しながら聞く。

 そう、今まで春越さんはずっと座ったままだったのだ。

「あ、はい。ありがとうございます。でも、その、力が入らなくて」

 一杯走ったからその疲労でかな? 春越さんの足は動かないようだった。

 う~ん。だったら――、

「よいっしょ! っと」

「ふへぇ!?」

 俺の側で可愛い悲鳴が聞こえる。

 何故、俺の近くで声が聞こえたのか?

 それは俺が今、春越さんをお姫様抱っこしているからだ。

「え! え!? あ、あの!」

「よし、じゃあちょっと我慢してね」

 俺が笑顔で言うと、春越さんは顔を赤くしながらも驚いた顔をした。

「え?」

 右足を前に出し、左足を引く。

 すこし屈んで、前傾姿勢になる。

 足に力を少し溜める。

 そして、一気に力を解放する!

 ズドン! と音がして、ビルよりも高い空中に飛び上がる。縦に一回転と1/4回転して、空気に足をつける。

 ドンッ!

 空気を蹴って最寄り駅へ一直線に飛んでいく。

 着地間際で一回転して勢いを殺し、右足を軸に左足を円を描くように動かして衝撃を殺し、着地する。

「――――ふぅ」

 一つ息を吐く。あれ? そう言えば声が聞こえないな?

 俺が彼女の方を見ると、そこには――、


 ―――ガッチリ抱きついている少女の姿があった。


「すう~~~~」

 ん? 何だこの音?

「はぁ~~~~」

「ふひゃあ!?」

 生暖かい息が突然首筋にかかり、変な声を上げてしまう。

 俺は咄嗟に少女を放り出し、首を手で押さえる。

「きゃっ」

 飛んでいった彼女は尻餅をついた。

「イタタ~! もう! 投げちゃダメだよ!」

「いや、お前のせいだから!」

 何を逆叱りしとるんじゃ貴様! 叱りたいのはこっちだ!

 俺が反論すると、彼女は少し怖い笑みで言った。

「うふ。顔を赤くして可愛い」

「うるせぇよ!」

 なんとも散々な日だった。

少女漫画から少年漫画になって最後変態で終わるの何!?

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