第8話 俺、有名人になってます!
あの動画が流れてから世界は劇的に変わった。変わり過ぎってぐらい変わった。
まず、〈
そして、俺はそれを寸前で食い止めている。
世界各地だから、移動するのがとても面倒である。……しんどい。誰か助けて!
と言っても、時間を止めての移動なので体力とか経過時間とかは気にしなくても良い。ただ、俺の精神が磨り減るだけである。
皆には一つ疑問があると思う。何故時間を止められるのか。それは――、
「ねぇ、何してるの?」
横から突然声が割り入って来た。
「え? 今までの事情と状況の確認」
俺がそう答えると、話しかけてきた美少女―――クロノアは小首を傾げた。
「確認なんてする必要あるのかしら?」
「まとめとかなきゃわかんねぇだろ」
「まぁ、そうね。一応理にはかなってるのかしら」
そう言うとクロノアは小首を傾げながら、ウンウンと唸っている。
そんなクロノアはほっといて、時間を止められる理由は――、
「あ! もうそろそろニュースの時間よ!」
またまた横から割って入ってきた。
「あ、あぁ。そう、だな……」
クロノアがニュースを見たがるのは、俺が出ているからだ。
世界各地で怪物が人を襲う度に謎の美少女が助けていたら当然有名になる。しかも、自分から名乗ってるから、ニュースやらなんやで話題になる。つまり、毎日報道されるのだ。――俺(の女の子姿)が。
恥ずかしい。死にそう。自分の恥態なんざ誰が見るってんだよ!
ああ。そう言えば、時間を止められる理由を話してなかったな。理由は――、
「あ! ほら! 今のところ! 目茶苦茶カッコイイ!」
「だあああ! もう、うるせええぇぇ! 男の子か!!」
一々割って入ってくんな! 話しにくくてしゃあないわ! 今、俺はお前の能力について話してんだから静かにしてろ! ――誰に話してるかは知らないけど。
「な、何よ。そんなに怒ることないじゃない」
ちょっと涙目だ。
「はぁ~。もういいや。それで? 今晩は何が食べたいんだ?」
「そうね。ハンバーグかしら!」
こいつ、ハンバーグ好きだな。一週間に一回は食べてる。
「分かった。じゃあ買い物行ってくるから大人しくしてろよ」
「はーい」
後から気づいたが、これが(俺の)フラグだった。
◇◇◇
人気のない場所で、一人の少女が蛙のような怪物に襲われそうになっていた。
「グゲゲゲゲゲゲ」
怪物は気持ち悪い顔で笑っている。
「ヒィ! や! 寄らないで! いや!」
少女は目元に涙を溜め、今にも溢れ落ちてしまいそうだった。
「誰か! 誰か助けて! 助けてよぉ。嫌だよぉ」
少女は後ずさる。咄嗟に周りを見渡してみるが、少女と目の前の怪物以外目に入らない。しかも、薄暗く路地の奥の方の場所。人などまず寄り付かないような場所。
そんな場所にいるのだ、誰も助けに来るはずがない。――この世界の
「分かった。ちょっと屈んどいてくれる?」
頭上からそんな安心させるような声が聞こえた。
「え?」
少女は誰も助けに来ないと思っていた。助けを求めても、こんな場所に誰も来ないと。しかし、その予想に反して助けに来るものがいた。
そして、言われたまま少女は頭を守るように屈んだ。何故こんなことをしたのか分からない。ただ安心感があった。
タンッ。と音がすると、少女の目の前に黒い影が降りた。その人影が持つものが、光に反射してキラリと輝く。
「グゲッ。何だお前は!」
蛙の怪物が言う。
しかし、人影はその声を無視して少女に向かって言った。
「そのままの体勢でいてね」
人影はそう言うと、ゆるりと一歩を踏み出した。
そして――、
「かぺ?」
――いつの間にか、蛙の怪物の後ろに立っていた。
「私は魔法少女。魔法少女アーテル。よく覚えておくと良い」
そして人影――魔法少女アーテルは、チンッと音をたてながら剣を鞘にしまった。
途端、蛙の怪物に幾つもの線が走る。
「まぁ、もう聴こえないと思うけどね」
蛙の怪物は何かを落とし、煙となって消えた。
「大丈夫だった?」
アーテルはその小石のような何かを拾いながら、少女に聞いた。
少女は先程起こった一瞬の出来事に驚いていた。いつの間にあれほど蛙の怪物を斬っていたのか。どうしてそんなにも強いのか。
――私もあんな風に成れるのだろうか。
「ん?反応が無いな。――まさか、俺が来るまでに何かされたのか!?」
と、アーテルは焦る。
少女はその焦りの声に我を取り戻した。
――――俺? 今、俺って言った? いや、そんなことよりも早く誤解を解かなきゃ。
「だ、大丈夫ですッ! と、特に何もされていませんッ!! あの、助けてくださってありがとうございます!!」
少女は食い気味に言う。
「お、おう。そうか、良かった」
アーテルがそう言いながら、ふんわりと微笑む。
「――――」
少女はその笑みにノックアウトされた。一気に頬が紅潮する。
――可愛い。何この生き物(人)。目茶苦茶可愛い。今すぐ抱き締めたい。そして、その笑顔をずっと私に――。
「だ、大丈夫か!? なんか一気にほっぺたが赤くなったぞ!? 遅効性の毒で熱にでもなったのか!?」
アーテルは少女を心配して、少女に近づく。
「――――は! い、いえ! これは別に毒とか熱とかではないので大丈夫です!」
少女は慌ててそう言って、少しアーテルとの距離を取った。
――――めっちゃ良い匂いした。めっちゃ良い匂いした。めっちゃ良い匂いした。めっちゃ良い匂いした。めっちゃ良い匂いした。めっちゃ良い匂いした。めっちゃ良い匂いした。めっちゃ良い匂いした。
「こ、今度はどうしたんだ? 鼻息荒くして。ちょっと怖いぞ」
と、アーテルは引き気味に言う。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫です。だから引かないで!」
「うぅーん。まぁ、良いや。大丈夫そうだし。帰るよ、それじゃあね!」
と、アーテルはすぐにそう判断すると、少女から逃げるようにその場を去った。
「あ、ま、待って! せめて、せめて住所だけでも!」
と、少女はアーテルに向かって手を伸ばしながらわりと危ないことを言った。
こうして、一人の変t――ゲフンゲフン少女が救われた。
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