10-4

「水野はさ、あたしのこと馬鹿にしたりしないんだね」


「えっ?」


 ふいに佐藤さんが口を開いた。


「女子が女子のこと好きって、好奇の目で見られたりするし」


「僕は・・・ちょっとびっくりはしたけど・・・」


「あのさ、もう少し、話聞いてくれる?」


「うん」



***



「あたしね、女の子が好きなの。気づいたのは小学校の高学年のころだった。周りは好きな男子の話で盛り上がってたし、思春期になると異性のことが気になるって教科書にも書いてあったし・・・だからあたしは何かがおかしいんだって思ってた。


 女子が好きってことは、あたしは本当は男子なのかなって思ったこともあったよ。でも、女子として生きていくのに特に何の違和感もなかったんだよね。だから自分のことがわかんなかった」


「大変だったんだね」


「うん・・・まあ、今はあたしみたいな人間は他にもいるって、いろいろネットで調べたりしてわかったから、多少生きやすくなったけど。でも、周りから『彼氏作りなよ』とか言われたりすると、正直しんどいよね。みんな悪気はないんだけど」


「そっか・・・」


「あたしのこと、誰かにちゃんと話したの、今日が初めてだった」


「そうなの?」


「うん。水野には言ってよかったと思うよ」


「なんで?」


「何となくね。水野なら受け入れてくれる気がしてたし」


「そうなの?」


「うん、何となくね」


 僕たちは再び黙って窓の外を見て、沈んでいく夕日を眺めていた。

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