9-3

「うわー本当だ、何も遮るものがないね!」


「だろ?人ごみもないし最高だろ?俺に感謝しろよ」


「うん・・・すごく嬉しい!ありがとうカズくん」


 小夏の笑顔にやられた。


「う・・・うん、まあ・・・」


 俺は照れ臭くなって鼻の下を掻いた。



***



「あ、花火上がったよ!」


「お、ほんとだな」


「ほんとに良く見えるー」


 俺たちは屋上に用意してあったベンチに腰掛けていた。そして俺はタイミングをうかがっていた。もちろん、小夏に告白をするタイミングだ。しかしなかなか上手くいかず、適当な話が続いていた。


「来年は俺らも大学生か」


「受験失敗しなければ、でしょ?」


「まあ、そうだけど・・・大学生になっても小夏とこうやって祭りに来られたらいいなって思う」


「大学生に・・・なっても・・・」


 小夏が俯いた。


「小夏?」


「・・・」


「どうした?具合でも悪いのか?」


 小夏は下を向いたまま首を振った。しかしよく見ると肩を震わせ、鼻をすすっている。小夏は泣いていた。


「小夏!?俺、何か悪いこと言ったか?」


 わけがわからず、俺はとにかく小夏の背中をさすることしかできなかった。


「ち・・・ちがうの・・・カズ・・・くんは・・・悪くない・・・の」



***



 5分ほどたって、小夏は落ち着いたようだった。


「ごめんね、いきなり泣いたりして」


「いや、それはいいけど・・・理由は聞いてもいいのか?」


「うん・・・話さなきゃって思ってたから。とても大事な話」


「お・・・おう、そうか」


 小夏が俺のほうを見た。


「あのさ、前に私の親戚が会社経営してるって言ったことあったじゃん?」


「ああ、なんか、服作ってるとか言ってたか?」


「うん、そうなの。それがまあまあ大きい会社なんだけど、跡継ぎがいないらしくて私を養子にしたいんだって」


「そうか・・・で、まさかそれで遠くに行くとか?」


「ううん、そういうことじゃなくて、大学には普通に行くよ。カズくんと同じ大学を受験するつもり。でも・・・もうカズくんとは一緒に遊べないの」


「え・・・どういうことだ?」


「・・・実は私・・・婚約するの・・・」


 花火の音がドーンと響いた。

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