第3話 魔法少女アーテル

 「さぁっ! 今すぐ変身の呪文を唱えて!」

 えっ? 変身の呪文? そんなの―――――と思ったら何か頭に思い浮かんだんだけど。どうゆうこと? ねぇ? 誰か教えて!? 俺の頭どうなっちゃったの!?

 俺は混乱しながらも、少女の言う通りに呪文を唱えた。

「...........『時と黒』を司る『ノワール』よ! 今、俺の願いに答えろ! 願うは『生』! 願うは『時』! その力で、今! 人を助ける! の名は――――魔法少女『アーテル』!」


 ――――メッチャ恥ずかしいんだけど!? えぇー……。何なの? この厨二まっしぐらな言葉の羅列。

 などと考えていると突然、俺を黒の輝きが覆った。

 ────黒の輝きってなんだ。自分で言ってて意味が分からないけどそうとしか表現できない。

 そしてその中で黒いフリフリな服を手、足、胴体、首、頭の順で着せられた。

 ――――え? え? 何これ? ん? んん?

 俺は頬をひきつらせる。

 いやまぁ魔法少女って言ってたから、こうなることは予想してたけど……。

「あら。可愛いじゃない」

 は? カワイイ? 誰が? ああ、君のことか。うん確かにカワイイよ。うん。

 少女がこちらを見て言ったが、俺は現状を認識したくないので自己解釈した。

「私のことじゃないわよ。あなたのことよ」

 そういう言葉が欲しいんじゃねぇんだよ!

 俺は心のなかで慟哭する。と、またしても突然、頭に何かしらの映像が浮かんだ。

 いやほんと俺何されたの!?

「それよりも、戦い方は分かったわね? それじゃあ、今から十秒後に動くから」

 え? 早くない? と言うかぶっつけ本番? それは酷くないか? あ、待って。ちょっと待って。これ周りの人に見られるよね? この中で戦うの? マジで? ・・・・・オイオイオイ、俺死んだわ。

 と考えているともう十秒経ったのか、周りの景色が動き出した。そう。動き出した。つまりは、俺の目の前にいる鬼も動き出すわけで。振りかぶっていた金棒が、俺に向かって振り下ろされた。


◇◇◇


 ドガアアアァァァアアアンッッッ!!!

 物凄い力と速度で振り下ろされた為か、床にヒビが入り砂埃が巻き上がった。

 鬼は手応えを感じたのか、得意気な笑みを見せている。

 周囲に居た人間は少年が死んだと思い、顔を青ざめさせる。次は私たちの番だ、と。

 鬼は相手の亡骸を確認せず、逃げ惑う人々に近づいていく。

 そして、一人の男に近づいた。

 男は鬼が近づいてきたことに気づき、必死に逃げようとする。しかし、鬼は先回りして男の進行方向を塞ぐ。

 男の顔は青ざめるを通り越し、真っ白になり、心の中で絶望した。

(嫌だ……! まだ、死にたくない……。でも、あぁ。これは、無理だ……。奇跡が起きない限りは、もう……。すまない、結、百合)

 男は心の中で自分の妻と娘に謝り、目を瞑った。その残酷な結末を受け入れるように。

「ガアアアァァァアアア!!!」

 鬼が叫び、金棒を振り下ろす。周りの人間もこの後の悲劇を見まいと、目を瞑る。

 しかし―――――、

 ガキイイィィィイインッッ!!

「え?」

 男と周りの人間の耳には金属同士がぶつかった甲高い音が入ってきた。

 男は驚きの声を口にする。そして目を開ける。

 そこに立っていたのは―――――――、


 ――――――――黒いゴシック和服を着た黒髪の美少女だった。


◇◇◇


 ―――アッッブネエエエエエエエ!

 いや、マジで危なかった。と言うか死にそうになった。怖かった。

 俺は金棒が迫ってきたとき、咄嗟に全力で後ろに後退した。自分でも驚くほどの身体能力と反射神経だった。その後に、金棒に込められた力を見てさらに驚いた。当たってたら木っ端みじんどころじゃないぞ。

 いや、と言うよりもこの服なんだ? え? 何でこんなに露出度高いの?

 しかも―――無い。俺の……が……無い。

 流石に落ち込む。しかし時は待ってくれない、呆然としていると鬼が動き出して、近くに居た男性が次の標的になった。

 ―――やば! 助けなきゃ!

 俺は自然とそう考えて走りだし、一瞬で男性の前に躍り出た。鬼が驚いた顔をするが、俺はそれどころじゃ無かった。

 ――――どうしよう!? 咄嗟に出てきちゃったけど! 武器とか無いの!?

《あら、武器なら有るわよ》

 え? 有るの? マジで!? じゃあ早速! ってどこから声が!?


《右手を出して言いなさい。この言葉を》


 話を聴けよ!! ええい! また恥ずかしい言葉の羅列か!! ぐぬぅ!!

「私の呼ぶ声に応えて!顕現せよ!『ノワール』!」

 叫んび腕を真上に上げた瞬間、翳した手の前に光が集まり、一本の剣が顕れた。

 黒く美しい長剣。柄の部分には黒い宝玉が嵌め込まれ、光を反射してキラリと光っていた。俺は咄嗟に剣を掲げた。そこに丁度振り下ろされた金棒が当たり、金属同士がぶつかる音色が響き渡る。

 ガキイイィィィイインッッ!!

「グッガアアア???」

 鬼が反動に後退り、声を上げるが俺の思考は別のところにあった。

 ―――武器出すたびに恥ずかしい台詞毎回言わなきゃならないの!?

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