(10) それぞれの想い

10-1

「そうか。あの子のことを守れなかったのか・・・」


 櫻木さくらぎさんが連れ帰られてしまったあの日、僕は気づいたらカズおじちゃんに会いに行っていいた。カズおじちゃんは僕の顔を見て、何も言わなくても全てを悟ってくれた。


「ごめん、カズおじちゃん・・・」


「俺に謝ってどうする。謝るなら小鞠ちゃんにだろ」


「・・・」


 僕は隠すこともなく泣いた。


「とりあえず、これでも食え」


 カズおじちゃんは特大コロッケを差し出した。


「食欲なんて・・・」


「いいから食え」


 僕は仕方なくコロッケを受け取り、かぶりついた。櫻木さんと一緒にコロッケを食べ歩きしたこと、カズおじちゃんから教わった料理を作ってくれたこと、さまざまなことが思い出されて、涙が止まらなくなった。


「どうだ、うまいか」


「うん・・・美味しい・・・」



***



「カズおじちゃん・・・僕はどうすれば良かったのかな・・。どうしてれば櫻木さんを・・・」


「そういうのは嫌いだ」


 突然、カズおじちゃんの口調が険しくなった。


「えっ・・・?」


「俺はそういう結果論は嫌いだ。どうしていればよかったかなんか考えても仕方ねえだろ」


「それは・・・そうだけど・・・でも・・・」


「陸久、これからどうするかを考えろ」


「・・・これから?」


「そうだ。俺みたいになりたくなかったらな」


 僕はカズおじちゃんの目を見た。その瞳の奥に悲しみが見えるような気がした。


「これから・・・」


「まさか、あきらめたわけじゃねえよな?」


「・・・」


 カズおじちゃんに言われて僕はハッとしたのだった。


「カズおじちゃん・・・ありがとう」


「なんだ急に、らしくねえな」


「僕、がんばるよ・・・」

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