(9) カズおじちゃんの恋(高校時代)

9-1

 俺の名前は小野國和也おのくにかずや。高校3年生だ。今は高校最後の夏休み真っ只中。そして俺は今、公園のブランコに乗ってある人を待っている。


「カズくーん!」


 手を振りながら向こうのほうからやってくる女子がいる。彼女の名前は高山小夏たかやまこなつ


「お、小夏!遅いぞー」


「えーカズくんが早いだけじゃん」


 そう言いながら近づいてくる小夏は浴衣に身を包み、今日は一段と大人っぽい。小夏は超が付くほどの美人だった。学校では当然のようにファンクラブがあるし、その美しさを拝もうと他校からもファンが押し寄せるような始末だ。そんな小夏がなぜ俺と一緒にいるのか、それは俺と小夏は幼馴染で、小さいころから一緒に遊ぶのが普通だったからだ。


「ねえ、どうかな?」


 小夏が浴衣の袖を持ちながら一周回ってみせた。


「ああ、まあ、いいんじゃない?」


「何それー。そんなんじゃモテないぞー」


「いいんだよ、別にモテなくても」


「ふうん」


 別に俺は多くの女子にモテたいとは思わなかった。なぜなら俺がモテたいのはただ1人、小夏だけだったからだ。


 小夏のことを意識し始めたのは中学生のころだった。中学生になった小夏は男子からモテまくり、告白されることが日常茶飯事となっていた。そんな様子を見て、嫉妬心を抱いている自分がいた。最初はその気持ちの意味が分からなかったが、いつしかそれが恋心だと気が付いたのだった。


 今日は小夏と2人で近所の祭りにきた。今日小夏を誘ったのはただ遊びたかったからではない。今日こそは気持ちを伝えるため、つまり告白をするためだった。


「小夏、何か食うか?」


「そうだなーコロッケとかないのかな?」


「祭りでコロッケってあんまり聞いたことないぞ」


「じゃあラーメン」


「お前ほんとラーメン好きだな」



***



「いただきまーす」


「結局ラーメンしかなかったな」


「うん、残念。コロッケ食べたかったなー」


 俺と小夏は2人でベンチに腰掛けていた。


「小夏ってそんなにコロッケ好きだったっけ?」


「うーん、普通ぐらいだったんだけど、この前カズくんがコロッケ作ってくれたじゃん?あれ食べてから好きになっちゃったみたい。カズくんのコロッケすごくおいしかった!お店だせるよ」


 小夏が嬉しそうな顔でこちらを見た。とっさに俺は目線をそらした。


「そ、そんなコロッケぐらいいつでも作ってやるよ。何ならいずれは肉屋でも開いてコロッケ売ってやるわ」


「えーお金とるの?」


「店なら当たり前だろ」


「ケチー」


 そう言って小夏は少し寂しそうな顔をしたので驚いた。


「なんでそんな顔するんだよ。ただの仮定の話でそんな落ち込むなよ」


「えっ!いや・・・そうじゃないの。ごめん・・・。ねえねえ、ちょっと遊びに行こうよ。金魚すくいとかさ、そういうのやりたい」


「はあ?ガキじゃねえんだから」


「えーいいじゃん」


「ったくしょうがねえな」

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